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第59話 昔話②

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「高橋くんと、初めてシたんだけどね。私は初めてでだったけど、高橋くんは経験があって、上手くリードしてくれて」

 しばらく、気持ちの悪い性事情の詳細を聞かされて。
 聞きたくもないそれに、琥珀が顔をしかめていれば、無視できない言葉を耳にする。

「二人とも実家だし。ホテルとかに行くお金もないから、よく部室で会ってたのね」
「おい……おい、待てよ。まさか」

 琥珀に、嫌な予感がした。


「警備の人が見回りに来たから、隙を見て、慌てて逃げたの。あの時は、本当に焦ったのよ」

 あろうことか、田淵と高橋は酒と煙草を放置して帰宅。
 それだけでなく、性交渉の痕跡も残したままだった。

 翌朝、いつも朝練より少し早い時間から自主練をしている誠司が到着する。その時、誠司は練習に付き合ってくれるという先輩数人と一緒だった。

 部室のドアを開けた誠司たちは、広がる光景に言葉を失う。
 煙草の箱とライター。缶ビールや缶チューハイに、吸い殻が突っ込まれている。

「おいおい……」
「嘘だろ」

 先輩たちが部室に入り、酒の空き缶を手に取った。

「見ろよこれ」

 視線の先には、避妊具の袋がある。もちろん、それも前夜に田淵たちが開封済みである。

「誰だよ、部室でこんな」

 ふざけた真似をした者はと、告げた先輩も、怒るより困惑が強いようだった。
 遅れて事態の深刻さを理解した一同は、隠すか、正直に話すべきか、意見が別れた。けれども、そうこうしている間に次々と部員が到着し、隠蔽する事は出来なくなったのだ。


 高校時代に、問題を起こした張本人田淵は今、何でもないような顔で当時の話をしている。

「朝学校に行ったら、すごい大事になってて」

 驚いたという田淵に、琥珀は衝撃を受ける。最初からだが、田淵は一体何を言っているのか。琥珀が田淵と話す事が出来たなら、お前は正気なのかと問い詰めていただろう。


「野球部の監督がカンカンに怒って、犯人を探し始めたの。学校でもすぐに話が広がっちゃって」

 田淵は、ちらりと誠司に目を向ける。
 誠司は無表情のまま、時おりどこかを見つめたり、目を瞑っていたりと、その感情は読めない。

「高橋くんがね、誠司くんが一番早く来るから何とかすると思ってたって。だから、誠司くんも悪いから」

 あまりの暴論に、異世界の話を聞いているような錯覚がする。
 どんな思考回路を持てば、そこまで自分中心的な考え方になるのだろう。


「私も高橋くんが犯人になって、部活辞めるとかになったら嫌だったの。だって、あんなに高橋くん野球頑張ってたのに。だからつい、誠司くんのせいにしちゃって」

 途中から、琥珀は薄々感じとってはいたが、そうならないでくれと願い続けた最悪の結末を告げられる。


「お前……! ふざけんなよ!! 全部お前らが悪いんじゃねぇか!!!」
「きゃあ! びっくりした、凶暴なわんちゃんね。誠司の犬なの?」
「どう考えたって、高橋って奴より誠司の方が! 野球が好きで、頑張ってたじゃねぇかよ! なんで、それを誠司から奪うんだ!! お前らが悪いくせに!」

 琥珀の怒号は唸り声になって、田端へ届いた。
 すると田端は躾がどうだとか、倫理から遠く離れた人間が偉そうに物を言う。

「信じ……られない。藪原さん、この人の言っている事は本当なんですか」

 華の呼びかけでようやく、誠司の視線はこちらへと向けられる。
 だが誠司よりも早く、お喋りな口が開いた。

「ううん、誠司くんは知らなかったのよ」
「え?」

 どう言う事だと、華が言及する。
 それに少し恥ずかしそうに笑みを浮かべた田端が、心底気持ち悪くて不愉快だった。
 誰かの笑顔に、こんなマイナスな感情を抱いたのは二百年生きて来て初めてだ。


 

 
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