心の交差。

ゆーり。

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執事コンテストと亀裂。

執事コンテストと亀裂㉔

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同時刻 藍梨の家


藍梨は慌ててキャッチの電話に出る。
『藍梨? 今平気?』
相手は伊達からだった。
「うん、平気だよ」
彼の問いに、藍梨は嬉しそうに答える。 だが――――また結人に、嘘をついてしまった。 電話越しで話す結人の声に『大丈夫だよ』と嘘をつく藍梨。 
どうしてこんなに、素直ではないのだろうか。 だが結人は『藍梨は大丈夫じゃない』と気付いてくれた。 それは嬉しかった。 
それに昨日結人は、藍梨のことを捜してくれていたのだ。 

―――結人はどうせ来てくれないなんて・・・思わなきゃよかった。
―――でも、私は結人に心配をかけたくなかったから、我慢したんだよ。 
―――・・・ねぇ、結人。
―――もし私が『結人に会いたい』って言ったら、結人は私のところへ来てくれる?

『じゃあ、明日は10時な。 俺が藍梨の家まで迎えに行くから』
「うん、ありがとう」

―――結人。 
―――私は本当に何でもないんだよ。 
―――ただ、寂しいだけなの。 
―――結人は、私が寂しいっていうことに気付いてくれてる?
―――本当は寂しいだけだと、気付いてほしい。 
―――こんなの、わがままかな。
―――・・・もう、強がり過ぎて何もかもが上手くいかないな。





数分後


結人は梨咲との待ち合わせ場所、駅前に向かう。 彼女は既に到着していた。
「もう、結人遅いよー!」
「悪い悪い。 でも、主役は遅れて登場すんのが普通だろ?」
笑いながらそう言うと、梨咲は『主役は結人かッ!』と笑いながら突っ込んでくれた。 それにしても、梨咲の私服を見るのは今日が初めてだ。
白を基調としたミニのワンピースを着ている。 金髪に近い髪色をした彼女には、凄く似合っていた。
いつもとは違った梨咲を見ているせいか、何故か少しドキドキしてしまっている自分がいる。
「結人、今日はどこか行きたいところでもある?」
彼女がニコニコしながらそう尋ねてきた。
「いや、どこでもいいよ。 梨咲は行きたいところないのか?」
「ある! 渋谷行こう! 結人と一緒に、一度行ってみたかったの」
結人は横浜に住んでいたため東京にはあまり詳しくなく、彼女の意見を素直に承諾して駅に向かう。 土曜日ということもあり、人はいつも以上に多く混雑していた。
「ねぇ結人。 今日の私の服、どう思う?」
「え? あぁ・・・。 まぁ、可愛いんじゃね」
なおもニコニコしながら顔を覗き込んでくる彼女に、思わず目をそらしてしまう。
「どうして目を見て言ってくれないのー?」
「あ? うるせぇな。 ほら行くぞ」
「え? 待ってよー!」
この空気に耐えられず、結人は梨咲を置いて早歩きで駅のホームまで足を運んだ。 彼女は後ろから、頑張って付いてきている。
電車の中は今の時間帯ということもあり、結構空いている方だった。 

そして無事に渋谷まで着き、駅を後にする。 渋谷には若者が多い。 そこで結人は“東京でも色々な人がいるんだな”と改めて実感する。 
どこかへ行く目的は特になく、とりあえず適当に歩くことにした。

「あ、これ可愛い!」
そう言いながら、梨咲は途中で見つけた服屋に入っていく。 そんな彼女に、黙って付いていった。
「どうこれ?」
「あぁ、梨咲に似合いそうだな。 赤よりそっちのピンクの方が、似合うと思うけど」
「本当? じゃあこれ買おうかなー」

そして――――梨咲の服選びを待つこと、約15分。
「これ買うことにした!」
そう言って、結人に3着の服を見せてきた。 どれも梨咲に似合いそうなものだった。 というより、彼女はどんな服でも似合うだろう。
「しゃーねぇな。 それ全部、俺に貸して」
笑いながらそう口にし、梨咲が持っている服らを全て手に取りレジへと向かう。
「え、どこへ行くの?」
「レジに決まってんだろ?」
「いいよ、結人は外で待ってて」
「いいから。 俺が買ってやる」
「え・・・。 でも」
「今日は、特別な」
優しく微笑みながらそう言うと、梨咲は嬉しそうに笑って素直に喜んでくれた。

「次はどこへ行く?」
「んー、カラオケ!」
そう言いながら、彼女は目の前にあるカラオケボックスを指差した。


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