29 / 99
第28話 SOS②
しおりを挟む「神社で、誠司が倒れてるんだ」
琥珀は女性の方を振り返りながら、路地裏の向こうへ出ると、彼女も立ち上がって後を追って来てくれた。
「あっ待って待って、こっちおいで」
それを見て、琥珀はやったと、内心大きなガッツポーズをする。ようやく、ようやくだ。
路地裏を来た時とは反対側に出たため、こちらは向こうよりも道が細く、車一台が通れる程度だ。人の通りも少なく、遠くに人の姿が一人、二人見えるだけだった。
「お姉さん、来て! 早く!」
路地裏に向かってそう吠えていると、そこからすぐに、そのお姉さんも顔を出す。
それを確認して、タッと神社に向かって駆け出せば、後ろから「あっ」と声が聞こえる。お姉さんは、その場から動いてはいない。
「頼むよ、付いて来て!!」
一気に不安が押し寄せるが、琥珀の願いが通じたのか、お姉さんはこちらへ向かって足を進めてくれた。
「良かった、ありがとう!」
ちらちらと何度も後ろを確かめながら、小走りで進んでいると、お姉さんもタッタッと後を付いて来る。
しかし一分ほど経過した時、お姉さんは急に立ち止まってしまった。
「えっ、なんで!?」
ちらりと左腕に付けていた腕時計を確認して、お姉さんは来た道を振り返ると、もう一度琥珀に視線を戻した。
その場で困惑しながらウロウロと、行ったり来たりしていた琥珀を見て、お姉さんは眉を下げる。
「私もう行かないと、おいで」
「誠司はそっちじゃくて、こっちにいるんだよ」
琥珀が自分の方へは来ない事を悟ったお姉さんは、少し悩む素振りを見せた。しかし、再び腕時計を見ると、申し訳なさそうに告げた。
「ごめんね、約束があるからこれ以上は……。動物愛護センターには連絡しておくから」
心配そうに琥珀を見つめ、どうしても今私に捕まってはくれないかと、お姉さんは手を広げる。
「そっちにはいないんだ。お姉さんお願い! 誠司すげぇ熱くて、寒いって」
「おいでおいで」
「咳も激しくて、今日まだ何も食べてないんだよ」
「駄目かぁ……」
「俺じゃ、誠司に……何も出来ないから。だから」
スマートフォンを取り出して、後ろ髪を引かれながら、踵を返したお姉さんを引き止める。
「待って、行かないで!!」
大声で何度も叫べば、お姉さんはすぐに足を止めて、振り返ってくれた。
「えーどうしよう、困ったな……」
何度も腕時計と琥珀に、視線を往復させる。「置いて行くのも……でも、時間が」と、頭を悩ませるお姉さんに、琥珀は駆け寄った。
ロングスカートの端っこを咥えて、こちらへ来るように促せば、お姉さんの手が琥珀に伸びる。
「頼むよ、誠司を助けて」
手を避けて、そう訴えれば、お姉さんは困り顔で苦笑いを浮かべた。
「うーん……抱っこは嫌?」
「抱かれたら、道案内出来ないから」
「今日は先輩も居るから、遅れると……」
「ごめん、でも俺お姉さんしかいなくてっ」
頻繁に時間を気にするお姉さんに、誰かと会う約束があるのは明白で。しかも、そこにはお姉さんの先輩もいるらしい。それは職場の先輩なのだろうか。
そう思えば申し訳ない気持ちは、琥珀にもある。
優しい人なのだろう。無理に捕まえようとする人間が多い中で、ずっと、琥珀が怖がらないように声をかけ、手を差し伸べてくれていた。
今だって、予定があるのに、先ほど会ったばかりの琥珀を置いていけないのだ。
「お願い、付いて来て」
もう一度、スカートを咥えて引っ張る。
見ず知らずのお姉さんに、琥珀を、誠司を助ける義理などないのだ。
それでも、琥珀はこの人を逃すわけにはいかないから、必死でしがみ付くしかない。
「お願い」
パッとスカートを離して、今度はお姉さんの後ろに回り、ぐいぐいと押してみる。
力いっぱい。もう体当たりのようなそれだ。
そんな琥珀を見て、お姉さんは驚いたように、丸く目を開いていた。
琥珀に視線を落とし、そして、神社への道を見つめる。
「向こうに……何かあるの? 来て欲しいの?」
「ある!! 誠司がいるんだ!」
その言葉に弾かれたように、琥珀はお姉さんの前に出る。初めて、琥珀のしたい事を理解してくれた。
「ごめん、お姉さんにも予定があるのに。本当にごめん」
はやる気持ちを抑えきれない琥珀が、地団駄を踏んでいると、お姉さんはやはり驚いた表情のまま、神社へ一歩踏み出した。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
黒龍の神嫁は溺愛から逃げられない
めがねあざらし
BL
「神嫁は……お前です」
村の神嫁選びで神託が告げたのは、美しい娘ではなく青年・長(なが)だった。
戸惑いながらも黒龍の神・橡(つるばみ)に嫁ぐことになった長は、神域で不思議な日々を過ごしていく。
穏やかな橡との生活に次第に心を許し始める長だったが、ある日を境に彼の姿が消えてしまう――。
夢の中で響く声と、失われた記憶が導く、神と人の恋の物語。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
『イケメンイスラエル大使館員と古代ユダヤの「アーク探し」の5日間の某国特殊部隊相手の大激戦!なっちゃん恋愛小説シリーズ第1弾!』
あらお☆ひろ
キャラ文芸
「なつ&陽菜コンビ」にニコニコ商店街・ニコニコプロレスのメンバーが再集結の第1弾!
もちろん、「なっちゃん」の恋愛小説シリーズ第1弾でもあります!
ニコニコ商店街・ニコニコポロレスのメンバーが再集結。
稀世・三郎夫婦に3歳になったひまわりに直とまりあ。
もちろん夏子&陽菜のコンビも健在。
今作の主人公は「夏子」?
淡路島イザナギ神社で知り合ったイケメン大使館員の「MK」も加わり10人の旅が始まる。
ホテルの庭で偶然拾った二つの「古代ユダヤ支族の紋章の入った指輪」をきっかけに、古来ユダヤの巫女と化した夏子は「部屋荒らし」、「ひったくり」そして「追跡」と謎の外人に追われる!
古代ユダヤの支族が日本に持ち込んだとされる「ソロモンの秘宝」と「アーク(聖櫃)」に入れられた「三種の神器」の隠し場所を夏子のお告げと客観的歴史事実を基に淡路、徳島、京都、長野、能登、伊勢とアークの追跡が始まる。
もちろん最後はお決まりの「ドンパチ」の格闘戦!
アークと夏子とMKの恋の行方をお時間のある人はゆるーく一緒に見守ってあげてください!
では、よろひこー (⋈◍>◡<◍)。✧♡!
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる