心の交差。

ゆーり。

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結黄賊メンバー。

結黄賊メンバー①

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翌日 朝 沙楽学園1年5組


「だから、何で悠斗はいつもそうなんだよ!」
登校して早々、未来が悠斗に対して怒鳴っている。 目の前で言い合っている二人を、結人は机の上に頬杖をついてぼんやりと見ていた。
「仕方ないだろ、気が付かなかったんだから」
今話しているのは、昨日藍梨が襲われそうになった時のことだ。 彼女を助けるために二人がやってきて喧嘩を開始したのだが、悠斗が相手に思い切り一発殴られてしまった。
その時のこと。 悠斗の傷は、今は手当てがしてある。 口元の怪我のため、結構目立っていた。

「全く、中学の時から悠斗は油断し過ぎなんだ!」

―――・・・それ、昨日も言っていなかったか。

そう、喧嘩している最中に悠斗が油断することはよくあることだった。 その理由は、誰かが言葉を発すると彼の意識はその方へ向けられてしまうからだ。
―――悠斗は学ばないもんだなぁ・・・。
そのせいで何度もやられているのは確かなのだが、なかなか直すことができない。 人の発言に意識を向けるのは、リーダーの結人としてはいいことだと思うのだが――――
「俺だって、油断をしたくてしているんじゃない」
普段物静かな悠斗でも、珍しく負けじと反論している。 二人はきちんと“喧嘩”というワードを出さずに言い合っていて、周りに悪い印象を与えていないためそこは安心した。
だが結人はそんな幼馴染たちを見かね、やっとの思いで彼らの口論に口を挟む。
「まぁ、そのくらいにしておけよ未来。 未来は何だかんだ言っても、結局は悠斗のことを心配してんじゃん」
「はぁ? 心配すんのは当たり前だろ!」
―――そこも怒り口調で言うのかよ。
未来の発言に口ではなく、心の中でそう突っ込みを入れる結人。 だがそんな幼馴染二人を見て、微笑ましく思う自分もいた。
―――まぁ、未来は喧嘩っ早いからなぁ。 
―――止めるのにはいつも苦労するぜ。

そのようなことを話していると、藍梨が教室へ入ってくるのが目に入る。 彼女が来てくれたことにより、強制的に未来と悠斗の言い争いは終了した。
「おう、藍梨おはよ」
それに一番最初に気付いた結人が、藍梨に向かって笑顔で挨拶をする。
「お、藍梨さんおはよう!」
「おはよ」
先程まで怒った雰囲気を纏っていた二人だったが、そんな怖い印象を感じさせない程の眩しい笑顔で、続けて未来たちも彼女に挨拶をした。 急に態度が変わった彼らを見て、結人は呆れたように苦笑する。
「未来くん、悠斗くんおはよ。 結人もおはよー」
藍梨はそう言いながらニコッと笑い、結人の隣の席へ着いた。 

そしてこの時、未来はふと違和感に気付く。

「んー・・・。 え!? ・・・え!?」
未来が突然声を張り上げ、結人と藍梨を交互に見つめた。
「ん? どうした?」
そのような行為を見せる未来が面白くて、結人は楽しそうに彼に尋ねる。 未来が戸惑い何も言えなくなっていると、悠斗が未来の気付いたことを代弁した。
「二人共、呼び捨てになっている・・・?」
「・・・?」
それでもなお二人が困惑していると、真宮が丁度いいタイミングで結人たちの輪に入ってくる。
「おう、みんなおはよー」
「真宮! ユイと藍梨さんが変なんだよ!」
いいところで現れた真宮に、未来が何故か助けを求めた。 必死にすがりながら焦った表情を浮かべる未来に、真宮は呆れた口調で言葉を返していく。

「はぁ? 変? 何を言ってんだよ。 ただの彼氏彼女じゃないか」

「いやだから、変・・・。 って、え!? 何それどういうこと!?」
結人は“やっと気付いたか”と内心で思いつつ、笑顔で未来と悠斗に向かって口を開いた。
「俺と藍梨は昨日から付き合うことになりましたー! はいパチパチー」
そう言いながら、この場を盛り上げるよう結人は一人で拍手をする。 だが未来は、未だに困惑しているようだった。
「何だよそれ、いつの間に!?」
詳しい情報を求めてくる彼だが、説明するのが面倒に感じた結人はその発言をスルーし、違う話題を口にする。
「んじゃ早速、未来と悠斗。 藍梨に連絡先を教えてやって」

これは昨日――――藍梨と付き合うことができた時、彼女に頼んだのだ。 もし結人と付き合って共に行動することが多くなるのなら、結黄賊メンバーと絡むことが当然多くなる。
だからもし何かあった時用に、他のメンバーの連絡先も知っておいてほしいということを彼女に話してあった。 真宮の連絡先は、事前に結人から教えてある。
結黄賊メンバーの結人以外で最初に交換するならば、小学生の頃からずっと一緒にいた真宮が一番安心するだろう思い、先にとった行動だ。

そして彼らは素直に連絡先を交換し始めるが、未来が突然藍梨にあることを尋ねかける。
「藍梨さんは、ユイのどこを好きになったんだよ?」
「ッ!? ちょっ、今それ聞く!?」
勝ち誇ったように余裕を持っていた結人だったが、その質問を聞いて大きく反応をした。 一方藍梨は躊躇いもなく、その問いに対しての答えを静かに綴っていく。
「出会った時から、好きだったよ」
「・・・」
否定してくれると思っていたが、まさかここで答えてくれるとは思わず結人は咄嗟に口を噤んだ。 
聞きたいような聞きたくないような複雑な気持ちを持ち合わせながらも、彼女の言葉に意識を向ける。
「入学式の日、男子で初めて声をかけてくれたのが結人なの。 最初は凄くドキドキして、目すら合わせることができなかった」
初めて聞く、藍梨の気持ち。 やはり聞きたくない気持ちはあるのだが、今更止めることもできず耳を塞ぐこともできず、ただ黙って彼女の言葉を聞いていた。
「よく見ると凄くカッコ良くて、笑顔が可愛くて、一緒に話していると凄く楽しくて、居心地がよくて。 でも、私は思ったの。 
 どうしてこんなにカッコ良くてモテそうな人が、私に声をかけたんだろうって」
未来たちも彼女の話に、真剣に耳を傾けている。
「でも結人が私に話しかけてくれるたびに、凄く嬉しかったの。 それと同時に、どんどん結人に惹かれていって。 ・・・おかしいよね、私たち、性格が正反対なのに」
この時、結人は思った。 

“性格が正反対の人には惹かれる”というのは、自分も思ったことがある、と。

「それで昨日、結人に『好き』って言われて、私は凄く嬉しかった。 ドキドキが止まんなかったもん」
そう言って藍梨は、恥ずかしそうに小さく笑った。 最後まで彼女の気持ちを聞いた未来は、何故だか少し寂しそうな表情をみんなに見せる。
「・・・藍梨さんって、素直だなぁ」
だが彼はこの場の空気を壊さないよう、無理に作った笑顔で言葉を紡ぎ続けた。
「まぁ、ユイと付き合えてよかったよ。 ユイは悪い奴じゃないし、一生大切にしてくれると思うぜ」
「何だよ、その上から目線」
結人がそう突っ込みを入れると、みんなは楽しそうに笑ってくれる。 だが結人は未来の異変に、何も気付くことができなかった。
また藍梨には、結人は藍梨のことを追いかけてこの沙楽に入ったということを伝えていない。 これはいつか――――伝えられる日が、来るのだろうか。
「よし! 藍梨。 俺の他のダチも紹介してやる。 来いよ」
そう言って席を立ち、彼女を連れて教室を出る。 これから他の結黄賊メンバーを紹介するために、結人たちは一緒に歩き出した。


そして、5組では――――当然その場にいない結人には知る由もない会話が、繰り広げられていた。

「・・・未来、本当にいいのか?」
仲よく教室から出ていく結人たちを見つめながら、悠斗は未来に向かって小さな声で尋ねかける。
「・・・あぁ。 藍梨さんは、ユイとお似合いだよ」
それを隣で聞いていた真宮は、ニヤリと笑って二人の会話に口を挟んだ。
「はっはーん。 やっぱり未来は、藍梨さんのことが好きだったんだなー?」
「なッ、それを堂々と言うなよ!」

その発言に未来は顔を真っ赤にして、何でもバレてしまっている真宮に抵抗していた。


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