心の交差。

ゆーり。

文字の大きさ
上 下
86 / 365
執事コンテストと亀裂。

執事コンテストと亀裂㊹

しおりを挟む



―――何だよ、これ・・・!

伊達は――――藍梨と公園に、来ただけだった。 ただ、それだけだったのに。 
―――何なんだよ・・・これ。
伊達は今、いつも人がいない公園に今日は珍しく人がいるということで、驚いているわけではない。
“どうしてこんなに人気のない公園で、喧嘩なんてものが繰り広げられているのか”という疑問しかなかった。 
これは――――伊達にとって、今まで見たこともない光景。 そして、人数だった。 しかも――――その中には、伊達の知っている者もたくさんいる。
そこで、彼らの共通点に気付いた。

―――黄色・・・?

そう――――ここにいる彼らは、黄色のバンダナを身体のあちこちに巻いており、黄色のバッジを胸元に付けていたのだ。 
そんなことを考えていると、いつの間にか伊達の目の前には顔の知らない男が現れる。
「は・・・。 誰だよ、お前・・・」
こういう時は、どうしたらいいのだろうか。 自分には今、一体何ができるのだろうか。 
―――不良に絡まれた時、どうしたらいいのか聞いておけばよかった・・・!
―――あ、そうだ藍梨! 
―――早く藍梨をこの場から、逃がしてやらないと!
「藍梨!」
だが――――藍梨の方へ振り向きそう口にした時には、既に彼女は不良に捕まっていた。
―――くそッ! 
―――一体何なんだよコイツら!
―――ここは一発相手に食らわせて、藍梨を助けに行った方がいいよな。 
―――もう時間がないんだ! 
―――よし、落ち着け、俺・・・。 
―――俺なら・・・できる。
覚悟を決め、拳に力を入れて相手に殴りかかろうとした――――その瞬間。

「ソイツから離れろよ!」

その声と共に、目の前にいた男は2メートル程先まで飛んでいった。 いや――――飛んでいったというよりも、誰かが男を蹴り飛ばした。
―――誰・・・?
伊達はすぐにその声の主を見る。 

―――・・・八代。

「大丈夫か? 伊達。 相手はまだ意識があるから、気を付けろよ」
そう言いながら、夜月は自分の背中で伊達のことを隠すよう前に立った。
―――・・・こんなところで、何をしてんだよ、八代。 
―――あぁ、もう意味が分かんねぇ・・・!
―――どうして八代が、コイツらなんかと喧嘩してんだよ!
そこでふと、藍梨のことを見る。
―――・・・どうして、藍梨は苦しそうな表情を一切しないんだよ。
―――藍梨は何か知ってんのか? 
―――知ってんだよな? 
―――つか、知ってんだろ!?
「なぁ、八代・・・」
ゆっくりと口を開き、夜月の名を呼んだ。
「あ? 何だよ」
彼は振り向かずに、耳だけを伊達の方へ向け意識を集中させる。 もうこの状況には我慢できなかった。 

―――八代に聞いて、全て解決させるんだ。

「・・・どうして、藍梨は何も感じないんだよ」
「・・・は?」
そう言うと、夜月は伊達の方へ顔だけを向けて聞き返す。
「どうして、藍梨はお前らのことを見て何も言わねぇんだよ! 普通は怖がったり怯えたりするだろ!?」
「・・・」
強めの口調で夜月に向かってそう言葉を放つが、彼は静かな口調でこう呟いた。 だが――――次に彼が口にした言葉は、伊達にとって聞きたくもない最悪な発言だった。

「・・・は、何を言ってんだよ。 藍梨さんはユイと付き合ってんだから、こういうことは知っていて当然だろ」

「・・・は?」

―――今、何て言った? 
―――藍梨と色折は付き合っている? 
―――何を言ってんだよ・・・八代。 
―――違うだろ? 
―――藍梨は色折とは付き合っていないと言っていたんだ。 
―――藍梨からその言葉を聞いてからのこの短期間で、二人は付き合ったとでも言うのか?

伊達がそんなことを考えている間、夜月は再び目の前で不良と喧嘩し合っていた。

―――いや、そんなはずはない。 
―――土曜日はメールや電話をちょくちょくしていたし、日曜日だって藍梨とずっと一緒にいた。
―――昨日は色折が大変そうで藍梨と一緒に話しているところなんて、俺が見ている限りそんな場面はなかった。
―――だから、何を言ってんだよ・・・八代。 
―――藍梨と色折は、付き合っているわけがないだろ。
―――それともあれか? 
―――八代は・・・俺を騙そうとしてんのかよ。

伊達は俯き、小さな声で言葉を発する。
「八代・・・」
「あぁ? 何だよ!」
夜月は今もなお相手と喧嘩している。 だが伊達は、そんなことには意に介さず言葉を続けた。 それも、何も感情がこもっていない――――冷たい口調で。

「藍梨は、今誰とも付き合っていないって・・・言っていたぜ」

「・・・は?」
夜月はその言葉だけを言い、相手に思い切りパンチを食らわせた。 そして相手が倒れて動けなくなったのを確認し、伊達の方へ振り返ってこう口にする。

「・・・それ、どういう意味だよ」

伊達と同様、夜月も――――何も感情がこもっていない、冷たい口調で。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

処理中です...