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二章
お母さんの竜姿
しおりを挟む「きゅ~(お母さん竜にならないんですか?)」
「あ、そうね。せっかくこんな場所まで用意してもらったんだものね」
そう言ってお母さんは一旦私をお父さんに渡すと竜の姿に変化した。
瞬き一つの間にお母さんに姿が変わり、目の前に真っ白な竜が現れる。
「クルルルルルル(この姿になるのはなんだか久しぶりね)」
「きゅ~……!」
なんと、お母さんはとんでもない美竜でした。美しいです……。
真っ白い鱗はなんだかキラキラしてますし、お顔のパーツ配置も完璧です。さらには爪まで磨いてないはずなのにつやっつやです。
私やシアラさん、そして周りにいた竜達は暫くの間、言葉もなくお母さんの竜姿に見惚れていました。
自然とできた沈黙を一人の乱入者が破る。
「うわああああああ!! ほんとに真っ白い! しかもなんかキラッキラしてる!!」
乱入者―――ハルトさんが全力でこちらに駆けよってきた。ハルトさんが走ってるのは中々レアな姿です。しかも全力で。
ハルトさんも竜人、足はとても速く、こちらに向かってくる様子は鬼気迫るものがありました。
その勢いにビビり、腰が引けているとお母さんが前脚の間に私を抱え込んでくれた。安心します、ここ。ジャストフィットですし。
すっぽりと抱え込まれた私を見て、ハルトさんはさらに瞳を輝かせた。
「すごい! まさか聖竜の親子がこの目で見られるなんて! がんばって働いてきてよかった!」
感動して急に天を仰いだハルトさんに私は再びビクッとしてしまった。大声出すのが急なんですよ。
奇行を繰り返すハルトさんをお父さんは少し引いたような目で見た。
「俺の妻と娘が尊いのは分かるが、リアを怯えさせるような行動は止めてもらおうか」
「はっ! そうだったね。ごめん」
お父さんの注意によってハルトさんは我に返ったようだ。
「クルルルル(うふふ、リアは小さいわね)」
ハルトさんが落ち着いたことで注意を私に向けたお母さんはベロンと私のことを舐めた。
おお……竜っぽい行動です。
人間の姿なら多少なりとも抵抗のある行為ですが、不思議と全然嫌じゃありません。むしろ気持ちよくて落ち着くのでもっとやってほしい。
頭をグイグイとお母さんの胸に押し付け、もっと舐めてとねだる。するとお母さんは瞳を輝かせて頭から尻尾の先までを舐めてくれた。
きもちーです。
「!」
お母さんに舐められ、まったりとしていた所で私達の様子をガン見する二対の目に気付いた。他にも視線は感じますけど、特に強い視線を感じるのはこの二人からだ。
お父さんとハルトさんは目をかっぴらき、私達の様子を観察していた。
こわい……こわいです……。
「やば……尊っ……!」
「俺の妻と娘がこんなにも尊い……。お前、なかなか分かる奴だな」
「当たり前でしょ」
お父さんとハルトさんがガシッと握手をする。どうやら意気投合したようです。
「きゅっ」
「クルルルルルル(まだここにいなさい)」
飛び上がろうとしたらベロンと舐められ、ぽてんと地面に倒れ込んでしまった。耐久性の上がっている竜の体だし、まだそんなに高く飛んでいなかったので全然痛くない。
地面に寝転がったまま、私は自分を墜落させたお母さんに視線を向ける。
「きゅ?(お父さんの所に行っちゃダメですか?)」
「クルルルル~(今行ったら揉みくちゃにされるから止めておきなさい。お昼寝でもしましょう?)」
「きゅ~(まだお昼寝の気分じゃないです)」
私がそうお母さんに訴えると、お母さんは困ったわねぇという顔をして息を吸い込んだ。そして口を開く。
「キュ~ルルルルルルルルル♪ キュ~ルルルルルルルル♪」
「きゅ……(あ……)」
それズルいです。
失念してましたけど、お母さんも竜なので子守唄を唄えるのは当然ですね。完全に油断してました。
「……きゅ……」
睡魔に負けて私がすぴすぴと寝息を立てるまで、そう時間はかからなかった。
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