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第51話 集会②

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「え、誠司……それ」

 今は遅れて来た事など、どうだっていい。それは瑣末なことでしかない。
 誠司の正装など、人間界に来てから一度も見たことがなかった。

「あちぃな」

 急いでここまで来てくれたのだろうか。
 誠司は少し息を切らしていて、白くなった息を何度も短く吐いている。
 スーツの前はとめておらず、白いシャツを第二ボタンまで外したことで、誠司の胸もとが露わになった。

「ふぅ……」

 荒く髪をかきあげた誠司からは、何とも言えない色気が漂っていた。
 一連の流れが、全て絵になる。雑誌の表紙に今の誠司がいても、なんら不思議はない。

 開いた口が塞がらないとは、まさにこの事を言うのだろう。
 琥珀といちごが、互いに顔を見合わせるという小さな奇跡まで起きた。

「集会ってのは、もう始まってんのか?」

 挨拶といっても何をすればいいのか、と少し眉をひそめたそれすら、整って見える。

「いや、それより誠司、その格好……どうしたんだよ」
 
 みんなは、汚いホームレスのおっさんが来ると思って構えていたようだ。しかし、実際に登場したのはワイルドなイケメンで、広場は激しく騒ついていた。


 琥珀がした問い掛けの返答には、少しの間があった。

「あー、だから……まあ」

 珍しく、誠司がハッキリと物を言わない。スーツ姿があまりにも衝撃的過ぎて、まじまじと見つめていたら、誠司からふいっと視線を逸らされた。

「……俺がちゃんとしてたら、お前も何も言われないだろうが」

 先ほどよりも小さな声でそう告げた誠司に、琥珀の瞳は落ちんばかりに開かれる。
「まあ安いスーツだけどな」と、照れ隠しでぶっきらぼうに言う誠司は、やはり琥珀の方を見ようとしない。

「誠司……」

 思わず口から出た名に、ようやく誠司と目が合った。
 わずかに紅潮して見える頬は、気のせいではないのだろう。誠司も、柄にもないことをしている自覚があるらしい。

「それ、わざわざ買って来たのか?」
「さっきな」

 今まで、見た目を気にもかけなかったあの誠司が。琥珀のために、身なりを整えてくれた。
 その気持ちがたまらなく嬉しくて、琥珀は誠司のスーツ姿を食い入る様に見つめる。
 

 広場にいる全員から凝視されているのに気付いて、誠司は一度自分の姿に視線を落としてから、琥珀へと向ける。

「……なんだ、似合わねぇか」

 的外れな事を言う誠司に、琥珀はくしゃりと笑顔を見せた。
 非の打ち所がないくらいに格好いいくせに、琥珀の契約者は困ったものである。


「すっっげぇ似合ってる!!!」

 バッと胸もとに飛びつけば、誠司は「うおっ危ねぇ」と言いながらも、受け止めてくれた。
 誠司に抱きかかえられながら、琥珀の尻尾は大きく左右に揺れる。

「そうか?」
「おう! なんかもうやべぇ!」

 この姿の誠司が婚活パーティーにでも行けば、誠司の前には長蛇の列が出来そうだ。

「俺も紳士的になったか?」
「紳士では間違いなくねぇ!」

 琥珀は笑顔で即答する。
 上品やジェントルマンといった空気はまるでない。
 艶やかで、魅惑的。エロティックな雰囲気すら、その身に纏っていた。
 着崩されたスーツと、少し乱れたオールバック。それが野性味を醸し出して、誠司の完成度をより高めている。
 今では荒い言葉遣いさえ、男らしくて雄々しいという魅力に変わっているのだ。

 今なら、金を出してでも誠司に抱かれたいという女性が、いくらでもいるのではないだろうか。女性だけに留まらず、男性だって申し出るかもしれない。

「紳士じゃねぇけど、意味わかんねぇぐらいカッコいいよ」

 そう言えば、誠司は少し首を傾げながらも、まあいいかと納得したようだ。いつも自分の魅力に気付いてくれない男である。


「金が飛んだから、しばらく節約生活だな」
「全然いい!」

 誠司のサプライズは、天界に行った日から、ずっと陰っていた心を嘘みたいに晴らしてくれた。
 節約生活も、何一つ苦に思わずに過ごせそうだ。
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