心の交差。

ゆーり。

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結人と夜月の過去。

結人と夜月の過去 ~小学校三年生③~

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数日後 夏祭り 


待ちに待った夏祭りの日。 キャンプ場では、理玖は母からお小遣いを受け取っていた。
「結人くんはここの夏祭り初めてみたいだから、ちゃんと誘導してあげてね」
「はーい!」
理玖の両親はキャンプ場に残るようで、子供だけで祭りへ行くことになった。 
結人は期待と不安が交じり合う中、友達の背中を見失わないようしっかりと追いかける。
流石都会といったところか、静岡とは比べ物にならないくらいの人の多さだった。 本当は祭りを楽しみたいのだが、人混みの中を駆け回るだけで疲れてしまうような――――
「あ、綿飴だ! これください!」
と思った矢先、周囲の人の圧力に負けないくらい理玖は大きな声を出して屋台の男性に声をかける。
「はい僕。 ありがとね」
母から貰ったお小遣いを渡し、代わりに綿飴を受け取った。

「理玖は甘いのが本当に好きだなー」
何か他に買う物はないかと屋台を回っている中、早速食べ始めている理玖に向かって未来が淡々とした口調で口にする。
「ん? 未来も食う?」
「いや、いらない」
気を遣い頬張っていた綿飴を差し出すが、断られると斜め後ろにいる結人に向かって言葉を発した。
「結人は、甘いもの好き?」
「え? あ、あぁ、好き・・・かな」
未だにこの人混みには慣れず友達に追い付くのがやっとだった結人は、突然話題を振られ慌てて返事をした。 その様子を見て、理玖は微笑みながら綿飴を差し出す。
「結人、大丈夫かぁ? これでも食って、元気を出せ!」
「はは、ありがとう」
ここは素直に彼の優しさを受け入れた。 

そして、綿飴を食べ終わった数分後――――理玖はある屋台を発見する。
「あ!」
見つけるや否や、そこへ向かって走り出した。 そんな彼に続くよう、結人たちもその場所へと足を向かわせる。
「・・・ストラップ?」
理玖が見つけたのは、たくさんの種類のストラップが売られている屋台だった。 ここは空いていたため、5人は横一列となって売られているものを眺め始める。
そんな中、いち早くこの屋台に来た理玖がみんなに向かって声を上げた。
「みんなで友情の証として、お揃いのストラップを買おうよ!」
その提案に、悠斗と未来が続けて言葉を発する。
「いいね、それ!」
「俺賛成!」
案を受け入れた彼らは再び売られているストラップに目を通し、よさそうなものを探し始める。 だが――――
「・・・ストラップ、たくさんあるね。 お揃いなら、色違いにする?」
「そうだな。 どれにしようか」
理玖は悠斗の発言に返事をしつつ並べられているモノを見渡していると、ふと隣にいる夜月が視界に入った。 彼の視線の先へ思わず目が動く。
「・・・夜月は、これがいいの?」
「え? いや、別に・・・」
彼はある一種類のストラップしか見ておらず“夜月はこれがほしいんだろうな”と思い気を遣うように言った。 
夜月はそう言うが、理玖は彼がほしがっているであろうストラップに一目惚れし、大きな声で言葉を紡ぐ。
「へぇ、いいな、これ! 夜月は物を選ぶセンスがあるからなぁ! だからこれに間違いない! よし、これにしよう! みんな聞いて! これにしない?」
周りにいるみんなの視線を集め、一つのストラップを指差した。
「いいな、これ! 超キラキラしていてカッコ良い! パワーストーンストラップかぁ」
「これ、夜月が選んだの?」
「・・・別に」
未来と悠斗が続けて口にするが、夜月はそっぽを向き小さな声で答える。
「でも、色はどうする? たくさんあるけど」

夜月が気になったのは、パワーストーンのストラップ。 透明感があってとても綺麗で、誰もが一度は魅了される品物だった。

未来のその質問に、理玖はたくさんの色があるストラップと少しの間睨めっこをし、一つのものを手に取る。
「んー・・・。 まずはこれ、未来!」
「え?」
迷わずに決めたモノを、未来の目の前に突き付けた。 その突然な行為に驚かれると、理玖はキョトンとした顔でこう口にする。
「あれ、未来はオレンジが好きじゃなかったっけ?」
「いや、好きだけど・・・。 よく憶えていたな」
そう言いながら照れた素振りを見せ、彼はオレンジ色のストラップを受け取った。 その様子を見て、理玖は笑いながら再び品を見渡し始める。
「ははッ、もっと褒めてくれてもいいんだぜ! えっと、悠斗はー・・・。 あ、これかな。 青が好きだろ?」
「うん!」
好きな色を一発で当てられた悠斗は、喜びながら青色のストラップを受け取った。
「よかった、合っていた。 結人は、好きな色とかある?」
未来と悠斗に合うモノを当てた理玖は、次は結人に話題を振る。
「いや、好きな色は特に・・・」
曖昧な返事を聞きながらも、品を見渡し続け――――
「うーん、そっかぁ・・・。 なら、結人はこれだ!」
「・・・黄色?」
理玖が突き付けてきたものは、黄色のストラップ。 戸惑いながらも、結人はストラップを受け取った。
「そう、黄色!」
「どうして?」
「結人はいつもニコニコ笑っている。 結人の笑顔はキラキラしているように見えるから、黄色さ」
「・・・」
そう言われどんな反応をしたらいいのか分からなくなった結人は、恥ずかしい気持ちになって俯き始める。 そして今度は、夜月に話題を振った。
「夜月も、好きな色はないんだっけ?」
「まぁ」
「じゃあこれ!」
そう言いながら、迷わず手に取った品を夜月の目の前に突き出す。
「・・・何で黒?」
困惑しながらも受け取り、理玖に向かって尋ねた。
「夜月は、夜の月って書くだろ? 夜と言えば黒! てか、この黒超かっけぇ!」
「・・・」
黒なのに澄んだ色をしていて、とても輝かしい黒色のストラップ。 それを、理玖は羨ましそうに見つめた。 そして最後は、自分に合うモノを探し始める。
「僕はじゃあ・・・赤かな」
そう言って赤のストラップを手に取ると、近くから未来の突っ込みが入ってきた。
「リーダーの色として赤かよ」
「違う、そんなんじゃないよ」
「じゃあ、何で赤?」
突っ込みに対し苦笑しながら返すと、続けて理玖はその質問の答えを朗々と語り始める。
「夜月と、正反対の色だから」
「ん?」
「夜の反対と言えば朝。 朝と言えば太陽で、太陽と言えば赤だろ?」
「・・・」
そしてまだ、語り続ける。
「夜がもし来なかったら、僕たち人間はずっと学校へ通い続けなければならない。 それは流石に僕でも疲れるよ。 でも朝が来なかったらずっと眠ったままで、みんなには会えない。
 だから朝と夜は、共に必要だと思わないか?」
理玖にしては珍しく真面目なことを語り出したことに驚くが、優しい表情で綴られたみんなは彼に向かって微笑みだけを返した。
「よし。 おじさん、これください!」
話し終えた理玖は、手に持っている赤いストラップを元気よく屋台の人に見せ付けた。

「これ、どこに付ける?」
無事にストラップを買い終えたみんなは、再び屋台を回りながらどこに付けるのか話し合う。
「えっと、ランドセル・・・は、未来と悠斗が無理か・・・」
理玖はそう提案を出すが、未来と悠斗のランドセルには二人の友情の証であるお揃いのストラップが既に付いていたことを思い出し、口を噤んだ。
「いや、それでも付けれるよ?」
「いやいや、流石に幼馴染の友情には邪魔できないよ。 なら・・・筆記用具にしよう!」
悠斗の言葉を優しく受け入れながらも、次の提案を出す。 それに、続けて悠斗が頷いた。
「分かった! キャンプから帰ったら、すぐに付けるよ!」
「うん!」
「もしさ、誰かが落としたりなくしたらどうする?」
未来が最後にそう口にすると、理玖は一度考え込み――――
「そうだな、もしそうなったら・・・。 見つかるまで、みんなで捜すまでさ」

―バーン。

言い終わると同時に、みんなの頭上には大きな花火が打ち上げられた。
「あ、花火だ! 凄く大きいなぁ」
理玖はそう言いながら、空を見上げる。 彼につられ、他のみんなも夜空を見上げ出した。 花火は何度も何度も大きな花を咲かせ――――最後には、儚く散っていった。


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