心の交差。

ゆーり。

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執事コンテストと亀裂。

執事コンテストと亀裂⑧

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そして――――放課後になった。 結局結人は、梨咲に返事はできていない。
というより、誘いは何度も断ったのだが諦めてはくれなかったため、保留ということにして一度別れたのだ。 

そして結人は、4組へと足を運んだ。 一緒に下校すると約束してある夜月はまだ帰りの支度を終えていないらしく、結人は一人廊下で待っている。 
この後は、夜月と一緒に赤眼虎について探る予定だ。 待っている間、時間を潰そうと近くにいる悠斗に声をかけた。
「悠斗ー。 梨咲って人、知っているか?」
未来の席は夜月と悠斗から少し離れているため、噂好きな未来ではなく悠斗に声をかける。 
「リサ? 高橋梨咲?」
「あぁ、そうそう」
―――何だ、悠斗も知ってんのか。
―――俺はどれだけ藍梨に夢中だったんだろうな。 
―――同じ学年の奴らのことも、あまり把握できていないだなんて。
そのようなことを思っていると、悠斗はその問いに対し淡々とした口調で答えていく。

「あー、その人は結構有名だよね。 “学年一のマドンナ”って言われてる」

「ッ、マドンナ!?」
その単語を聞いて、結人は一瞬で反応を示した。
「実際見たけど、梨咲さん美人だったよね。 すれ違うだけでも、結構目立つし。 狙っている男子も多いと思うよ。 だけど、その人がどうしたの?」
突然我に返ったかのように、悠斗は結人を見て不思議そうに尋ねてくる。 そんな彼に、慌てて首を横に振った。
「え? あぁ、いや、何でもねぇよ」
「? そう」
―――梨咲って、結構有名な奴なんだな。 
―――クラスが遠いせいか、全然知らなかった。
―――まぁ・・・1組へ行った時は、確かに目立っていて梨咲のことを一瞬でも見ていたのかもしれないが・・・。

悠斗と話している間に夜月は支度を終え、結人たちは共に学校を後にした。 夜月と一緒に歩きながら、赤眼虎らしき人物を探す。
だが、結人の知っている顔の赤眼虎はどこにも見当たらなかった。
「そういや、柚乃さんのことは今どう思ってんの?」
赤眼虎を探すことを諦めたのか、いきなり夜月は柚乃の話を持ち出してきた。 その問いに、気まずそうに答えていく。
「別に・・・。 でも柚乃に言われた通り、今藍梨とは距離を置こうと思っている」
小さな声でそう口にすると、夜月は何も考えずにあっさりと返した。
「ん、そっか。 まぁ、もし柚乃さんの方へ心が傾きそうだったら、俺にすぐ言えよ。 止めてやるからさ」
「・・・あぁ、ありがとな」
実際そんなことはないと思うが、一応結人は礼の言葉を述べた。 そして彼は、もう一人の少女の名を口にする。
「じゃあさ。 藍梨さんは?」
「藍梨?」
聞き返すと、夜月は結人から視線をそらし小さな声で続きの言葉を発した。

「・・・今日、伊達と一緒に楽しそうに話していたけど」

「・・・え?」
―――藍梨と伊達が? 
―――誘われただけじゃ、なかったのかよ・・・。
「このまま、好きにさせておいてもいいのか?」
今度は結人の目を見ながらそう尋ねてくる。 それでも結人は、彼と目を合わすことができなかった。
「そりゃあよくは、ないけどさ・・・。 でも、藍梨が誘いをOKするはずがない」
「どうしてそう言い切れるんだ」
「藍梨が知らない男子とコンテストに出るわけがない。 俺と藍梨は、今付き合っているんだぞ」
「・・・」
ハッキリとした口調でそう言い放つと、夜月は急に黙り込んだ。 だがこの沈黙が気持ち悪く、結人はすぐに口を開く。
「・・・何だよ。 俺に言いたいこと、何かあんのか」
何を言われるか分からないため、恐る恐るそう口にした。 すると夜月は、独り言を呟くように小さな声で言葉を発していく。
「・・・別に。 でも今、ユイと藍梨さんは気まずい関係でいるんだろ」
「・・・」
結人はその言葉に、何も言い返すことができなかった。 確かに今の状態だと、藍梨は伊達と一緒にペアになってもおかしくはない。
夜月と入れ替わるようにして結人が黙り込むと、彼は優しく笑いながらそっと言葉を紡ぎ出した。
「まぁ、いいよ。 ユイが好きなようにやってみな。 俺はユイに付いていく。 そう、約束したから」
夜月のその言葉に、結人は申し訳ない気持ちがいっぱいで苦笑しか返せなかった。 

そして――――今日は結局、赤眼虎についての情報は得られなかった。 “また明日、一緒に探ろう”と約束を交わし、今日は夜月と別れることになった。


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