心の交差。

ゆーり。

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執事コンテストと亀裂。

執事コンテストと亀裂③

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同時刻 カフェ


結人は柚乃から赤眼虎の話を聞いて、一秒でも早く藍梨のもとへ行きたかった。 そんな焦りの気持ちもあるため、前置きもなく早々話を切り出したのだ。
そして柚乃は一瞬の間黙り込み、静かに口を開いて言葉を紡いでいった。

「レアタイはね・・・。 今、立川にいるかもしれないの」

―――は?
「どうして・・・アイツらが今、立川なんかにいるんだよ」
「それは私にも分からないよ。 ていうか、結人は知らなかったんだね。 こういう噂、もうとっくに耳にしていると思ってた」
赤眼虎が来たのはつい最近のことなのだろうか。 ここ最近は御子紫の件でドタバタしていたため、外の噂に耳を傾けている暇なんてなかった。
結人たちが学校で事件を起こしているうちに、赤眼虎が立川に現れたとでもいうのだろうか。 
―――レアタイは、横浜の人間じゃなかったのかよ!
「ほら、これを見て」
そう言って、柚乃は携帯の画面を見せてくる。 そんな彼女の行動につられ覗いてみると、そこには赤眼虎について書かれてある掲示板が映し出されていた。

“レアタイって何者?” “最近レッドアイタイガーって名乗る奴が多い” “新しいカラーセクトみたいだぜ” “横浜発祥らしい”

―――・・・柚乃の言っていることは、本当だったんだ。
―――レアタイの目的は、また俺たちなのか?

そのようなことを考えていると、柚乃が先刻口にしていたあることを思い出し直接尋ねてみた。
「でもどうして、藍梨がレアタイなんかと関わるんだよ」
その問いに対し、彼女は優しく微笑みながら淡々とした口調で答えていく。
「よく考えてみてよ。 結人が藍梨ちゃんとずっと一緒にいると、藍梨ちゃんが目付けられるかもだよ?」
「は・・・。 目付けられるって・・・」
「結黄賊のリーダーと仲がいい女の子を発見したら、その子を攫って利用するかもしれない」
結人は今こんなにも混乱しているというのに、柚乃は結人のことには気にも留めずなおも淡々とした口調で話し続ける。

―――柚乃・・・それって、つまりどういう意味なんだよ。

今の結人の表情を見て何かを感じ取ったのか、柚乃は寂しそうな表情を見せた。
「・・・その様子だと、結人は藍梨ちゃんと付き合っているみたいだね。 そうでなかったら“ただ距離を置けばいいのか”って考えるだろうから。 
 その顔だと、今付き合っていて距離を空けにくいのかな」
結人の気持ちを考えず、遠慮もせずに物を言っていく彼女に、恐る恐る口を開き言葉を放した。
「・・・何が言いたいんだよ」
そう尋ねると、柚乃は微笑みながら迷うことなくその答えを返す。

「私たち、よりを戻そうよ」





同時刻 路上


「ユイ、遅いね」
悠斗が一人そう小さく呟いた。 藍梨は今もなお、結人との待ち合わせ場所で待っている。 そんな中――――しばらく結人を待っていると、ふと聞き慣れた声が耳に届いてきた。
「あれ? 藍梨さんじゃん」
椎野と夜月だ。 椎野が藍梨のことに気が付いた瞬間、不審な顔をしながら彼女に尋ねる。

「えっと・・・。 藍梨さん、どうしてここに?」

「え?」

突然よく分からないことを言われ、藍梨は困った表情を彼に見せた。 そんな彼らの様子を見て、未来は椎野に小声で問う。
「おい椎野! それどういうことだよ」
椎野はその言葉を聞き藍梨と同様少し困った表情を見せ、未来だけを手招きしこの場から少し離れた。 夜月たちに藍梨のことを任せ、椎野は疑問に思ったことを素直に口にする。
「藍梨さん、何でここにいんの?」
「は? 何でって・・・。 ユイを待ってんだよ」
意味の分からないその問いに詰まりながらもそう答え終えると、彼は急に険しい表情をし出した。
「え・・・。 それマジかよ」
「ん? どした?」
椎野の異変に気付きそう尋ねると、彼は険しい表情をしたまま言葉を放つ。

「いや・・・。 さっき、カフェでユイを見かけたんだよね。 ユイの目の前に・・・女の子もいた」

「は!? 何だよそれ!」
感情的になっていく未来をよそに、椎野は冷静さを保ったまま言葉を発し続けた。
「いや、俺も思ったんだよ。 ユイがカフェにいるっていうことは、藍梨さんと遊ぶ約束はなしになったのかなって。 
 でも藍梨さんはユイをここで待っているって言うし、それにユイと会っていたのは女の子だったし・・・」
彼の話を聞いた未来は、当然嫌な予感しかしていなかった。





同時刻 カフェ


―――何だよ、よりを戻すって・・・。

唐突にその言葉を言われるも、結人は自我を失わないように自分を保ち続けた。 そして柚乃の考えを読み取ったかのように、大きな声で言葉を放つ。
「何を言ってんだよ! レアタイのことで巻き込まれないように藍梨を振って、柚乃とまた付き合えとでも言うのかよ!」
その怒鳴り声に対し、彼女はなおも微笑んだまま言葉を返した。
「そうだよ? だって、そっちの方が都合いいでしょ?」

―――は? 
―――何を言ってんだよ、柚乃。

「私は、結人に対して怒ってなんかいないよ」

―――何・・・言ってんだよ。

柚乃は結人に反論の隙を与えないよう、次々と物を口にしていく。
「私がレアタイに攫われた時、結人は足がすくんでその場から動けなかった。 私を助けに行けなかった。 ・・・だけど私は、全然怒ってなんかいないよ」

―――止めろよ。

「もし藍梨ちゃんが立川で、レアタイに攫われたらどうする? 結人、助けに行ける?」

―――止めて・・・くれ。

そしてなおも微笑んだまま、結人に向かって言葉を投げ続ける。
「もし結人が助けに行けなかったら、藍梨ちゃんも私と同じ被害を受けるんだよ。 藍梨ちゃんがその結人を、許してくれるかなんて分からない」

―――柚乃、俺は・・・!

「でも、私だったら? 立川で攫われたのが私だったら? 私は絶対に怒らないよ。 ほら、今でも怒っていないでしょ?」

―――俺は今、藍梨のことが・・・!

そしてなおも不気味な程に微笑んだまま――――彼女は、決定的な一言を静かに言い放った。

「だって私は今でも結人のこと、大好きなんだから」


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