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第58話 昔話①
しおりを挟む田淵の話の半分は、彼氏との惚気話と、自分がいかにモテていたか等の自慢話だった。
しかし残る半分が、あまりに理解出来る範囲を越えていた。
「どういう、事ですか」
「意味わかんねぇ」
全てを聞いた上での発言だ。琥珀と華は今、全く同じ気持ちであるらしい。
田淵の話は、こうだった。
田淵には、入学当初に一目惚れをした高橋という男が居た。
日を追うごとに好きになり、猛アタックをし続けた結果、夏に二人は付き合う事になったらしい。
「高橋くんはね。本当に何するにも格好良くて、ライバルもいっぱいいたから大変だったのよ」
スポーツ万能で、高橋はいつもクラスの中心にいた。学業や私生活では少し不真面目で、ヤンチャなところにもまた田淵は惹かれたのだという。
これは一生に一度の恋で、田淵は高橋が運命の相手だと思ったようだ。
「もう絶対、私の人生でこれ以上の人はいないって確信したの」
一方で誠司はというと、クラスでは特別、目立った存在ではなかったらしい。
「誠司くんも、見た目は悪くないんだけど。授業はほとんど寝てて、いつも野球の事しか頭にないから、女子の人気はなかったのよね」
いち早く朝練に参加して、昼休みの僅かな時間も練習に費やし、放課後は走ってグラウンドへ向かった。
誠司の中では、女の子も勉強も二の次で、野球が全てだったのだ。
「それに誠司くんって、ちょっと融通が利かなすぎて……」
ある部員と誠司は、度々衝突していたらしい。
「黙ってたらわからないのに。言わなくていい事まで言っちゃうし」
「言わなくていい事?」
「高校生でもさ、ちょっとお酒飲んだり、煙草吸ったり、そういう事ってみんなあるでしょ?」
「私は……ありませんでしたけど。でも、周りには何人か居ましたね」
「でしょ? 息抜きとか、ちょっと粋がりたい年頃だったりとか、高校ってそういう時期じゃない」
高校時代を思い出したのか、華も同意する。
学校や親には隠れて、飲酒や喫煙をした事のある学生は、確かに居た。中には、隠す事もしない悪ガキだっているのだ。
「それなのに、誠司くんいちいち酒も煙草も止めろって口煩くて」
「え?」
驚いたように、声を上げたのは琥珀だった。ここから、琥珀の聞いていた話とのズレが生じていく。
「その時、野球部の一年生でそういうのが流行ってたの」
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だから、今季の大会も他人事ではなく、先輩相手に点数稼ぎをしたいのだと、妬みからくる非難をされた。
「あ、それで。その頃にね」
言うか悩むなと、急に恥ずかしそうに田淵は言葉を詰まらせた。
しかし、最初から話すのを止める気はないようで、またすぐに喋り始める。
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