7 / 365
幼馴染の交差。
幼馴染の交差⑤
しおりを挟む
悠斗が今いる場所は、何となく分かっている。 中学生の頃、結黄賊は色々とやらかしていた。 やらかすたびに授業をサボっては、よくそこへ集まっていた。
だからみんな、居場所がなくなった時に向かう場所はただ一つ。 ――――屋上だ。
「悠斗」
そして――――予想通り、彼は屋上にいた。 屋上にあるベンチに座りながら、誰もいないグラウンドを静かに眺めている。
結人は屋上へ着いて早々悠斗の姿を発見し、周囲を大きく見渡した。
―――・・・つか、沙楽の屋上に来るのは初めてだな。
とても広く綺麗に掃除までされているところを見ると、何故だか心も綺麗になっていくような気がした。
身体を透き通っていく心地のいい風に当たりながら、悠斗のもとまで足を運んでいく。
「ひっろい屋上だなー。 中学ん時とは比べもんにならないぜ」
この場を少しでも和ませるよう、緊張感を出さないために軽い口調で言葉を発し、悠斗の隣にそっと腰を下ろした。 そしてなおも俯き口を開かない彼に、優しく言葉を投げかける。
「・・・一人で抱え込むなよ、悠斗。 苦しいんだろ」
「・・・」
それでも何も返事をしない悠斗だが、結人は彼から口を開いてくれるのをひたすら待ち続けた。 体育の授業は体育館でやるのか、グラウンドには誰一人の姿も見えないまま。
ただただ風が吹く音しか聞こえない中、悠斗の隣で静かに返事を待っている。 だがその間に、授業開始のチャイムが鳴ってしまった。
だけどそれを聞いても互いに口を開かず動きもしないため、次の授業はこのままサボることに自然と確定したようだ。
特に成績など気にしていない結人は、出ないことには抵抗がない。 授業が始まったせいか、より学校が静かになったような気がした。
そして――――チャイムが鳴ってから、10分程経っただろうか。 隣にいる悠斗が、ゆっくりと口を開いた。
「・・・結黄賊の、ルールを破ったのは俺の方だ」
―――は?
二人の事情は何も知らないため、突然そのようなことを言われ何も答えられなくなる。 だが折角言葉を発してくれたためこのチャンスを逃すまいと、彼に聞き返した。
「どういう意味だ? それ」
そう尋ねると、悠斗は少しの間また口を閉じてしまった。 それでも返事を待ち続けると、再び彼は口を開き震えた声でこう呟く。
「・・・ユイからの許しも出ていないのに、俺は・・・喧嘩をしてしまった」
「・・・」
結人はその言葉を聞き、またもや返事に詰まってしまう。 だけどそれは、彼に呆れたからではなかった。
これは確かに結黄賊のルールを破ったことになるのだが、今の結人には怒りも呆れも何も湧き起らない。
今思えば、未来なら性格的に結黄賊のルールを破ってしまいそうな少年だが、反対に真面目で大人しい悠斗が破るとは思ってもみなかった。
だが結人は、そんな彼に対して悪い感情は何も生まれてこなかったのだ。 ただ――――これとは違うことで思い悩んでいそうな悠斗を、助けてやりたい。 そう思っただけだった。
「なぁ・・・話してくれよ。 未来と、何があったのか」
そう聞くと、彼はゆっくりだが全てを話してくれた。 未来と一緒に土曜日、他の街へ出かけたこと。 不良に囲まれているサラリーマンを助けたこと。
そして未来に警察を呼ぶよう言われ、悠斗はその場から走り去ったこと。 全てを――――話してくれた。
「走って交番を探そうとしたんだ。 でも後ろからは、男たちが付いてきて・・・。
行った街は初めてで、どこに交番があるのかなんて分からなかったから、ずっと見つからず俺は走りっぱなしだった。
そして・・・男たちから逃げながら、交番を探しているうちに・・・行き止まりのところまで、行っちゃって・・・」
「・・・うん」
―――・・・そう、か。
―――それなら・・・。
結人は次に彼から発せられる言葉を先に読み、自分で納得する。 それでも結人は、何も口を挟まずに相槌だけを打ち続けた。 そして――――
「ここで俺が男たちにやられると、未来が危ないと思った。 時間の問題だったんだ。 早く未来のところへ、戻らなきゃって。
早く戻らないと、未来が完全に男たちにやられてしまうって」
今にも泣きそうな震える声でそう話してくれる悠斗に、結人は黙って頷く。
―――・・・なるほど。
―――それで、やっちまったんだな。
事情は分かりつつも、全て悠斗の口から聞きたいため彼の発言を止めるようなことはしなかった。
「ルールを破ってしまうことに覚悟しながらも、俺は相手に手を出した」
「・・・?」
そこまで言い終えると、悠斗はその場に立ち上がり結人のことを涙目で見据えてくる。 そして深く、結人に向かって頭を下げた。
「ユイ。 ・・・リーダーの命令も聞かずに勝手に手を出してしまって、ごめんなさい」
仲間がそこまでして謝ってくるとは思ってもみなかった結人は、慌てて自分もその場に立ち悠斗の頭を上げさせる。
「おいよせ、謝んなよ。 そこは手を出して正解だ。 やられるくらいだったら、喧嘩をしてしまった方が早い。 俺は悠斗のことを責めないよ。
ちゃんとした、立派な判断だと思う」
別に彼の判断は、悪いことではない。 結人も先程見た未来のように酷くボコボコにされるくらいなら、手を出していたと思う。
そんないつまでも律儀な彼を見て“悠斗らしいな”と思いつつも、結人は苦笑した。
―――・・・でもな、悠斗。
―――止むを得ない場合には、手を出してもいいんだぜ。
悠斗が申し訳なさそうな表情で顔を上げるのを見ると、早速結人は肝心なことを尋ねてみる。
「それで、未来は?」
そう聞くと彼は気まずそうに結人から顔をそらすが、躊躇いながらも答えてくれた。
「結局交番は見つからなくて、相手を無力化した後走って未来のいる場所まで戻ったんだ。 ・・・だけどそこには、未来の姿も、不良の姿もなかった」
―――・・・そっか。
―――悠斗の事情は、何となく分かった。
すると悠斗は突然、険しい顔をしながらこう訴える。
「でも、未来は俺を置いて帰るはずがない! だから俺は、夜までずっとそこで待っていたんだ。 ずっと、ずっと。 でも・・・未来は結局、戻ってこなかった」
「・・・」
―――未来はこの時、何を考えていたんだろうな。
―――悠斗を探しに、だったら・・・携帯でとっくに電話しているか。
悠斗の悩んでいる気持ちと同じように、結人も何故未来が悠斗を置いていったのか分からず、二人揃って理由を考える。
が――――この場に耐えられなくなったのか、突如悠斗は声を張り上げこの場から去ろうとした。
「俺、今から先生に言ってくる! 未来は喧嘩なんてしていなくて、実際に手を出したのは俺の方だって!」
「それは止めろ、悠斗」
「え?」
今にでも職員室へ行こうとしていた悠斗の腕を無理矢理掴み行動を制御すると、彼は不思議そうな顔をして結人のことを見据えてきた。
―――俺の心は既に決まっている。
―――大切な仲間を、入学して早々停学にはさせない。
そして覚悟を決めると、悠斗に向かって微笑みかける。
「そんなこと、俺がさせるわけねぇだろ? 未来も悠斗も、ちゃんと救ってみせるよ」
「え・・・」
続けて結人は悠斗を不安にさせないよう、そして未来を救うには悠斗の力も必要だと思い、彼に向かって力強く言葉を発した。
「だから悠斗も、ちょっと俺に協力してな」
だからみんな、居場所がなくなった時に向かう場所はただ一つ。 ――――屋上だ。
「悠斗」
そして――――予想通り、彼は屋上にいた。 屋上にあるベンチに座りながら、誰もいないグラウンドを静かに眺めている。
結人は屋上へ着いて早々悠斗の姿を発見し、周囲を大きく見渡した。
―――・・・つか、沙楽の屋上に来るのは初めてだな。
とても広く綺麗に掃除までされているところを見ると、何故だか心も綺麗になっていくような気がした。
身体を透き通っていく心地のいい風に当たりながら、悠斗のもとまで足を運んでいく。
「ひっろい屋上だなー。 中学ん時とは比べもんにならないぜ」
この場を少しでも和ませるよう、緊張感を出さないために軽い口調で言葉を発し、悠斗の隣にそっと腰を下ろした。 そしてなおも俯き口を開かない彼に、優しく言葉を投げかける。
「・・・一人で抱え込むなよ、悠斗。 苦しいんだろ」
「・・・」
それでも何も返事をしない悠斗だが、結人は彼から口を開いてくれるのをひたすら待ち続けた。 体育の授業は体育館でやるのか、グラウンドには誰一人の姿も見えないまま。
ただただ風が吹く音しか聞こえない中、悠斗の隣で静かに返事を待っている。 だがその間に、授業開始のチャイムが鳴ってしまった。
だけどそれを聞いても互いに口を開かず動きもしないため、次の授業はこのままサボることに自然と確定したようだ。
特に成績など気にしていない結人は、出ないことには抵抗がない。 授業が始まったせいか、より学校が静かになったような気がした。
そして――――チャイムが鳴ってから、10分程経っただろうか。 隣にいる悠斗が、ゆっくりと口を開いた。
「・・・結黄賊の、ルールを破ったのは俺の方だ」
―――は?
二人の事情は何も知らないため、突然そのようなことを言われ何も答えられなくなる。 だが折角言葉を発してくれたためこのチャンスを逃すまいと、彼に聞き返した。
「どういう意味だ? それ」
そう尋ねると、悠斗は少しの間また口を閉じてしまった。 それでも返事を待ち続けると、再び彼は口を開き震えた声でこう呟く。
「・・・ユイからの許しも出ていないのに、俺は・・・喧嘩をしてしまった」
「・・・」
結人はその言葉を聞き、またもや返事に詰まってしまう。 だけどそれは、彼に呆れたからではなかった。
これは確かに結黄賊のルールを破ったことになるのだが、今の結人には怒りも呆れも何も湧き起らない。
今思えば、未来なら性格的に結黄賊のルールを破ってしまいそうな少年だが、反対に真面目で大人しい悠斗が破るとは思ってもみなかった。
だが結人は、そんな彼に対して悪い感情は何も生まれてこなかったのだ。 ただ――――これとは違うことで思い悩んでいそうな悠斗を、助けてやりたい。 そう思っただけだった。
「なぁ・・・話してくれよ。 未来と、何があったのか」
そう聞くと、彼はゆっくりだが全てを話してくれた。 未来と一緒に土曜日、他の街へ出かけたこと。 不良に囲まれているサラリーマンを助けたこと。
そして未来に警察を呼ぶよう言われ、悠斗はその場から走り去ったこと。 全てを――――話してくれた。
「走って交番を探そうとしたんだ。 でも後ろからは、男たちが付いてきて・・・。
行った街は初めてで、どこに交番があるのかなんて分からなかったから、ずっと見つからず俺は走りっぱなしだった。
そして・・・男たちから逃げながら、交番を探しているうちに・・・行き止まりのところまで、行っちゃって・・・」
「・・・うん」
―――・・・そう、か。
―――それなら・・・。
結人は次に彼から発せられる言葉を先に読み、自分で納得する。 それでも結人は、何も口を挟まずに相槌だけを打ち続けた。 そして――――
「ここで俺が男たちにやられると、未来が危ないと思った。 時間の問題だったんだ。 早く未来のところへ、戻らなきゃって。
早く戻らないと、未来が完全に男たちにやられてしまうって」
今にも泣きそうな震える声でそう話してくれる悠斗に、結人は黙って頷く。
―――・・・なるほど。
―――それで、やっちまったんだな。
事情は分かりつつも、全て悠斗の口から聞きたいため彼の発言を止めるようなことはしなかった。
「ルールを破ってしまうことに覚悟しながらも、俺は相手に手を出した」
「・・・?」
そこまで言い終えると、悠斗はその場に立ち上がり結人のことを涙目で見据えてくる。 そして深く、結人に向かって頭を下げた。
「ユイ。 ・・・リーダーの命令も聞かずに勝手に手を出してしまって、ごめんなさい」
仲間がそこまでして謝ってくるとは思ってもみなかった結人は、慌てて自分もその場に立ち悠斗の頭を上げさせる。
「おいよせ、謝んなよ。 そこは手を出して正解だ。 やられるくらいだったら、喧嘩をしてしまった方が早い。 俺は悠斗のことを責めないよ。
ちゃんとした、立派な判断だと思う」
別に彼の判断は、悪いことではない。 結人も先程見た未来のように酷くボコボコにされるくらいなら、手を出していたと思う。
そんないつまでも律儀な彼を見て“悠斗らしいな”と思いつつも、結人は苦笑した。
―――・・・でもな、悠斗。
―――止むを得ない場合には、手を出してもいいんだぜ。
悠斗が申し訳なさそうな表情で顔を上げるのを見ると、早速結人は肝心なことを尋ねてみる。
「それで、未来は?」
そう聞くと彼は気まずそうに結人から顔をそらすが、躊躇いながらも答えてくれた。
「結局交番は見つからなくて、相手を無力化した後走って未来のいる場所まで戻ったんだ。 ・・・だけどそこには、未来の姿も、不良の姿もなかった」
―――・・・そっか。
―――悠斗の事情は、何となく分かった。
すると悠斗は突然、険しい顔をしながらこう訴える。
「でも、未来は俺を置いて帰るはずがない! だから俺は、夜までずっとそこで待っていたんだ。 ずっと、ずっと。 でも・・・未来は結局、戻ってこなかった」
「・・・」
―――未来はこの時、何を考えていたんだろうな。
―――悠斗を探しに、だったら・・・携帯でとっくに電話しているか。
悠斗の悩んでいる気持ちと同じように、結人も何故未来が悠斗を置いていったのか分からず、二人揃って理由を考える。
が――――この場に耐えられなくなったのか、突如悠斗は声を張り上げこの場から去ろうとした。
「俺、今から先生に言ってくる! 未来は喧嘩なんてしていなくて、実際に手を出したのは俺の方だって!」
「それは止めろ、悠斗」
「え?」
今にでも職員室へ行こうとしていた悠斗の腕を無理矢理掴み行動を制御すると、彼は不思議そうな顔をして結人のことを見据えてきた。
―――俺の心は既に決まっている。
―――大切な仲間を、入学して早々停学にはさせない。
そして覚悟を決めると、悠斗に向かって微笑みかける。
「そんなこと、俺がさせるわけねぇだろ? 未来も悠斗も、ちゃんと救ってみせるよ」
「え・・・」
続けて結人は悠斗を不安にさせないよう、そして未来を救うには悠斗の力も必要だと思い、彼に向かって力強く言葉を発した。
「だから悠斗も、ちょっと俺に協力してな」
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる