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二章

動物園の人気者の気持ちです

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 イチゴ飴を食べていると、次から次へと食べ物が私の元に集まってくるようになった。

「姫様~! これも食べてください! お代はいりませんから!!」
「うちのサンドイッチも美味しいですよ~!」
「あわわ……」

 次から次に食べ物が迫ってくる。その勢いに圧倒されちゃいます。

「はは、皆リアを太らせたくて仕方ないみたいだな。リアは小さいし痩せすぎだから」
「……女の子的には太れって言われると微妙な気持ちですけどね」
「ははは」

 ルフス様や騎士さん達は片っ端から差し出される食べ物を受け取ると、食べ物を差し出してきてくれた人達にお金を払う。

「ルフス様、私そんなに食べられないです……」
「ん? リアが食べきれない分は俺が食べるから問題ない。リアは好きなものをちょっとずつつまめ」

 そう言ってルフス様は果実水を私の前に差し出してきてくれた。イチゴ飴を食べて喉が渇いてたのが分かってたんでしょうか。
 ありがたくコップを受け取り、果実水で喉を潤す。この果実水もおいしいです。

「リア、こっちのサンドイッチは食べられそうか?」
「はい」

 周りにつられて私もテンションが上がり、お腹が空いてきた。具沢山のサンドイッチにかぶりつくとルフス様に頭を撫でられる。

「いっぱい食べられてリアはいい子だな」

 うぅ、ルフス様の微笑みが眩しいです。
 こんな子どもみたいなことでも褒められるのは嬉しいけど、今日は周りの目が気になる。ルフス様が私の頭を撫でて褒めてくれた瞬間、周囲の人達からはなぜか「おぉ……」というどよめきが起こるし。
 小さい子どもみたいにルフス様に抱っこされてるのもちょっと恥ずかしくなってきました……。

「ルフス様、私やっぱり下りて自分で歩きます」
「えぇ!?」
「?」

 今「えぇ!?」と声を上げたのはルフス様ではない。周りにいた人達だ。
 ルフス様も何かを言おうとしたけど、それよりも街の人達の反応の方が早かった。

「そんなぁ、微笑ましいのに!!」
「姫様! まだ陛下に姫様を抱っこさせてやってくださいよ!!」
「ていうかこんな石畳を姫様の小さくてか弱い足で歩いたら折れちゃいますよ!」
「「「確かに」」」

 あ、みなさんそういう感じなんですか。そういえば竜人の皆さんって基本的に小動物大好きですもんね。いや、私は決して小動物じゃないですけど。
 でも今の気分は動物園の人気者です。
 決して嫌ではないけれど、こんなに一気に注目されたことがないので戸惑っちゃいます。私がちみちみとサンドイッチを食べる様子もつぶさに観察されてますし。本当に動物園の生き物になったみたい。
 助けを求めて無意識に両親を視線で探すと、両親もおおよそ同じような状況だった。そりゃあ二人とも珍しい人間と聖竜ですもんね。注目を集めないわけがない。

 私がちみちみと一つ目のサンドイッチを食べている間に、ルフス様はサンドイッチ一つと肉巻きおにぎりを一つ食べ終わっていた。
 そしてルフス様が周りの人達に向けて言う。

「さて皆の者、そろそろ解散してもらおうか」
「「「え~!!」」」

 一斉にブーイングが飛んでくる。それにルフス様がはぁ……と溜息を吐いた。

「お前達、人のデートに大勢で群がるのは無粋だと思わないのか? もう十分かわいいリアは見せてやっただろ? 後は俺達に楽しいデートをさせてくれよ」
「!」
「「「!!」」」

 ルフス様の言葉に私も街の人達も驚きに目を見開いた。ルフス様がデートって言ったのは最初に話題が出た時以来だ。それかは普通にお出かけって言ってたから不意にその単語を出されて驚いた。驚いたのは私だけじゃないみたいですけど。
 そしてすぐに和やかな雰囲気のまま人々が解散していった。

「人も減ってきたところだし、そろそろちゃんと街を回るか」

 私達を取り囲んでいた人垣はあっという間になくなった。流石ルフス様です、ああやって言えば波風立てずに人を遠ざけられるって分かってたんですね。

「……?」

 なんでしょう、この拍子抜けというか、ちょっとがっかりしたような気分は……。

「どうした? 気分が悪くなっちゃったか?」
「いえ、なんでもないです」
「そうか、じゃあ長い時間街にいるとリアも疲れちゃうだろうからさっさと次の所に行こう。リアには前々から何かアクセサリーをプレゼントしたいと思ってたんだ。お二人とも、いいですか?」

 ルフス様が両親の方を向いて許可を請う。

「うふふ、別にリアにプレゼントをするくらいで私達の許可をとる必要はないわよ。指輪を渡すんでもないし」
「な!?」

 コロコロと笑うお母さんとは対照的にお父さんは何か文句を言いたそうな顔になった。それをお母さんが笑顔で黙らせる。

「じゃあ宝飾店へ向かおう」
「は、はい」

 あまりにも輝かしい笑顔のルフス様に水を差すこともできず、私達は宝飾店へと向かうことになった。














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