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第94話 優樹の秘密

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 飛び降り自殺という不穏な単語に、華が反応する。
 終始疑問符を浮かべている華は、おそらく、最も状況に置いて行かれている人物だろう。また、改めて華とは話す必要がある。

 自殺の件について、心配そうな視線を向けてくる華に誠司は「今はもう大丈夫だ」と弁解する。

「厳密に言うと、もう神ではないの。十年前に死んだのも事実」

「え? あ、でも。そうだよな。天界にいた頃と、全然姿も違うし。それに、あの……向こうは?」

 愛はここにいるが、一緒に逃げた彼はどうなったのか。
 聞いていいことなのかと、躊躇いがちに尋ねた琥珀に、愛は優しく微笑む。

「仲の良かった友人がね、助けてくれたの。追われる身で、神としては生きられないから、人間に生まれ変わらせてくれた。
 本当はね、神力も天界の記憶も一緒になくなるはずだったんだけど。私の力が強すぎて、記憶も神力も残ったまま、生まれちゃったの」

 人間界へ送り出してくれた友人が力不足だったせいもあると、愛はからから笑った。

「それで、一緒に逃げた相手はね……」

 愛は、ゆっくりと優樹に指をさした。今にも泣きそうな顔で、優樹に笑顔を向ける。

「優樹くんなの。ごめんね、せっかく生まれ変わったのに。私、離してあげられなかった。全部隠して、何も知らない顔して、一緒にいたの。私が一緒にいたいなんて、我儘言ったから……殺されることになったのに」

 全ての記憶を残したまま、愛は前世から愛し続けていた。

「そっか。愛ちゃんも、知ってたんだ」

「……え?」

「盲点だったな。その可能性は全く考えてなかった」

 ふむ、と顎に手を当てて、優樹は一人納得する。きょとん顔の愛に、優樹は困ったように笑顔を向ける。

「え、と……優樹くん?」

「覚えてるよ。天界で初めて会った日に、僕が一目惚れしたのも。一緒に過ごした時間、全部。もちろん、琥珀のこともね」

「改めて、久しぶり」と琥珀をなでた優樹に、琥珀は開いた口が塞がらなかった。

「えええ!」

 遅れて出てきた声に、優樹は「そりゃびっくりするよね」と苦笑する。

 愛も珍しくキャパオーバーだったようだ。電池の切れた玩具のように停止していた。


「は? じゃあ優樹、お前もか?」

「はい、誠司さん。正確には元、ですけど。僕は記憶があるだけで、愛ちゃんみたいに神力は一切持っていません。琥珀は人間界で見た時にすぐにわかりましたが、僕には声が聞こえないんです」

 黙っていてすみません。と、優樹は誠司と琥珀に謝罪する。

「いや……別に謝ることねぇけどな……なんつーか、頭がついてこねぇ。しかし、すげぇな。偶然、琥珀とお前らがまた会ったってことだろ?」

 誠司の恐ろしく狭い行動範囲で、よく出会えたものだ。
 ハッと我に返った愛が、それは違うと首を振った。

「それは、琥珀がいたから」

「え、俺?」

「そう。琥珀、あなたが繋いでるの」

「俺、何もしてねぇよ? 俺、その……結局大きくもなれなくて、見た通り子どもの姿のままだし。人間界に来てからは神力も全然なくて、本当、無能でさ。なんの役にも立てねぇし」

 しょんぼりと耳を垂らした琥珀に、愛は驚いたようだった。

「やだ、無能なわけないでしょ? 二百年の修業が終わった時に、誰も教えてくれなかったの?」

「え?」

 愛は琥珀の垂れてしまった耳を持ち上げる。

「琥珀、あなたは縁を繋ぐ神なのよ。神の中でも凄く稀な存在で、誰でも真似できるものじゃない」

「縁を……繋ぐ神?」
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