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第99話 エピローグ①
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ーエピローグー
琥珀と華は、黄色いガーベラ模様の絨毯の上に座り込み、顔を近づけて密談している。
「もうすぐ誠司帰ってくるかな」
「うん。さっき、最寄り駅に着いたって連絡があったから」
十二畳のリビングの壁には、琥珀を抱いた誠司と華の写真や、ドライフラワーになったガーベラの花束が飾られている。
誠司と琥珀は二年前に、長く世話になった神社を後にして、2LDKの平屋を借りた。
そして、今日は誠司と華の一年目の結婚記念日である。昔は華と話すことが出来なかった琥珀だが、今ではこうして問題なくお喋りが出来るのだ。
「あ! 華ちゃん誠司の足音!」
それを合図に、琥珀と華は神妙な面持ちを作った。誠司が入ってくるドアに向かって、琥珀はお座り、華は正座で待機する。
「ただい、ま……? 二人とも、ソファにも座らず何してんだ?」
野球チームのパーカーを羽織り、今日も少年たちに熱指導をしてきただろう誠司が、ケーキを手に帰宅する。
いつもはすぐに「おかえり」があるのに、しんとしている二人に、不思議そうな顔を見せていた。
「誠司……話があるんだ」
琥珀の真剣な声のトーンと、俯いている華を見て、ただ事ではないことを察したのだろう。誠司も二人の前で正座をする。琥珀がちらりと華に視線を向ければ、華はこくりと頷いた。
「誠司さん、私……今の仕事をやめようと思うんです」
「は⁉︎ なんで急に、どうした? 何かあったのか?」
心配そうに眉を下げた誠司を見て、華が琥珀にヘルプの視線を送った。どうやら、もうこの先を華の口から語るのは無理そうだ。
「実は、華ちゃん最近体調崩しててさ。今日病院に行ってきたんだ」
「嘘、だろ。仕事が続けられないぐらい悪いのか? 華?」
今にも泣きそうに悲痛な表情をしながら、誠司は華の頬に触れる。誠司の焦燥が伝わって来て、琥珀も口をつぐんだ。ソファの後ろから、僅かに物音がする。
「なんの病気だ? 別の病院でも診てもらおう。誤診もあるかもしれねぇ」
華がそっと腹部を押さえると、誠司もそこに視線を下げる。
「今、六週目みたいです」
「……六週目?」
どんな病名が出てくるのかと、身構えていた誠司は復唱する。
「はい。六週目です。誠司さん、新しい家族が出来ました」
「やったな誠司! パパだぞパパ!」
わっと、笑顔で言えば、誠司は口を半開きにしたまま固まっていた。
「もう、華ちゃんも琥珀も早い。もっと引っ張ってくれないと」
「誠司さん、おめでとうございます」
やれやれと、ソファの後ろに隠れていた愛と優樹が出てくる。
「お前ら、どうして」
「どうしてって、仕掛けたの私だから。練習終わってすぐ、お家の車呼んで先回りしたの」
そう、華が妊娠報告をすると、愛が「お願い。どうしても、その時のおじさんの顔が見たいの」と頼んできたのである。
華は、誠司を騙すことを躊躇っていたが「大丈夫。おじさんはこんなことで本気で怒るような人じゃない」と言われ、愛の懇願もあり、作戦を実行することになった。
バッチリ撮れてると、愛は光悦な表情だ。携帯に録画した動画を流すと「どうした? 何かあったのか?」と狼狽えている誠司の音声が響く。
「おい、待て! 頼むやめてくれ!」
「ふふふ、おじさんって基本落ち着いてるから、凄く楽しみだったんだんだよね」
停止ボタンを押した愛は、今度は純粋な笑顔を向ける。
「おじさん、華ちゃん、琥珀、おめでとう。二人の赤ちゃん、今から待ち遠しいよ」
「早く生まれないかな」と、嬉しそうに告げる愛に、誠司も毒気を抜かれる。何をしても、憎めないのが愛の強みだ。
「子供……俺が、親になるのか」
みんなに祝福され、誠司もようやく理解が追いついたようだ。独り言のように呟いたあと、誠司は華を抱きしめた。
「きゃあっ」
華の背中と後ろ頭に手を回して抱き寄せると、こんっと頭をくっつける。
「華、ありがとう」
良い父親になると誓った誠司に、華は涙声で頷いた。
赤ん坊を抱いた誠司と華と琥珀の四人で暮らす未来が待っている。
新しい家族が増えて。それを愛と優樹が見守って。きっと賑やかな毎日になるだろう。
誠司と琥珀が歩む道にまた、幸せが広がっていく。
ホームレスの俺が神の主になりました。〈完〉
琥珀と華は、黄色いガーベラ模様の絨毯の上に座り込み、顔を近づけて密談している。
「もうすぐ誠司帰ってくるかな」
「うん。さっき、最寄り駅に着いたって連絡があったから」
十二畳のリビングの壁には、琥珀を抱いた誠司と華の写真や、ドライフラワーになったガーベラの花束が飾られている。
誠司と琥珀は二年前に、長く世話になった神社を後にして、2LDKの平屋を借りた。
そして、今日は誠司と華の一年目の結婚記念日である。昔は華と話すことが出来なかった琥珀だが、今ではこうして問題なくお喋りが出来るのだ。
「あ! 華ちゃん誠司の足音!」
それを合図に、琥珀と華は神妙な面持ちを作った。誠司が入ってくるドアに向かって、琥珀はお座り、華は正座で待機する。
「ただい、ま……? 二人とも、ソファにも座らず何してんだ?」
野球チームのパーカーを羽織り、今日も少年たちに熱指導をしてきただろう誠司が、ケーキを手に帰宅する。
いつもはすぐに「おかえり」があるのに、しんとしている二人に、不思議そうな顔を見せていた。
「誠司……話があるんだ」
琥珀の真剣な声のトーンと、俯いている華を見て、ただ事ではないことを察したのだろう。誠司も二人の前で正座をする。琥珀がちらりと華に視線を向ければ、華はこくりと頷いた。
「誠司さん、私……今の仕事をやめようと思うんです」
「は⁉︎ なんで急に、どうした? 何かあったのか?」
心配そうに眉を下げた誠司を見て、華が琥珀にヘルプの視線を送った。どうやら、もうこの先を華の口から語るのは無理そうだ。
「実は、華ちゃん最近体調崩しててさ。今日病院に行ってきたんだ」
「嘘、だろ。仕事が続けられないぐらい悪いのか? 華?」
今にも泣きそうに悲痛な表情をしながら、誠司は華の頬に触れる。誠司の焦燥が伝わって来て、琥珀も口をつぐんだ。ソファの後ろから、僅かに物音がする。
「なんの病気だ? 別の病院でも診てもらおう。誤診もあるかもしれねぇ」
華がそっと腹部を押さえると、誠司もそこに視線を下げる。
「今、六週目みたいです」
「……六週目?」
どんな病名が出てくるのかと、身構えていた誠司は復唱する。
「はい。六週目です。誠司さん、新しい家族が出来ました」
「やったな誠司! パパだぞパパ!」
わっと、笑顔で言えば、誠司は口を半開きにしたまま固まっていた。
「もう、華ちゃんも琥珀も早い。もっと引っ張ってくれないと」
「誠司さん、おめでとうございます」
やれやれと、ソファの後ろに隠れていた愛と優樹が出てくる。
「お前ら、どうして」
「どうしてって、仕掛けたの私だから。練習終わってすぐ、お家の車呼んで先回りしたの」
そう、華が妊娠報告をすると、愛が「お願い。どうしても、その時のおじさんの顔が見たいの」と頼んできたのである。
華は、誠司を騙すことを躊躇っていたが「大丈夫。おじさんはこんなことで本気で怒るような人じゃない」と言われ、愛の懇願もあり、作戦を実行することになった。
バッチリ撮れてると、愛は光悦な表情だ。携帯に録画した動画を流すと「どうした? 何かあったのか?」と狼狽えている誠司の音声が響く。
「おい、待て! 頼むやめてくれ!」
「ふふふ、おじさんって基本落ち着いてるから、凄く楽しみだったんだんだよね」
停止ボタンを押した愛は、今度は純粋な笑顔を向ける。
「おじさん、華ちゃん、琥珀、おめでとう。二人の赤ちゃん、今から待ち遠しいよ」
「早く生まれないかな」と、嬉しそうに告げる愛に、誠司も毒気を抜かれる。何をしても、憎めないのが愛の強みだ。
「子供……俺が、親になるのか」
みんなに祝福され、誠司もようやく理解が追いついたようだ。独り言のように呟いたあと、誠司は華を抱きしめた。
「きゃあっ」
華の背中と後ろ頭に手を回して抱き寄せると、こんっと頭をくっつける。
「華、ありがとう」
良い父親になると誓った誠司に、華は涙声で頷いた。
赤ん坊を抱いた誠司と華と琥珀の四人で暮らす未来が待っている。
新しい家族が増えて。それを愛と優樹が見守って。きっと賑やかな毎日になるだろう。
誠司と琥珀が歩む道にまた、幸せが広がっていく。
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