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三章
書類の山を見ると……
しおりを挟む後日、見学に行こうと言われて連れてこられたのは、宰相室だった。……なぜ?
あんまり魔術をメインに使っているイメージはないですけど。
疑問に思いつつ隣にいるヴォルフス様を見上げると、ヴォルフス様は少しバツが悪そうに苦笑した。
「宰相がリアに見学に来て欲しいと駄々をこねてな……。あまりにもしつこいから断れなかった。すまん」
「いえ、私は全然構いませんよ。普通に考えたら、宰相さんのお仕事を間近で見られる機会なんてそうないでしょうし。むしろ私が行っちゃってもいいんですか? 重要な書類とかあるでしょうし……」
「ああ、それは問題ない。リアは情報漏洩なんかしないだろ?」
あっさりと言い放つヴォルフス様。私に対するその信頼はどこからくるんでしょう……。
「そりゃあしませんけど……。そんな軽い感じで許可しちゃっていいんですか?」
「はは、本当はダメだが、リアだから問題ない」
「むぅ」
軽ーく笑ってくれちゃってます。もう、こんなに信用されちゃってたら意地でも口を滑らせるわけにはいきませんね。
その気持ちが無意識に表れたのか、パッと自分の口を両手で塞いた。
なにも言いませんよ! と目で訴えると、ヴォルフス様がブホッと噴き出した。
「ははっ、かっ……かわいすぎる……!! まだ見学に行ってないんだから今口を塞いでも無駄だろうに……!」
「あ」
それもそうですね。盲点でした。
笑われると恥ずかしくなってくる。私は軽くヴォルフス様を小突いた。
「すまんすまん。リアがあまりにもかわいくてな」
「かわいいって言っておけば許されると思ってませんか?」
「思ってないぞ? かわいいのはただの事実だし」
そう言われて頭を撫でられてしまえばもう何も言えない。
「でも、おかしいです……私、前はもうちょっとしっかり者だった気がするんですけど……」
最近こういう気の抜けた言動が自分でも多い気がする。もうちょっと気を引き締めた方がいいですかね……?
そう言ってヴォルフス様を見上げると、優しい眼差しと目が合った。
「緊張が解れて本来のリアが出てきてるんだろう。いいことだ。もっと気の抜けたところを見せてくれ」
「それは……どうなんですかね……」
見せようと思って見せられるものではないですし。
「――ちょいちょ~い、お二人さんそろそろいい~?」
「わぁ!」
いつの間にか後ろのソファーに宰相さんがいた。自分の膝に肘をつけて頬杖をつき、半眼でこちらを見ている。
「いつからいたんですか……?」
部屋に入った時は誰もいなかったのに。
「さっきからいたぞ」
私の疑問に答えてくれたのはヴォルフス様だった。というか、ヴォルフス様は気付いてたんですね。
「気付いてたんなら早く二人の世界から出てきてほしかったなぁ」
「声を掛けられるのを待ってた」
「そっか、じゃあどっちもどっちだねぇ」
のほほんと言う宰相さん。
宰相さんはどっちもどっちと言ってくれたけど、普通に私達の方が悪いと思うので謝っておいた。
「――じゃあ早速僕達は仕事を始めるね。姫様が来てくれたおかげでみんなやる気満々で助かるよ。特にアルフは娘にいいところ見せようと張り切ってるし」
「当たり前だろ」
宰相補佐官であるお父さんは早速山盛りの書類を宰相さんの執務机に運んできている。薄っぺらい紙でこの量って……どれだけお仕事があるんですか……。
急にお父さんのことが心配になった。いつもケロッとした顔で帰ってきますけど、こんなにお仕事が多いなんて……。
てててっとお父さんの元に向かう。
「お父さん、大丈夫ですか? 働き過ぎてませんか?」
「あ~、大丈夫大丈夫。姫様にいいところを見せるためにここ数日みんな怠けてただけだから。英気を養ったおかげで今日はみんな元気だよ~」
「エリック! それは内緒だろう!」
「そうですよ閣下!!」
さらっと数日おサボりしてた事実を宰相さんが暴露すると、お父さんを含めた補佐官の皆さんからブーイングが飛んできた。
内緒の話だったみたいですね。
一応皆さんの上司にあたるヴォルフス様は注意するかと思いきや、普通に笑っていた。期日通りに仕事がこなされていれば構わないとのことです。とんだホワイト職場ですね。
それから、宰相さん達は物凄いスピードで書類を捌いていった。書類の山がみるみるうちに数を減らしていく。
魔術の出番なんてないですね……。
私が呆気に取られている間にも宰相室の皆さんは見事な連携で仕事をこなしていく。
……うん、分かってはいましたけどここに私は必要なさそうです。
私の出番はない……。分かってます。分かってるけど、書類の束を見ていると自分の中の何かが疼く。
――そう、ワーカーホリック時代の何かが――。
「――わ、わたしもなにかお手伝いしたいです!!!」
思わずそんな言葉が口をついて出て、私は書類の山に飛び付いた。
「……ああ……」
ワーカーホリック状態が再発した私の後ろでは、ヴォルフス様が「やっちまった」というように頭を抱えていたという。
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