生贄令嬢は怠惰に生きる~小動物好き竜王陛下に日々愛でられてます~

雪野ゆきの

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二章

リハビリをします!

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「ほ~らリア~、こっちだぞ~」
「うぅっ」

 満面の笑みのルフス様が両手を広げて待ち構えている。まるで子煩悩なお父さんのような様子だ。
 そんなルフス様に向かって私はプルプルと足を震わせながら歩く。そう、私のリハビリにルフス様が付き合ってくれているのだ。
 私が一か月も寝込んでいた一件からルフス様はますます甘くなり、お母さんとやろうと思っていたリハビリにも率先して手伝ってくれている。親バカ気味なお母さんも少し引き気味なくらいだ。

 一応絨毯が敷かれている場所で歩く練習をやっているけど転びそうになったら一瞬でルフス様が飛んできて抱き留めてくれる。おかげで、今まで一度もリハビリ中に転んだり膝をついたことはない。本当に過保護だ。

 そして私のリハビリだけど、これがまた難航していた。
 元々ない筋肉がさらに減って、さらに手足の長さが変わってバランスが取りづらくなったのだ。さらに体力も落ちた。だから長時間のリハビリはできない上に、体力がある程度戻るまで自宅に帰るのは難しい。子竜になって帰れば
いいって言ったんですけど全員からダメ出しされました。ただでさえ弱り切っている私の体に負担をかけるのは危険とのことです。
 仕事は終わったけれどもう少しだけここに滞在することになりそうだ。

 ゆっくりと歩いてルフス様のところまでたどり着く。すると脇に手を差し込まれて抱き上げられた。

「よく歩けたな~! 昨日よりも速いぞ~!!」
「あ、ありがとうございます」

 高い高いをして大袈裟に私を褒めたたえるルフス様。
 ……あれ? 私、大人っぽくなりましたよね? 背も伸びたし。この前までの容貌だったらまだ分かりますけど、今の私は割と年相応の見た目です。……まだ少し幼いかもしれませんけど。
 だけど、ルフス様による私の扱いは背が伸びる前と何も変わらない。相も変わらずかわいいかわいいと猫かわいがりされている。

「……なぜ?」
「どうしたんだリア」
「私の扱いが変わらないことを疑問に思ってたところです。一応結構成長したんですけど」
「なんだそんなことか。リアの身長が10cmくらい伸びたところで竜人からすればそんなに変わらないぞ。それに、リアの愛らしさは見かけだけじゃないからな」
「そ、そうですか……」

 私的にはバランスが取れなくなるくらい大きな差だったんですけどね。でも確かにルフス様からしたら140cm弱が大体150cmになったくらいじゃ微々たる差かもしれない。
 私としてはホッとしたような、肩透かしのような微妙な気持ちですけど。

「じゃあもう一度同じ距離を歩けたら今日のリハビリは終わりにしよう」
「はい」

 ソッと床に着地させられ、ルフス様が大股で数歩離れる。そしてしゃがむと、先程と同じように両手を広げた。

「ほ~らリア~おいで~」
「はい……」

 疲れを訴える足を叱咤してルフス様の元へと歩き出す。


「―――うわぁ、陛下ほんとに姫さんにデレデレなんだな」
「?」

 ようやくルフス様のところまで辿り着き、大袈裟なくらい褒められていると聞き馴染みのない声が耳に飛び込んできた。
 声のした方を振り向くと、一人の男性が腕を組んで入り口の壁に寄り掛かっていた。ルフス様の側近にしてエルゼリアの上司のゼキさんだ。
 エルゼリアからよく話は聞くけど、直接話したことはあんまりないんですよね。

「まるで生まれたての子竜を抱えた親竜だな」
「光栄だ」
「別に褒めてねぇんだけど……」

 あからさまなからかいの言葉をルフス様はなぜか褒め言葉と受け取ったようだ。

「今のリアが子竜と取っ組み合いの喧嘩をしたら容易に負けるぞ。それくらい優しく扱わなきゃならんのだ」

 いや流石に子竜には負けないですよ……と思ったけど、あの子達結構力強いんですよね。確かに一瞬で負けちゃいそうです。
 否定しない私を見てゼキさんはギョッとした。

「え? 姫さんそんなに弱ってんのか? ベッドで寝てた方がいいんじゃないか?」
「やっとベッドから出られるようになったところだ。また逆戻りさせるな」

 やや呆れたようにルフス様が返答する。

「あ、そうなの。エルゼリアは図太いし健康そのものなのに、姫さんは大分儚い感じだよな。血縁でも結構個体差があるもんなんだな」
「竜人でもそんなもんだろう」
「まあな」

 側近だけあって、やっぱりお互いに気を許しあってそうな空気を感じる。

「ルフス様、リハビリも終わりましたしゼキさんとお話してはどうでしょうか。ゼキさんはお仕事でルフス様の元を離れがちだったようですし、積もる話とかあるんじゃないですか?」
「積もる話なんてない。それに、俺が離れたら誰がリアの介助をするんだ? せっかく堂々とリアを構い倒せるチャンスなのに」
「どうせ普段から構い倒してんだろ」

 ゼキさんのぼやきを華麗にスルーしたルフス様は、鼻歌を歌いながら私をソファーまで運んでくれた。













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