心の交差。

ゆーり。

文字の大きさ
上 下
73 / 365
執事コンテストと亀裂。

執事コンテストと亀裂㉛

しおりを挟む



同時刻


その時藍梨は、伊達と一緒に原宿へ来ていた。
「人すごーい!」
そこには、立川に負けじと多くの人たちで賑わっている。 先刻伊達が言っていた通り、若者が凄く多かった。 今日はまだ気温が高い方のため、人の多さでより暑く感じる。
「まぁ、渋谷の方が人は多いと思うけどな」
伊達はそう言い、二人は駅から出て適当に街を歩き回った。 伊達と初めての休日で緊張している藍梨を、遠くから太陽が優しく照らしてくれている。
そんな太陽が、とても眩しく感じた。 だが歩いている最中頑張って彼に付いていくも、人が多過ぎてたくさんぶつかってしまう。
「あ、ごめんなさい・・・」
藍梨は東京の人ごみには慣れておらず、人とぶつかったりするなんて夏祭り以外にはあまり経験がなかった。
接触し謝っても東京の人は謝ってくれず、罪悪感だけが藍梨に残る。 そんな藍梨を見かねて、伊達が優しく声をかけてくれた。
「大丈夫?」
その言葉を聞いて、小さく頷く。 そう頷いてしまったが、頑張って人を避けながら歩くもやはり人とぶつかってしまった。
原宿には女子同士で来る人や、カップルがとても多い。 カップルにぶつかってしまうと、男の人が怖い顔をしながら藍梨の顔を見ては通り過ぎていく。 

―――・・・何か、怖いな。

そんなことを考え油断していると、目の前から来た人と思い切りぶつかってしまった。
「いたっ」
その勢いでこの場に崩れそうになるが、伊達が手を伸ばし藍梨の身体を支えてくれる。
「いや、大丈夫じゃないでしょ」
そう言って、彼は少し笑った。 みっともない姿を見せてしまったことに、恥ずかしくて静かに俯く。 伊達は人が少ない場所まで誘導してくれ、藍梨と向き合ってこう口にした。
「手、繋ぐ?」
「え?」
躊躇いもない突然の発言に、少しドキッとしてしまう。

「もし藍梨が、今みたいに人とぶつかっても俺が支えられるように。 それと、俺たちがはぐれないように」

伊達は優しく微笑みながらそう言い、藍梨に左手を差し出した。 この行為はコンテストの練習でよくされているため、少しは慣れている。 
藍梨は伊達の優しさを素直に受け入れ、彼の手に自分の右手をそっと添えた。 すると彼は、先刻よりも優しく微笑む。 

そして二人は竹下通りへ来た。 ここは商店街なのだろうか。 若者がより多く、とても賑わっている。 まるで夏祭りに来ているようだった。 
伊達は迷いもなく、竹下通りへ入っていく。
「この通りは女子中学生や女子校生がよく来る場所なんだ。 きっと藍梨も、気に入ると思うよ」
そう言って、二人は可愛い小物がたくさん置いてある雑貨屋さんに来た。 人が多くて奥までは見えないが、可愛らしいものがあるということはお店の雰囲気で分かる。
『入る?』と聞かれたので頷き、伊達が藍梨の前に立って道を空けてもらいながら奥へと進んでいった。 進みながら、飾られている小物をずっと見ていく。 
大きなものや小さなものがたくさん置いてあった。 とても可愛くて見入ってしまうものがあるが、伊達はどんどん奥へと進んでいた。
「あっ、これ可愛い!」
藍梨は頑張って次々と流れていく小物を見ていると、今まで小物を見ていた中で一番可愛いストラップを見つけ思わず声を上げてしまう。
その声に伊達は気付き歩く足を止め、振り返って藍梨の近くまで寄って来た。
このストラップは鍵の形をしていて、鍵の中には色の付いた小さなハートがぶら下がっている。 とても可愛くて、一目見ただけで凄く気に入った。
このストラップをずっと見ていると、伊達は藍梨に向かって小さく呟く。
「それ、可愛いね」
その言葉に笑顔で頷くと、伊達は藍梨の目を見てこう言った。
「そのストラップ買う?」
その問いに少しの間考え、彼に向かってそっと口を開く。

「一緒にお揃いの買おう?」

この鍵のハートの部分は、5種類の色がある。 今日は折角伊達と原宿へ来たため、思い出を残しておきたかったのだ。
彼は少し躊躇っていたが、照れ臭そうにこう言葉を返す。
「うん、いいよ。 じゃあ俺は、青にしようかな。 藍梨はピンク?」
そう言いながらハートがピンク色のストラップを手に取り、藍梨の目の前まで持ってきて見せてくれた。
彼は藍梨の好きな色を憶えてくれていた。 そのことも踏まえ笑顔で頷くと、伊達と再び手を繋ぎストラップを持ってレジへと向かう。
「俺が奢るから」
そう言って二つまとめて払い、ピンク色のストラップを藍梨に渡してくれた。
藍梨は『自分のものは自分で買いたい』と言ったが、伊達は『大丈夫だよ』の一点張りで言うことはを全然聞いてくれず、結局は奢ってもらう形となる。
伊達には感謝をしていた。 このストラップをどこに付けようかと話し合った結果、学校のバッグに付けることになった。
それからは人ごみに慣れたのか、買い物がスムーズに進みとても楽しい時間を過ごすことができた。 

ふと携帯を見ると、そろそろお昼時。
「お腹空いたなぁ・・・」
そう小さく呟くと、伊達は藍梨の言った言葉が聞こえたようで優しくこう言ってくれた。
「どこかへ入る?」
「私、あまり食べられないと思うから・・・」
その言葉に首を横に振りながらそこまで言いかけると、彼は何かを察してくれたようで藍梨をフォローするように言葉を発した。
「あぁ、そうだったね。 藍梨は少食だっけ。 じゃあ・・・」
そう言うと伊達はしばし黙り込み、突然何かを思い出したかのように声を上げる。
「あ! そうだ、じゃあクレープでも食べる? この通りで、有名なクレープ屋があるんだ」
そして伊達は、藍梨をクレープ屋まで連れていってくれた。 流石に有名ということもあり、人もたくさん並んでいる。 二人は最後尾に並び食べたいクレープをそれぞれ決めた。 
―――どれも美味しそうだなぁ。
クレープの種類はたくさんあり、迷ってしまう。 フルーツだけでなく、サンドウィッチみたいな野菜や肉を使ったクレープもあった。
―――流石にこれは量が多くて食べ切れないな。 
―――私はフルーツのものにしよう。
色々と決めていると、藍梨たちの番が来てそれぞれ注文する。 クレープ代も伊達が払ってくれた。 そんな彼の行為に、藍梨は申し訳なく思ってしまう。
「ありがとう」
クレープを受け取り、二人は人通りが少ないところまで行きそこでクレープを食べた。 今いるこの通りはお店がないため、休んだりしている人が多く見受けられる。 
藍梨たちも、さりげなくその中に加わった。
「美味しい!」
「そう? よかった」
伊達は安心した顔をしながらそう返す。 伊達と一緒に食べるクレープはとても美味しく、とても甘かった。 

この時の藍梨は、本当に幸せな時間を過ごせたと思う。 それはやはり、結人のことを考えていなかったからだろうか。 
結人のことを考えるだけで、いつも胸が苦しくなってしまう。 だけど今は、藍梨の目の前にいるのは伊達だ。 結人ではない。 
だから今は伊達のことだけを考えていればいい。 今もなお二人を照らしてくれている太陽は、そんな藍梨を励ましてくれているかのように思えた。

そして――――“大丈夫、藍梨は一人じゃないよ”と、囁いてくれているような気もした。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

恋もバイトも24時間営業?

鏡野ゆう
ライト文芸
とある事情で、今までとは違うコンビニでバイトを始めることになった、あや。 そのお店があるのは、ちょっと変わった人達がいる場所でした。 ※小説家になろう、カクヨムでも公開中です※ ※第3回ほっこり・じんわり大賞で奨励賞をいただきました。ありがとうございます。※ ※第6回ライト文芸大賞で奨励賞をいただきました。ありがとうございます。※

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

ジャック・ザ・リッパーと呼ばれたボクサーは美少女JKにTS転生して死の天使と呼ばれる

月狂 紫乃/月狂 四郎
ライト文芸
あらすじ  ボクシングの世界戦を目前にして不慮の事故で亡くなったリュウは、運命の女神に出会ってまさかの美少女JKへと転生する。  志崎由奈という新しい名前を得た転生JKライフでは無駄にモテまくるも、毎日男子に告白されるのが嫌になって結局ボクシングの世界へと足を踏み入れることになる。  突如現れた超絶美少女のアマチュアボクサーに世間が沸き、承認願望に飢えたネット有名人等が由奈のもとまでやって来る。  数々のいざこざを乗り越えながら、由奈はインターハイへの出場を決める。  だが、そこにはさらなる運命の出会いが待ち構えていた……。 ◆登場人物 志崎由奈(しざき ゆな)  世界戦を迎える前に死亡した悲運のボクサーの生まれ変わり。ピンク色のサイドテールの髪が特徴。前世ではリュウという名前だった。 青井比奈(あおい ひな)  由奈の同級生。身長150センチのツインテール。童顔巨乳。 佐竹先生  ボクシング部の監督を務める教師。 天城楓花(あまぎ ふうか)  異常なパンチ力を持った美少女JKボクサー。 菜々  リュウの恋人。

メガネから見えるバグった世界 〜いいえ、それは仕様です〜

曖昧風味
ライト文芸
「凄いバグ技を見つけてしまった」  同じクラスだけどあまり付き合いのなかった無口なメガネくん。そんな彼が唐突にそう話しかけてきた時、僕は何故かそれを見てみたいと思ってしまったんだ。  目の前で実演される超能力じみた現象は一体なんなのか?  不思議な現象と、繰り返される記憶の喪失の謎を追う高校生達のとある青春の1ページ。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

透明少女症候群

塔野とぢる
ライト文芸
この世界の少女の何割かは、18歳を迎える頃、透明になって消えてしまう。

ヒルガエル

駄犬
ライト文芸
冒頭より——  日本国に於いて、ギャンブルといえば競馬、競艇、競輪、ひいては法的地位が曖昧なパチンコなどが最もポピュラーだろう。だが、カジノ法案という「統合型リゾート施設整備推進法」が可決されてから、カジノ施設の営業が正式に許されている。だが、実際にカジノ施設の誘致に手を上げる都市は現れなかった。その原因の大半を占めたのは、市民に対する顔色伺いであった。カジノの誘致に消極的になる大義名分にギャンブル依存症があったものの、治安の悪化を懸念する市民の声に敏感に反応した結果だ。そんな中で神奈川県紅羽市は、カジノを含んだ複合観光集客施設の営業を積極的に働きかけ、モデルケースになると踏んだ軽重の異なる様々な企業が関わった。

遠い日の橙を藍色に変えるまで

榎南わか
ライト文芸
朝日に濡れた、神社から見下ろすこの瑞々しい景色を、はるか昔にも同じように見た。 あの日、私は貴女にはまだ出会っていなくて、まだ痛みを知らない子供だった。 隣にいた君の想いにも気付かぬままで、ずっと同じような日が続いて行くと信じて疑わなかった。 だから今、2回目の生を巡っているこの身体に誓っている。 私の想いなんてどうだっていい。 貴女を、私は救いに来たよ。

処理中です...