生贄令嬢は怠惰に生きる~小動物好き竜王陛下に日々愛でられてます~

雪野ゆきの

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二章

不調です!

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 張り切って畑に最後の魔術をかけて回った後から、異変は起こり始めた。

 食事の手を止め、首を傾げる。

「……?」

 やっぱりおかしい。なんだか体が変だ。
 明確になにがとは言えないけど、違和感が拭えない。
 う~ん。

「リアどうした? やっぱり、午後だけで全部の区を回ったのは無茶だったんじゃないか? 今日はもう寝ろ……あ、いや、やっぱりちゃんと食事を摂ってから寝ろ」
「はい、そうします。むぐっ」

 動揺したルフス様が私の口にサラダに乗っていたゆで卵を突っ込んできた。動揺してても的確に栄養価の高い食材を選ぶの流石ですね。
 むぐむぐとゆで卵を咀嚼しながら、私は冷静にそんなことを思った。




「リア、本当についていなくて大丈夫か? 俺が嫌ならメイドを呼ぶが」
「大丈夫ですよ。ちょっと違和感があるだけで熱も出てませんし」

 一晩中ついてようとするルフス様の背中を押して部屋から追い出す。ルフス様だって諸々のお仕事で疲れてる筈なのに、一晩中私についてたりしたらそれこそ体調を崩しちゃう。
 ルフス様こそゆっくり休んでください、と言ったら、何かあったらすぐに呼ぶようにと言い残してルフス様は自室に戻って行った。

 ルフス様が出て行った後、私は大人しくベッドに寝そべる。
 きっとこの違和感はいっきに魔術を使いすぎたせいだろう。魔術をかけて回ってる時は多分アドレナリンが出ていて元気だったんだけど、今になって疲れがドッとやってきた。
 もう私の役目は終わっただろうし、明日一日、ちょっと休ませてもらおうかな……。

 ―――そんなことを考えながら眠りについたけど、私が寝込むのは一日じゃ済まないことをこの時はまだ知らなかった。



***




 喉の痛みで意識が浮上した。ただの乾燥かと思いきや熱が出ている感じがする。しかもなぜか体全体が痛い。
 うぅっこんなことならルフス様の申し出を固辞しないで誰かについてもらった方がよかったかもしれない。今さら後悔しても遅いけど、今度からはそうしよう。

 外はまだ真っ暗だから、夜勤の人以外はみんな寝ているだろう。夜中に騒ぎを起こすのも迷惑だろうし、子竜になってとりあえず朝までは耐えよう。
 そう思って子竜の姿に変化しようとしたけど、私の姿が変わることはなかった。

 どうして……? 子竜になれない……。

 初めての事態に私は激しく動揺した。ただでさえ熱で暗くなっていた気分がさらにマイナスの方向へ向かう。
 子竜の体ならまだ朝まで耐えられただろうけど、人間のままじゃあ人を呼ばないと無理だ。なにより人を呼ばないと、後日方々から怒られることになる。それは勘弁です。

 なんとかベッドサイドのテーブルに手を伸ばし、ベルを数回振る。そんなに大きい音ではないけど、訓練された竜人の耳には十分届くそうだ。
 ベルを元の場所に置いたところで私は力尽きた。


 熱に魘されつつも、うとうとと夢と現実の狭間を行き来していると、バタバタとした足音と誰かの話し声が聞こえてきた。
 ああ、だれかきてくれたんだ……。
 ホッした私は、安心して意識を手放した。



***



「うぅん……」

 全身の痛みで目が覚めた。

「リア起きた?」
「……あれ? えるぜりあ……?」
「そうよ。……まだ熱が下がらないわね」

 おでこに当てられたエルゼリアの手が冷たくて気持ちいい……。

「やっとリアに合流できたと思ったら熱を出していたから驚いたわ。オリビアさんにも知らせを出しておいたからすぐに来てくれるはずよ」
「えるぜりあ……ありがと……」

 上手く声が出なくて、かすれがすれお礼を言う。すると、エルゼリアがお水を飲ませてくれた。冷たい水が水分を必要としていた部屋に沁みわたっていく。

「リア、子竜の姿になれる?」
「なれ……ません……」
「! ……そう、それじゃあ人間のまま耐えるしかないわね」

 私の頭を撫でながらそう言うエルゼリアに、コクリと頷いて答えた。

 その後、本当に軽い食事をなんとか摂り、薬を飲んだ。

「えるぜりあ、るふすさまは……?」
「ああ、さっきリアの体を拭いた時に出ていってもらったわ。それに、あまりこういう姿を殿方に見られるのは嫌かと思って。陛下がいた方が安心だというならすぐに呼ぶわよ?」
「いえ、……いいです……」

 私も乙女の端くれ。あんなキラキラした人にこんな姿を見られるのは避けたいです。もう何度も見られちゃってる気はしますけど……。
 そこまで考えたところで、薬の副作用か眠気がやってきた。

 ―――そういえば、ここに来てからあんまり子竜になってませんでしたね……。

 今はなれないからか、余計に子竜の姿が恋しくなった。












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