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執事コンテストと亀裂。
執事コンテストと亀裂⑤③
しおりを挟む伊達と別れ、結人は今自分の家まで足を進めている。 まさか、伊達が自分を応援してくれるとは思ってもみなかった。
それを言うなら、藍梨と伊達は付き合っていなかったという事実の方が驚いたが。
―――もう付き合っていても、おかしくはない仲のよさだったのにな。
伊達から『藍梨は今でも色折のことを想っているよ』と言われた時は凄く嬉しかった。 だがその反面、申し訳ない気もしたのだ。
彼から、藍梨を奪ってしまうような気がして。 本当にこれでよかったのだろうか。 彼の気持ちを分かっていながらも明日藍梨に告白するなんて、どうしてか心が痛む。
―――でも・・・仕方ないよな。
―――俺は藍梨のこと、今でも諦め切れねぇもん。
藍梨を誰かに取られてしまう前に、行動を起こさなきゃと思ってしまうのだ。
―――さっき伊達から言われたことを無駄にしないように、俺は明日頑張るしかないよな。
もし彼女に自分の気持ちを再び伝えなかったら、結黄賊のみんなや伊達の期待を裏切ってしまう。 それだけは避けたかった。 そして結人は、他のことも思い出す。
『・・・色折は、初めて見た時から俺の憧れだったから』
初めてとは、自分のことをいつ見たのだろうか。 伊達と知り合ったのは、コンテストの期間に入ってからだ。 その前から、結人のことを知っていたとでも言うのだろうか。
色々なことを思い出して考えているうちに、結黄賊の仲間のことを思い出した。
―――・・・そうだ、真宮だ。
―――真宮に連絡しねぇと。
彼に電話をし、今日結黄賊みんなで話し合ったことを全て伝えた。 コウが赤眼虎に手を出したことについて。
柚乃のことで、自分の心は揺さぶられていたことについて。 そして――――藍梨にまた、気持ちを伝えるということについて。
彼女に気持ちを伝えると言ったら、真宮は自分のことのように凄く喜んでくれた。 まだ結果も、何も分かっていないというのに。
藍梨を無事に家まで送ってくれたらしく、礼を言い彼との電話を切った。 次は柚乃に電話をかける。 彼女に今日起きた赤眼虎との喧嘩の結果を報告した。
そしたら『お疲れ様』と、優しい声で言ってくれた。
―――ありがとな、柚乃。
そして柚乃のことも、ちゃんと振らなくてはならない。 電話では失礼だと思い『木曜日に会えないか』と聞いたところ大丈夫らしく、その日に会うことになった。
明日は藍梨に告白をするため、帰りが遅くなると思い明後日に会うことにしたのだ。 明日は藍梨と正面から向き合う日。 そして、自分の気持ちをもう一度藍梨に伝える日。
―――俺はもう逃げないよ。
―――見ていてな・・・柚乃。
―――俺は、強くなるよ。
翌日 水曜日 沙楽学園1年5組
次の日となった。 今日は藍梨に告白をする日だ。
朝から凄く緊張していたし、彼女を見るたびにドキドキして“放課後なんて来るな!”と何度も思っていたが、何だかんだで来てしまった。
―――早かったな・・・時間経つの。
今は帰りのホームルームで、先生が明日の日程を淡々と話している。 この後、結人は藍梨を呼び出すつもりでいた。
そう――――藍梨に、振られた場所に。
そこからまた新しいスタートを切るのだ。 今日藍梨に告白をするということは、伊達にしか言っておらず結黄賊のみんなには伝えていない。
振られてもいいから、頑張って気持ちを伝えよう。 結果は自分の気持ちを伝えてから考えればいい。
今どうせ振られるなんてことを考えていても、自分にとってはマイナスでしかないから。
だったら、今はそんなことは考えずに気持ちを伝えるだけというプラスの方向へ、考えていこう。
「じゃあ、今日のホームルームは終わりー。 みんな立ってー。 はい、さようなら」
ホームルームが終わった瞬間、教室にいる生徒の3分の1が一気に教室から出て行った。
残っている生徒は、友達同士で話している者もいれば、部活のために着替えている者もいる。
周りは凄くざわついており、まるで結人の今の気持ちを紛らわせてくれているような気がした。 そんな中、覚悟を決めて藍梨に声をかける。
「藍梨、話がある。 2年C組で待っているから」
それだけを告げ、結人は教室から出て行った。 “クラスがざわついていてよかった”と、今では思う。
静かだったら――――彼女を誘うという一瞬の勇気すらも、出ていなかったのかもしれないから。
その時――――藍梨みたいに誘われている者が、もう一人いた。
「北野くん。 ちょっといい?」
北野が誰かに誘われている間、結人は先程言った2年C組、空き教室へと向かう。 藍梨を誘うことができた。 あとは彼女の到着を待って、気持ちを伝えるだけ。
ただ『好き』と、伝えるだけ。
―――ちゃんと気持ちを伝えることができるよな。
―――俺はもう逃げないって決めたんだ。
―――この現実から・・・絶対に背を向けない。
―ガラッ。
藍梨が来てくれた。 彼女は何も言わずに、結人の目の前まで歩いてくる。
―――ここまで来たら、本当に逃げられないよな。
―――言うんだぞ・・・俺。
「藍梨」
続けて自分の気持ちを言おうとしたが、言葉に詰まってしまった。
―――言うんだよ、俺・・・ッ!
―――どうして先の言葉が言えないんだ!
―――なら・・・初めて藍梨に気持ちを伝えた日、どうしてあの時は簡単に言うことができたんだよ!
―――何をやってんだよ・・・色折。
―――どうしてその先の言葉が出ないんだ。
結人が藍梨に頑張って気持ちを伝えようとしている時、2年C組の目の前の廊下には伊達がいた。
廊下といっても、教室のドアに隠れていて結人たちには姿を見られないようにしている。
―――早く気持ちを伝えろよ。
―――こんな状況、俺がずっと見ていられるわけないだろ!
早く終わって、このまま帰りたいと思った――――その時だった。
「・・・伊達くん?」
小声で自分の名を呼ばれ、その声の方向へ振り返る。
「・・・高橋?」
そこにいたのは、高橋梨咲。 中学校が一緒で、普通に話せる仲だった。
「高橋がどうしてここにいるんだ?」
素直に疑問に思ったことを彼女に伝える。
「どうしてって・・・。 結人にここへ来るよう、言われたから?」
―――え?
―――それって、つまり・・・。
「高橋も俺と同じことを言われたのか?」
「え? 同じって・・・。 伊達くんも、結人にここへ来るよう言われたの?」
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