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告白。
告白⑤
しおりを挟む約一時間前 帰り道
「・・・もしもし」
『もしもし、結人? 久しぶりだね』
久しぶりに聞く柚乃(ユノ)の声。 彼女の声を聞くと、何故か安心する自分がいた。 そんな自分に、腹が立つ。
―――・・・何でだよ。
―――俺には今、藍梨さんがいるじゃねぇか。
心は動揺しながらも、平然を装った態度で言葉を返した。
「俺に何の用だよ」
『私ね、今立川にいるの』
その言葉を聞いた瞬間、結人の思考は停止する。
―――・・・は?
―――どうして。
―――どうして柚乃が・・・立川なんかにいるんだよ。
柚乃は横浜の人間だ。 そんな者がどうしてここにいるのか、結人は聞いてみた。
「何で立川にいる?」
『そんなことよりね、結人。 また、会えない?』
「何を言ってんだよ今更。 俺たちはもう終わったんだぜ? エンドレスだと思っていた関係からレスが消えてエンドになった! ・・・そうだろ?」
そう――――結人たちはもう終わったのだ。
それは、去年の中3の頃に。 結人の心に迷いなんてない。 いつもの調子で自分の心を信じるように、明るめな口調でそう返した。
だけど柚乃は――――諦めては、いなかった。
『でも、私はまだ好きだよ? 結人のこと』
「あのなぁ・・・。 今の俺には、好きな人がいんの」
藍梨という、愛おしい人が。 正直に今の状況を伝えると、電話越しからは楽しそうな声が聞こえてきた。
『その子、どういう子?』
どうしてそんなことを聞くのかと思ったが、それでもなお明るい調子で彼女のことを伝えていく。
「大人しくて可愛くて癒されて、笑顔がキュート! それにスタイルもよくて、今すぐにでもモデルになれるような美少女さ」
藍梨のことを思い出し心温まりながらそう言うと、柚乃は先刻と何も変わらない調子である一言を放った。
『それって、藍梨ちゃんのこと?』
刹那――――結人の鼓動が、大きく脈を打つ。
―――・・・は?
―――・・・どうして、藍梨さんの名前を・・・。
ついに動揺を隠し切れなくなり、焦り口調で彼女に尋ねた。
「おい、どこでその名前を知った?」
だが柚乃はその質問に対しての答えは言わず、違うことを口にする。
『でも大丈夫だよ。 もし結人が他の女の子のところへ行っちゃっても、最終的に結人は私のところへ戻ってくるでしょ?』
―――・・・止めろ。
―――止めてくれ。
―――これ以上の言葉は、聞きたくなんかねぇ。
結人の鼓動は徐々に早いものとなっていく。 だが柚乃はそんな結人のことなんてお構いなしに、淡々とした口調で言葉を続けた。
―――・・・頼むから、もう何も言わないでくれ。
『私はそう、信じているから』
現在
「・・・それで、何て言って切ったんだよ」
真宮が難しい表情を浮かべながら、結人に向かってそう口にする。
「『藍梨さんと俺には、もう関わるな』って言って」
今の結人にはどうすることもできなかった。 柚乃を止めることができなかった。 そんな結人を頬杖ついて横目で見ながら、真宮はゆっくりと言葉を紡ぎ出す。
「まぁ、柚乃さんのことに関しては俺よりも夜月たちの方が詳しいから、変に強くは言えないけどさー・・・」
柚乃は結人と同じ、横浜に住んでいた。 だから結人たちは、横浜で出会ったことになる。
柚乃は一時期結人の彼女だったため結黄賊のこともよく知っているし、夜月たちとも何回か会わせたことがあった。
真宮は住んでいる県が違うため、1、2回しか会わすことができなかったのだが。
「で、結局ユイは何に悩んでんの?」
「・・・」
その問いに、結人は再び黙り込んだ。 その理由は、自分でも何に悩んでいるのかハッキリと分からなかったからだ。
だが、結人の中では一つだけ心配なことがあった。
―――柚乃のことは一応振ったけど、曖昧だったのかな・・・。
その心配事を、目の前にいる真宮に吐き出してみる。
「・・・柚乃が、藍梨さんに手を出すかもしれない」
そう――――藍梨の名を知られている以上、藍梨の容姿も柚乃は既に分かっているのかもしれない。 もし柚乃が、まだ結人のことを好きでいるのなら――――
柚乃なら藍梨のことを邪魔者扱いして、何かしら手を出してきてもおかしくはない。 その発言を聞いて、真宮は大きく頷いた。
「あー、なるほどな。 ・・・でもさ、それってもう結論出てんじゃん」
―――結論?
「どういうことだよ」
淡々とそう口にする真宮だが結人には言っている意味が分からず、彼にもう一度聞き返してみる。 すると真宮は結人に向かって、小さく微笑みながら言葉を渡した。
「藍梨さんを守れんの、ユイだけだろ?」
そしてその優しい表情のまま、彼は続けて言葉を綴っていく。
「ユイが藍梨さんの傍にいてあげて、柚乃さんから守ってあげればいいじゃん」
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