19 / 35
18話 お遊びの終わり
しおりを挟む
「んー美味しい。朝陽、お茶淹れるのも上手いんだねぇ」
淹れたてのお茶に息を吹きかけながら、暮椿はちびちびと緑茶をすする。
「朝陽、料理も上手なの。ここね、父子家庭でしょ? パパも翔太も不器用だから、朝陽がお母さんの代わりに頑張って料理を覚えたんだって。朝陽も本当は不器用なのにね」
突然、朝陽の話が始まって、少々戸惑いを覚える。けれど、暮椿は気にしていないようだ。
「椿のこと、本当に嫌なら……無理やり追い出せばいいのに」
と、湯呑を揺らしながら呟き、続ける。
「いいお家でしょ? パパは翔太と朝陽を愛しているし、兄弟も大切に思い合ってる。みんなみんな優しいの」
宝物をなでるような言い方だった。
ゆっくりと味わっていた暮椿の湯呑が空っぽになる。テーブルに湯呑を置くと同時に、暮椿の口調は明るいものに変わる。
「白乃姫、いいよっ」
「え?」
「椿、お願い聞いてあげる。面白かったし、少し滞在したけど。もともと長く付き合うつもりはなかったしね。次に行くよ」
「え、本当? いいの?」
「うん、本当。これ以上は椿も嫌だな」
同じところに滞在するのは、と伸びをしながら言った時、居間から物音がした。
振り返ると、呆然として突っ立っている翔太の姿があった。人相が悪くガタイも良いため、凄みがある。朝陽が地元の不良なら、翔太は極道だ。
翔太の足元には、物音の正体であろう高級チョコレートが転がっている。
「く、暮椿……嘘だろ?」
「翔太おかえり。嘘じゃないよ。椿が今まで嘘ついたことあった?」
裸足のまま慌てて庭に降りた翔太は、暮椿の肩を掴む。
「な、なんで! そんな、急に。待ってくれ。あっ白乃姫か? 白乃姫に何か言われたのか?」
ひと箱一万円以上するチョコレートを拾い、翔太は白乃姫に手渡した。
「白乃姫、頼むやめてくれ! ほら、チョコやるから! 帰って凪と仲良く食え。な?」
「翔太。翔太、聞いて。白乃姫は関係ないの。言ったでしょ? 椿が、嫌なの」
諭すような言い方に、翔太は嫌だと首を振る。ぼろぼろと涙を流し、大きな男が小さな女の子に縋りつく姿は、なるほど確かに犯罪臭がした。
「嫌なところは全部直す! 欲しいものもなんでも……あ、いや。今は金に限度があるけど、でも、いつか絶対に買ってやる! だから暮椿、行かないでくれ!」
「何回も言ってるでしょ。椿は、高価なものなんて要らないの。毎回のお土産だってなくていいんだから。ほら、泣かないの。中で一度お話しよう? 白乃姫」
「あ、えっ、なに?」
人目も気にせず、あまりにも駄々をこねる翔太の姿に圧倒されていた。
地面に膝をつき、暮椿を抱きしめながら号泣する翔太は、見た目のいかつさからは想像も出来ない。朝陽は兄の武勇伝をいくつも語っていたが、本当に同一人物の犯行なのだろうか。
暮椿は泣き過ぎてむせる翔太の背中をさすりながら、申し訳なさそうに言った。
「巻き込んでごめんね? 楽しかったよ。凪にもよろしく」
「そ、それは俺からも頼む……っ。朝陽は俺の真似して、見てくれがああだから。誤解されやすいけど、優しい弟なんだ。末永く仲良くしてやってくれ」
「もう、そんなぐしゃぐしゃな顔でお兄さんぶって。ほら、中入ろ」
暮椿に手を引かれ、家の中に入る翔太は、まるで迷子の子供のようだった。
白乃姫は、チョコレートを片手に神社への帰路を歩く。
高級なチョコレートの味は、よく分からなかった。暮椿がなぜ急に、翔太から離れる気になったのかも分からなかった。
美しい細工が施されたチョコを一粒口に入れる。外はパリッとしていて、中のガナッシュは柔らかく、複雑な味がする。奥深い味が売りらしい。
前に、一枚は多いからと、凪と半分こした板チョコの方がずっと美味しいと思った。
淹れたてのお茶に息を吹きかけながら、暮椿はちびちびと緑茶をすする。
「朝陽、料理も上手なの。ここね、父子家庭でしょ? パパも翔太も不器用だから、朝陽がお母さんの代わりに頑張って料理を覚えたんだって。朝陽も本当は不器用なのにね」
突然、朝陽の話が始まって、少々戸惑いを覚える。けれど、暮椿は気にしていないようだ。
「椿のこと、本当に嫌なら……無理やり追い出せばいいのに」
と、湯呑を揺らしながら呟き、続ける。
「いいお家でしょ? パパは翔太と朝陽を愛しているし、兄弟も大切に思い合ってる。みんなみんな優しいの」
宝物をなでるような言い方だった。
ゆっくりと味わっていた暮椿の湯呑が空っぽになる。テーブルに湯呑を置くと同時に、暮椿の口調は明るいものに変わる。
「白乃姫、いいよっ」
「え?」
「椿、お願い聞いてあげる。面白かったし、少し滞在したけど。もともと長く付き合うつもりはなかったしね。次に行くよ」
「え、本当? いいの?」
「うん、本当。これ以上は椿も嫌だな」
同じところに滞在するのは、と伸びをしながら言った時、居間から物音がした。
振り返ると、呆然として突っ立っている翔太の姿があった。人相が悪くガタイも良いため、凄みがある。朝陽が地元の不良なら、翔太は極道だ。
翔太の足元には、物音の正体であろう高級チョコレートが転がっている。
「く、暮椿……嘘だろ?」
「翔太おかえり。嘘じゃないよ。椿が今まで嘘ついたことあった?」
裸足のまま慌てて庭に降りた翔太は、暮椿の肩を掴む。
「な、なんで! そんな、急に。待ってくれ。あっ白乃姫か? 白乃姫に何か言われたのか?」
ひと箱一万円以上するチョコレートを拾い、翔太は白乃姫に手渡した。
「白乃姫、頼むやめてくれ! ほら、チョコやるから! 帰って凪と仲良く食え。な?」
「翔太。翔太、聞いて。白乃姫は関係ないの。言ったでしょ? 椿が、嫌なの」
諭すような言い方に、翔太は嫌だと首を振る。ぼろぼろと涙を流し、大きな男が小さな女の子に縋りつく姿は、なるほど確かに犯罪臭がした。
「嫌なところは全部直す! 欲しいものもなんでも……あ、いや。今は金に限度があるけど、でも、いつか絶対に買ってやる! だから暮椿、行かないでくれ!」
「何回も言ってるでしょ。椿は、高価なものなんて要らないの。毎回のお土産だってなくていいんだから。ほら、泣かないの。中で一度お話しよう? 白乃姫」
「あ、えっ、なに?」
人目も気にせず、あまりにも駄々をこねる翔太の姿に圧倒されていた。
地面に膝をつき、暮椿を抱きしめながら号泣する翔太は、見た目のいかつさからは想像も出来ない。朝陽は兄の武勇伝をいくつも語っていたが、本当に同一人物の犯行なのだろうか。
暮椿は泣き過ぎてむせる翔太の背中をさすりながら、申し訳なさそうに言った。
「巻き込んでごめんね? 楽しかったよ。凪にもよろしく」
「そ、それは俺からも頼む……っ。朝陽は俺の真似して、見てくれがああだから。誤解されやすいけど、優しい弟なんだ。末永く仲良くしてやってくれ」
「もう、そんなぐしゃぐしゃな顔でお兄さんぶって。ほら、中入ろ」
暮椿に手を引かれ、家の中に入る翔太は、まるで迷子の子供のようだった。
白乃姫は、チョコレートを片手に神社への帰路を歩く。
高級なチョコレートの味は、よく分からなかった。暮椿がなぜ急に、翔太から離れる気になったのかも分からなかった。
美しい細工が施されたチョコを一粒口に入れる。外はパリッとしていて、中のガナッシュは柔らかく、複雑な味がする。奥深い味が売りらしい。
前に、一枚は多いからと、凪と半分こした板チョコの方がずっと美味しいと思った。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
ロストデイズ
葵依幸
キャラ文芸
“私たちの願い事は神様によって「叶わない」と否定された”
12の神々は12の少女を選び「巫女」として力を与え、戦わせる。
生き残った勝者には御褒美として「願い事」を叶えてもらえる。
神様達の暇つぶし、願いが叶わぬ少女を使った単純なゲーム。
殺し合いの中で彼女達は、到底叶えられないハズの
自分の願いと向き合う事になる——。
※オーディオドラマ「ロストデイズ」も配信しておりますので、よろしければそちらもお楽しみください。
『元』魔法少女デガラシ
SoftCareer
キャラ文芸
ごく普通のサラリーマン、田中良男の元にある日、昔魔法少女だったと言うかえでが転がり込んで来た。彼女は自分が魔法少女チームのマジノ・リベルテを卒業したマジノ・ダンケルクだと主張し、自分が失ってしまった大切な何かを探すのを手伝ってほしいと田中に頼んだ。最初は彼女を疑っていた田中であったが、子供の時からリベルテの信者だった事もあって、かえでと意気投合し、彼女を魔法少女のデガラシと呼び、その大切なもの探しを手伝う事となった。
そして、まずはリベルテの昔の仲間に会おうとするのですが・・・・・・はたして探し物は見つかるのか?
卒業した魔法少女達のアフターストーリーです。
つくもむすめは公務員-法律違反は見逃して-
halsan
キャラ文芸
超限界集落の村役場に一人務める木野虚(キノコ)玄墨(ゲンボク)は、ある夏の日に、宇宙から飛来した地球外生命体を股間に受けてしまった。
その結果、彼は地球外生命体が惑星を支配するための「胞子力エネルギー」を「三つ目のきんたま」として宿してしまう。
その能力は「無から有」。
最初に付喪としてゲンボクの前に現れたのは、彼愛用の大人のお人形さんから生まれた「アリス」
その後も次々と(主にアリスの)欲望によって、付喪を生み出していくゲンボク。
さあ、爺さん婆さんばかりの限界集落から、ちょっとおかしい日常を発信だ!
完結【R―18】様々な情事 短編集
秋刀魚妹子
恋愛
本作品は、過度な性的描写が有ります。 というか、性的描写しか有りません。
タイトルのお品書きにて、シチュエーションとジャンルが分かります。
好みで無いシチュエーションやジャンルを踏まないようご注意下さい。
基本的に、短編集なので登場人物やストーリーは繋がっておりません。
同じ名前、同じ容姿でも関係無い場合があります。
※ このキャラの情事が読みたいと要望の感想を頂いた場合は、同じキャラが登場する可能性があります。
※ 更新は不定期です。
それでは、楽しんで頂けたら幸いです。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
宮廷の九訳士と後宮の生華
狭間夕
キャラ文芸
宮廷の通訳士である英明(インミン)は、文字を扱う仕事をしていることから「暗号の解読」を頼まれることもある。ある日、後宮入りした若い妃に充てられてた手紙が謎の文字で書かれていたことから、これは恋文ではないかと噂になった。真相は単純で、兄が妹に充てただけの悪意のない内容だったが、これをきっかけに静月(ジンユェ)という若い妃のことを知る。通訳士と、後宮の妃。立場は違えど、後宮に生きる華として、二人は陰謀の渦に巻き込まれることになって――
スラッシュ/キーダー(能力者)田母神京子の選択
栗栖蛍
キャラ文芸
雪の降る大晦日、京子は帰省中の実家で招集命令を受けた。
東京で大きな爆発が起きたという。
一人新幹線に飛び乗った京子はまだ15歳で、キーダーとして最初の仕事になるはずだった──。
事件は解決しないまま5年が過ぎる。
異能力者がはびこる日本と、京子の恋の行く末は──?
エピソード1は、そんな京子の話。
エピソード2と3は高校生の男子が主人公。同じ世界に住む二人のストーリーを経て、エピソード4で再び京子に戻ります。
※タイトル変えてみました。
『スラッシュ/異能力を持って生まれたキーダーが、この日本で生きるということ。』→『スラッシュ/キーダー(能力者)田母神京子の選択』
※カクヨム様・小説家になろう様・ノベリズム様にも同じものをアップしています。ツギクル様にも登録中です。
たくさんの人に読んでいただけたら嬉しいです。
ブクマや評価、感想などよろしくお願いします。
1日おきの更新になりますが、特別編など不定期に差し込む時もあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる