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御子柴からユイへの想い。
御子柴からユイへの想い⑤
しおりを挟む同時刻 1年3組
結人がコウと優と一緒に話をしている頃、未来と悠斗は隣の教室の3組へと足を運んでいた。
「椎野、頼むよー!」
未来たちは自分の教室ではないのにもかかわらず他の教室の中へ堂々と入っており、あることを彼らに頼んでいる。
両手の平を合わせ深々と頭を下げてくる未来に向かって、椎野は腕を組み困った表情を浮かべながら言葉を返した。
「別に軽く挑発するくらいならいいけど、日向の完全な敵になるのは嫌だって何度も言っているだろー?」
それを聞いた未来は、椎野の隣にいるもう一人の仲間に口を開く。
「んじゃあ北野!」
だが北野も椎野と同様、困惑した表情を見せた。
「俺も、中立な立場でいたいし・・・」
「マジかよー・・・」
北野も椎野と似たような返事をすると、未来は大袈裟にガクリと肩を落とし、落ち込むフリをする。 そんな未来を見かねたのか、椎野が一人の仲間の名を挙げてみせた。
「夜月は? 夜月には聞いたのか?」
その問いを聞いて、未来は態勢を元に戻し険しい表情を浮かべながら答えていく。
「それがさー、夜月も誘おうと思ったんだけど、教室にいないんだよ」
そう――――未来はどうやら、日向に対抗する気のようだった。
何が原因かも何も分かっていない状況だが、仲間である御子紫と結人が何か事件に巻き込まれそうだということは、流石に未来でも勘付いている。
だから少しでも彼らに協力できるよう、日向に対抗するためのメンバー集めをしているらしい。 未来と常に行動を共にしている悠斗は当然、最初からそのメンバーの一人である。
「んー、じゃあコウたちは?」
「コウと優って、人と対抗するイメージ全くないじゃん」
その問いにあっさりと答える未来を見て、椎野はすぐさま言い返した。
「なッ、俺たちは普段対抗しているように見えるのかよ!?」
「だからイメージだよ、イメージ!」
未来と椎野がくだらないことで張り合おうとした、その瞬間――――この場にいる彼らの耳に、ある一言がかすかに届いてくる。
「誰だよこんなことをしたの!」
その声が聞こえたのは――――1組からだった。
数分前 廊下
朝御子紫は、重たい足取りで教室へと向かう。 本当は行きたくないのだが、結人たちにあまり迷惑をかけたくないということから、無理をしてでも登校していた。
教室へ行くとそこには日向がいるため、あまり積極的な気持ちにはなれない。
日向から出る結人の悪口なんて聞きたくなかったし、それ以上に――――一つの不安を、抱えていたからだ。 廊下を歩いていると、突然後ろから自分の名を呼ぶ声が聞こえてくる。
「御子紫!」
声をかけてきたのは、御子紫といつも一緒に行動している仲のいい友達、細田だった。 その声に立ち止まり、彼の方へ身体を向ける。
「大丈夫か?」
「・・・あぁ。 ありがとな」
優しく気遣ってくれる細田に対し、御子紫はぎこちない笑顔を浮かべ言葉を返した。 そして二人で一緒に教室へ向かう。 彼が隣にいてくれるだけでも、御子柴の心の支えとなっていた。
だが次の瞬間、嫌な予感が当たってしまう。 教室へ着き、ドアをくぐり、自分の席へ着こうとした途端――――御子紫は自分の机の有様を見て、一瞬にして身動きが取れなくなった。
―――ッ・・・嘘・・・だろ・・・。
今御子紫が、目にしたものは――――机の中にはたくさんのゴミが入っており、机の上には酷く乱暴な落書きがされている光景。
だが机の上に書かれているのはマーカーではなく、すぐにでも消せるようなシャープペンで書かれているのは、一応書いた者の気遣いなのだろう。
御子柴は何も行動に移すことができず席の前で立ちすくんでいると、その異様な様子にいち早く気付いた細田は、クラスのみんなに向かっていきなり声を荒げた。
「誰だよこんなをことしたの!」
細田が御子柴を思い犯人を捜している間――――御子紫は何も言うことができず、かといって周りにいるクラスメイトと目を合わすこともできず、
ただただその場に立ち尽くし俯くことしかできなかった。
同時刻
1組へ向かおうと廊下を歩いている最中、突然1組の方から大きな怒鳴り声が聞こえ、その声を聞き胸騒ぎを覚えた一人の少年は、1組へと走って向かった。
教室に近付くにつれ、周りの空気が緊迫感に包まれていることを身体全体で感じる。
先程耳に届いた怒鳴り声で何事かと思ったが、その声が聞こえたのは一度切りでそれ以降は何も聞こえてこなかった。
―――あれ、どうしてこんなに静まっているんだ・・・?
教室へ着き、いつもの雰囲気とどこか違うと感じながらも、一人の少年――――真宮は、何事もなかったかのように堂々と1組の中へ入っていく。
そしてこの時、1組の生徒の視線はある一点を見つめていることにようやく気が付いた。 その違和感を感じ取った真宮は、恐る恐るその方向へ視線を移す。
―――・・・ッ!
そこで目にしたのは、御子紫の目の前の机が酷い有様になっている光景。 それを見て、一瞬身動きが取れなくなった。
―――あの席は・・・御子紫の席、だよな。
この状況を数秒で把握した真宮は、すぐさま彼のもとへ駆け寄り口を開く。
「御子紫、大丈夫か?」
「・・・」
そう声をかけるが、御子柴は俯いたままで何も言葉を返してこない。
―――どうなってんだよ、これ!
どうしたらいいのか分からない状況に、周囲を見渡し必死に思考を巡らせる。 それでも御子紫は何も言葉を発さず、ただ時間が流れていくだけ。
その状態が続いて数十秒後、御子紫の隣にいた男子がボソリと小さく呟いた。
「・・・俺、ゴミ箱持ってくる」
そう言って、御子紫の友達――――細田は、教室から出て行った。
同時刻
御子柴の有様を見ていた者は、真宮の他にもいた。 だが彼らは中へ入ることはなく、1組の教室の前で立ち止まっている。
―――何だよ・・・これ。
その光景を見ていた3人の少年――――結人、コウ、優。
遠くに離れていても分かる。 クラスのみんなの視線の先と、真宮が今いる場所で、何となく状況は察することができた。 そしてこの時に思ったことは――――ただ一つ。
―――これをやったのは・・・日向に違いない。
―――御子紫は俺を庇い、日向はその庇う行為に腹を立て、いじめの標的を御子紫に移したんだ。
そこまで分かっているというのに、結人は――――怖気付き、御子紫のもとへ行くことはできなかった。 1組の教室の外から、黙ってその光景を見守るだけ。
隣にいた優とコウも見ているだけで何も動かず、何も言えずにいたのだが、結人が何も行動に移さなかったため、そんなリーダーに自然と従っていたのだろう。
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