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第28話 SOS②

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「神社で、誠司が倒れてるんだ」

 琥珀は女性の方を振り返りながら、路地裏の向こうへ出ると、彼女も立ち上がって後を追って来てくれた。

「あっ待って待って、こっちおいで」

 それを見て、琥珀はやったと、内心大きなガッツポーズをする。ようやく、ようやくだ。
 路地裏を来た時とは反対側に出たため、こちらは向こうよりも道が細く、車一台が通れる程度だ。人の通りも少なく、遠くに人の姿が一人、二人見えるだけだった。

「お姉さん、来て! 早く!」

 路地裏に向かってそう吠えていると、そこからすぐに、そのお姉さんも顔を出す。
 それを確認して、タッと神社に向かって駆け出せば、後ろから「あっ」と声が聞こえる。お姉さんは、その場から動いてはいない。

「頼むよ、付いて来て!!」

 一気に不安が押し寄せるが、琥珀の願いが通じたのか、お姉さんはこちらへ向かって足を進めてくれた。

「良かった、ありがとう!」

 ちらちらと何度も後ろを確かめながら、小走りで進んでいると、お姉さんもタッタッと後を付いて来る。
 しかし一分ほど経過した時、お姉さんは急に立ち止まってしまった。

「えっ、なんで!?」

 ちらりと左腕に付けていた腕時計を確認して、お姉さんは来た道を振り返ると、もう一度琥珀に視線を戻した。
 その場で困惑しながらウロウロと、行ったり来たりしていた琥珀を見て、お姉さんは眉を下げる。

「私もう行かないと、おいで」
「誠司はそっちじゃくて、こっちにいるんだよ」

 琥珀が自分の方へは来ない事を悟ったお姉さんは、少し悩む素振りを見せた。しかし、再び腕時計を見ると、申し訳なさそうに告げた。

「ごめんね、約束があるからこれ以上は……。動物愛護センターには連絡しておくから」

 心配そうに琥珀を見つめ、どうしても今私に捕まってはくれないかと、お姉さんは手を広げる。

「そっちにはいないんだ。お姉さんお願い! 誠司すげぇ熱くて、寒いって」
「おいでおいで」
「咳も激しくて、今日まだ何も食べてないんだよ」
「駄目かぁ……」
「俺じゃ、誠司に……何も出来ないから。だから」

 スマートフォンを取り出して、後ろ髪を引かれながら、踵を返したお姉さんを引き止める。

「待って、行かないで!!」

 大声で何度も叫べば、お姉さんはすぐに足を止めて、振り返ってくれた。

「えーどうしよう、困ったな……」

 何度も腕時計と琥珀に、視線を往復させる。「置いて行くのも……でも、時間が」と、頭を悩ませるお姉さんに、琥珀は駆け寄った。
 ロングスカートの端っこを咥えて、こちらへ来るように促せば、お姉さんの手が琥珀に伸びる。

「頼むよ、誠司を助けて」

 手を避けて、そう訴えれば、お姉さんは困り顔で苦笑いを浮かべた。

「うーん……抱っこは嫌?」
「抱かれたら、道案内出来ないから」
「今日は先輩も居るから、遅れると……」
「ごめん、でも俺お姉さんしかいなくてっ」

 頻繁に時間を気にするお姉さんに、誰かと会う約束があるのは明白で。しかも、そこにはお姉さんの先輩もいるらしい。それは職場の先輩なのだろうか。
 そう思えば申し訳ない気持ちは、琥珀にもある。
 優しい人なのだろう。無理に捕まえようとする人間が多い中で、ずっと、琥珀が怖がらないように声をかけ、手を差し伸べてくれていた。
 今だって、予定があるのに、先ほど会ったばかりの琥珀を置いていけないのだ。

「お願い、付いて来て」

 もう一度、スカートを咥えて引っ張る。
 見ず知らずのお姉さんに、琥珀を、誠司を助ける義理などないのだ。
 それでも、琥珀はこの人を逃すわけにはいかないから、必死でしがみ付くしかない。

「お願い」

 パッとスカートを離して、今度はお姉さんの後ろに回り、ぐいぐいと押してみる。
 力いっぱい。もう体当たりのようなそれだ。

 そんな琥珀を見て、お姉さんは驚いたように、丸く目を開いていた。
 琥珀に視線を落とし、そして、神社への道を見つめる。

「向こうに……何かあるの? 来て欲しいの?」
「ある!! 誠司がいるんだ!」

 その言葉に弾かれたように、琥珀はお姉さんの前に出る。初めて、琥珀のしたい事を理解してくれた。

「ごめん、お姉さんにも予定があるのに。本当にごめん」

 はやる気持ちを抑えきれない琥珀が、地団駄を踏んでいると、お姉さんはやはり驚いた表情のまま、神社へ一歩踏み出した。
 
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