妖派遣はじめました

もじねこ。

文字の大きさ
上 下
17 / 35

16話 初手は交際

しおりを挟む
「嫉妬深くて粘着質――その独特な妖気、さては蛇かな? 椿はそれも嫌いじゃないけど。凪には窮屈なんじゃない? 白乃姫なんてやめて、椿にしない?」
「必要ないのよ」

 白乃姫は人ではないから。凪と同じ道を、同じように歩んでいくことは出来ないけれど。
 それでも。幼き日々を共に過ごして、見守って、今日ここまでやってきた。凪を守ることは白乃姫の生きる意味だった。
 その場所だけは、白乃姫のものだ。歴史ある妖が相手だろうが、譲るつもりは毛頭ない。

「おっかなくて、可愛い護衛さん。ふふふ、楽しいね。これなら――」

 暮椿は翔太の家を意味深に見つめる。まるでゲームの新エリアを見つけたような表情だった。

「凪、次に会うときは怖い蛇さんがいない時にしようね。また会いに来て?」

 くすくすと悪戯をする少女のように笑ってから、暮椿は背を向ける。トンとまるで重力を感じさせないまま塀の上、屋根の上へと飛び乗り、屋根から屋根を移動していった。

「なんか面倒くさそうな妖だな。白乃、手伝うか?」
「ううん! 大丈夫! 凪は絶対手出しちゃ駄目!」
「でも」
「駄目! 絶対、駄目だからね⁉」

 あんな風に色目を使う妖に、凪を会わせるなんて気が気でない。おそらく、途中で口論ではなく、妖力勝負のガチンコバトルに発展するだろう。仕掛け人は、間違いなく白乃姫だ。辺り一帯が平地になるくらいには、暴れる自信がある。
 
 一週間、白乃姫は日に何度も、翔太の家付近で待機した。けれど、暮椿と遭遇することはなかった。土日を凪と過ごし、二日ぶりに訪れる。翔太は一軒家に家族三人で暮らしているらしい。母は父の浮気が原因で離婚、子を置いて家を出たそうだ。

「まったく、どこにいるのかしら」

 仁王立ちで翔太の家を睨んでいると、玄関の左手にある居間らしき部屋のカーテンレースが開く。ひょっこりと顔を覗かせて、室内から手を振るのは、探していた人物だ。

「ちょっと、あんた何してるのよ!」

 床から天井近くまである大きな窓がカラカラと開かれる。暮椿は腰を下ろすと、外に投げ出した足をぷらぷらとご機嫌に動かした。

「こんにちは、白乃姫」
「こんにちはじゃなくて、なんで家の中にいるのよ⁉」
「なんでって……翔太と付き合ってるから?」

 暮椿は膝の上で頬杖をついて言った。えへへ、とはにかむような笑顔は、天然ものではなく自身の可愛さを知った上での表情だろう。

「は⁉ 手を引くように言ったでしょう! なのにどうして」
「椿、いいよって言ってないもん。それに、椿が言うこと聞かないといけないわけじゃないでしょ?」
「それは、そうかもしれないけど。他に彼氏いたでしょ? ならわざわざ、この家に来ることないじゃない」

 白乃姫にとっての凪のように、唯一無二の存在なら。白乃姫も関わらないでくれなんて、頼みはしない。しかし誰でも構わない恋ならば、避けてくれたっていいではないか。

「だって、こっちの方が面白そうだったんだもん」
「とってもね」と、白乃姫を見ながら無邪気な笑顔を作った。長く生きた妖は、どうしてこう自由奔放なのだろう。頭が痛くなる。
「暮椿ー、どこだー? ケーキの用意出来たぞー」

 男の声だった。それも語尾にハートマークがみっつは付いていそうな、デレッデレの。本人の姿は見えないが、しまりのない顔をしているのが容易に想像出来る。

「あ、椿もう行かなきゃ」
「ちょっと! 待ちなさい!」
「なぁに? 覗かないでよ? 営みが始まったらどうするの」
「い、営みって……」

 突然、卑猥な話題に転換されて顔に熱が集中する。真っ赤になっているのが、自分でも分かった。

「あれ? その反応、もしかして凪とはまだ」
「も、もういいから! 早く行きなさい! ほら、呼ばれてるわよ!」
「可愛いなぁ。また来てね、白乃姫」

 くすくすと笑って言い残し、暮椿は窓を閉めた。ぱたぱたと、翔太のもとに駆け寄る足跡が聞こえる。
 面倒くさそうな妖、そう言った凪のジャッジは大正確だったようだ。
 白乃姫は火照る頬を押さえながら、為すすべもなく帰宅する。この戦いは長引きそうだ、そんな嫌な予感を感じながら。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

CODE:HEXA

青出 風太
キャラ文芸
舞台は近未来の日本。 AI技術の発展によってAIを搭載したロボットの社会進出が進む中、発展の陰に隠された事故は多くの孤児を生んでいた。 孤児である主人公の吹雪六花はAIの暴走を阻止する組織の一員として暗躍する。 ※「小説家になろう」「カクヨム」の方にも投稿しています。 ※毎週金曜日の投稿を予定しています。変更の可能性があります。

『元』魔法少女デガラシ

SoftCareer
キャラ文芸
 ごく普通のサラリーマン、田中良男の元にある日、昔魔法少女だったと言うかえでが転がり込んで来た。彼女は自分が魔法少女チームのマジノ・リベルテを卒業したマジノ・ダンケルクだと主張し、自分が失ってしまった大切な何かを探すのを手伝ってほしいと田中に頼んだ。最初は彼女を疑っていた田中であったが、子供の時からリベルテの信者だった事もあって、かえでと意気投合し、彼女を魔法少女のデガラシと呼び、その大切なもの探しを手伝う事となった。 そして、まずはリベルテの昔の仲間に会おうとするのですが・・・・・・はたして探し物は見つかるのか? 卒業した魔法少女達のアフターストーリーです。  

その男、凶暴により

キャラ文芸
映像化100%不可能。 『龍』と呼ばれる男が巻き起こすバイオレンスアクション

つくもむすめは公務員-法律違反は見逃して-

halsan
キャラ文芸
超限界集落の村役場に一人務める木野虚(キノコ)玄墨(ゲンボク)は、ある夏の日に、宇宙から飛来した地球外生命体を股間に受けてしまった。 その結果、彼は地球外生命体が惑星を支配するための「胞子力エネルギー」を「三つ目のきんたま」として宿してしまう。 その能力は「無から有」。 最初に付喪としてゲンボクの前に現れたのは、彼愛用の大人のお人形さんから生まれた「アリス」 その後も次々と(主にアリスの)欲望によって、付喪を生み出していくゲンボク。 さあ、爺さん婆さんばかりの限界集落から、ちょっとおかしい日常を発信だ!

完結【R―18】様々な情事 短編集

秋刀魚妹子
恋愛
 本作品は、過度な性的描写が有ります。 というか、性的描写しか有りません。  タイトルのお品書きにて、シチュエーションとジャンルが分かります。  好みで無いシチュエーションやジャンルを踏まないようご注意下さい。  基本的に、短編集なので登場人物やストーリーは繋がっておりません。  同じ名前、同じ容姿でも関係無い場合があります。  ※ このキャラの情事が読みたいと要望の感想を頂いた場合は、同じキャラが登場する可能性があります。  ※ 更新は不定期です。  それでは、楽しんで頂けたら幸いです。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

午後のはなし

てふ102
キャラ文芸
夜は様々な考えを思い起こさせる。 良くも悪くも考えを煽る。

高貴なる人質 〜ステュムパーリデスの鳥〜

ましら佳
キャラ文芸
皇帝の一番近くに控え、甘言を囁く宮廷の悪い鳥、またはステュムパーリデスの悪魔の鳥とも呼ばれる家令。 女皇帝と、その半身として宮廷に君臨する宮宰である総家令。 そして、その人生に深く関わった佐保姫残雪の物語です。 嵐の日、残雪が出会ったのは、若き女皇帝。 女皇帝の恋人に、そして総家令の妻に。 出会いと、世界の変化、人々の思惑。 そこから、残雪の人生は否応なく巻き込まれて行く。 ※こちらは、別サイトにてステュムパーリデスの鳥というシリーズものとして執筆していた作品の独立完結したお話となります。 ⌘皇帝、王族は、鉱石、宝石の名前。 ⌘后妃は、花の名前。 ⌘家令は、鳥の名前。 ⌘女官は、上位五役は蝶の名前。 となっております。 ✳︎家令は、皆、兄弟姉妹という関係であるという習慣があります。実際の兄弟姉妹でなくとも、親子関係であっても兄弟姉妹の関係性として宮廷に奉職しています。 ⁂お楽しみ頂けましたら嬉しいです。

処理中です...