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執事コンテストと亀裂。
執事コンテストと亀裂⑯
しおりを挟む木曜日 沙楽学園1年5組
「昨日、柚乃とはどうだった?」
結人は今、自分のクラスで夜月と一緒に話をしている。 昨日から夜月は柚乃の彼氏役となり、ストーカーの正体は一体誰なのかを探ろうとしてくれていた。
「んー、いや、特には」
「・・・そっか」
―――特に変わりがないなら、よかった。
だが、いつそのストーカーが動き出すのか分からない。 油断していると、きっとやられる。 彼には難しい役をやらせてしまって申し訳ないと、結人は改めて思った。
「あ、そういやさ。 何か昨日、喧嘩している集団に遭遇したわ」
「喧嘩?」
「そうそう。 まぁ、ただの不良たちのくだらない喧嘩だったしさ。 ユイからの命令もないし柚乃さんも隣にいたから、スルーしたけど」
この時の結人は、その喧嘩に対して特に深くは考えなかった。
だがこの時、その喧嘩の本当の意味にいち早く気付いていたら、この先あんな酷い目に遭わなくても済んだというのに――――
「・・・色折」
「?」
誰だろう。 今の声は夜月のものではない。 結人の名を呼んだ声は、あまり聞き慣れない声だった。
そんなことを思いながら声のする方へ顔を向けると、そこに立っていたのは―――――
―――・・・伊達?
―――どうして・・・伊達が、ここに?
―――つかお前・・・何だよ、その顔。
「何?」
伊達の異様な姿に戸惑いつつも、平静を装いながら用件を尋ねた。
「・・・藍梨、知らない?」
―――藍梨?
そう言われ、隣の席へ視線を移す。 だが、彼女の姿はない。
―――今日はまだ、学校に来ていないのかな。
「悪い、今日はまだ見ていないわ」
「そっか。 ありがとな」
礼を言うと、その後は特に話すことなく伊達は教室から出ていった。 そして彼の背中を見ながら、夜月は静かに口を開く。
「・・・アイツ、何であんなに傷だらけ?」
それは――――結人も思った。 昨日まで、あんなに怪我を負っていなかったのに。 そんな中、結人は一つの考えが頭の中を過る。
―――まさか、伊達が喧嘩を・・・?
突然隣からの視線が気になりふと夜月の方へ目をやると、彼は目を細くしながら結人のことをじっと見ていた。
「え・・・。 何?」
「もしかして、ユイがやったんじゃねぇだろうな」
「は!? んなわけねぇじゃん!」
「ははッ、だよな」
「・・・」
―――何だよ、夜月。
―――俺をからかったのか。
―――でも伊達は、喧嘩をするような奴には見えないし・・・。
そんなことを考えていると、真宮が結人たちのもとへやって来た。
「おう、真宮。 何か話すの久しぶりだな。 どうした?」
久々に話す真宮に向かって、無理に笑顔を作りながら言葉を発する。 そして彼は、申し訳なさそうな表情をしながら返事をした。
「うん、ちょっとな。 えっと・・・夜月」
「・・・あぁ、いいよ。 それじゃ、また来るわ」
夜月は空気を読んで、真宮が口にする前に自ら教室から出ていった。 そんな夜月に感謝しつつ、再び用件を切り出す。
「何だよ、真宮」
「あぁ、うん。 そのー・・・。 最近、藍梨さんとはどう?」
「・・・別に。 何も変わんねぇよ」
そう言いながら、彼から視線をそらした。
真宮は心配して自分に声をかけてくれたというのに、自分は彼の期待には応えることができず、気まずくなって思わず目をそらしてしまった。
こんな自分が――――嫌になる。
「じゃあさ。 俺に何か、できることはないか?」
「・・・できること?」
「少しでも、ユイの力になりたいんだ」
真剣な表情をしたまま、真宮はそう言葉を放つ。
―――真宮に、できること・・・。
それは――――
「みんなのことを、真宮に任せたい」
“みんな”というのは、もちろん結黄賊のことだ。 彼には当然“みんな”というワードの意味は伝わっているだろう。
「俺と夜月は、これから忙しくなりそうでさ。 だから、他のみんなが事件を起こさないように見ていてほしい」
「・・・」
そう言うが、彼は何も返事をしてこない。
「駄目、か・・・?」
小さな声でそう尋ねた瞬間、真宮は突然笑顔になった。
「もちろんするよ! それが、ユイの支えになるのなら」
―――・・・そんなに喜んでもらえると、俺も嬉しいな。
「もちろん支えになるよ。 真宮、ありがとな」
この後も二人で話をしていると、自分の隣に誰かが来るのを感じた。
「結人」
「・・・藍梨」
結人の名を小さな声で呼んだのは藍梨であり――――彼女の顔へ視線を移すと、目は赤くなっていて少し腫れていた。
―――昨日・・・たくさん泣いたりしたのかな。
「どうした?」
「その・・・」
藍梨は何か言うのを躊躇っている様子。 そんな彼女の背中を押そうと、結人が口を開こうとした瞬間――――先に真宮が、口を開いた。
「いいよ、行ってこいよ」
どうやら真宮は、結人と藍梨を二人きりにしてくれるみたいだ。 だけど――――今の彼女の表情を見る限り、いい話ではないのだろう。 きっと真宮も、そう思っている。
結人はそんな彼に礼を言い、藍梨と一緒に教室を出た。
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