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二章
ほんの少し違う日常
しおりを挟む私も大分成長した体に馴染み、いろいろなことが落ち着いてきてやっと日常が戻ってきた感じがした。
だけど、以前の日常とはちょっと違うこともある。
うちにやって来たヴォルフス様と隣同士に座り、名前を呼ぶ。
「ヴォルフス様」
「もう一回呼んでくれ」
「ヴォルフス様」
「もういっか……」
「な~にしてんの陛下」
いつの間にか来ていたハルトさんがヴォルフス様に飽きれた視線を向けていた。
その後ろにはにこやかな笑みを浮かべているお母さんもいる。お母さんがハルトさんを出迎えたようだ。
「そんなに名前を呼ばれるのが嬉しいの? 僕も陛下じゃなくてヴォルフスって呼んだ方がいい?」
「お前に呼ばれても嬉しいわけないだろ。リアに呼ばれるからいいんだ。な~?」
「な~って言われても、私は同意し辛いですよ」
正直、名前をちゃんと呼んだだけでここまで喜んでもらえると思ってなかったし。何がそこまで刺さったんでしょう。
「ハルトさん、夕飯はもう食べました? よかったら食べていきません?」
「え~、食べる食べる~!」
朝食も食べ忘れちゃったんだよね~とハルトさん。また何かの研究に夢中になってたんですかね。
不摂生しているだけあってハルトさんは竜人の中でも細身だけど、竜人の平均身長はあるし普通に筋肉も付いている。ハルトさんは竜人に生まれてよかったですね。
割と食事を抜きがちなハルトさんだけど、食べること自体が嫌いなわけではないらしく、すっかりお母さんの料理に胃袋を掴まれている。
お城で出てくるような凝った料理よりも家庭料理の方が好きらしい。
「うふふ、ハルトさんも少し料理を作ってみます?」
「え!? やるやる~!」
研究者らしく好奇心旺盛なハルトさんは喜んでお母さんの申し出に飛び付いた。いそいそとお母さんに差し出されたエプロンを身に付けている。
私が料理のお手伝いをしたいって言った時はあんなに渋られたのに……。
愕然とし、口を開けたまま二人を見ているとヴォルフス様が隣で苦笑した。
「リアは色々と危なっかしいからな、みんな心配なんだよ」
「むぅ」
解せません。
ヴォルフス様にもたれ掛かって二人が料理をする後ろ姿を眺める。
全く料理をしたことがなさそうなハルトさんだけど、意外にも堂に入った包丁捌きだった。要領よさそうですもんね。
拗ねていると、ひょいっとヴォルフス様の膝に乗せられた。未だ体格差は十分あるから余裕で膝の上に座れちゃう。
「……ヴォルフス様、流石にもうお膝抱っこは……」
「ん~? ちょっと前までは普通に膝に乗ってくれてただろ? 外見年齢は多少変わったが、精神年齢は変わってないわけだし」
「まあ……それはそうですけど……」
「リアが嫌ならやめるが?」
「……別に、嫌なわけではないです……」
周囲の生温かい目がちょっと恥ずかしいだけで。
でも確かに、外見年齢が少し成長したからって、意識して大人びた言動をしないといけないわけじゃないですよね。うん。
私はヴォルフス様の胸に寄り掛かった。遠慮なく体重を預ける。
「お? かわいいなぁ」
ヴォルフス様が私のお腹に腕を回し、頬を頭にスリスリしてくる。ふふ、ちょっとくすぐったいです。
そうやってヴォルフス様と戯れていると、いつの間にかハルトさんがジーっとこちらを見ていた。
「……僕達が真面目に料理してるのに二人にイチャイチャしないでくれる~?」
「イチャイチャ?」
「イチャイチャなんかしてないが」
イチャイチャという言葉がしっくりこなくて二人そろって首を傾げる。
するとハルトさんの目が据わった。
「もうやなんだけどこの二人……」
「うふふ、仲がいいのはいいことよ」
ハルトさんの後ろではお母さんが楽し気に微笑んでいた。
そんな会話をしていると玄関の扉がガチャリと音を立てた。
「ただいま~」
「あ、アルフおかえりなさい!」
「お父さんおかえりなさい」
お父さんが帰ってきたので、お母さんが真っ先に玄関に向かって抱き着いた。お母さんが離れたら次は私がハグをしてお父さんを出迎える。
「ただいまリア。今日も楽しくすごしたかい?」
「はい!」
そんな私達の様子を後ろからハルトさんとヴォルフス様が羨まし気に見ていたらしい。
「絶世の美人な妻と娘がハグで出迎えてくれるって、理想の家庭だねぇ」
「ああ、正直かなり羨ましいな」
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