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結人と夜月の過去。
結人と夜月の過去 ~小学校二年生②~
しおりを挟む夏休み 結人の家
夜月への仕返しは続き、しかもそれに関しては誰も気付かないまま、夏休みに突入してしまった。
夜月はなおも琉樹にいじめられていて、苦しい思いをしているのだが――――ここにも思い悩んでいる少年が、一人。
―――2×3は・・・6・・・。
―――2×4は・・・?
結人は夏休みの宿題である算数のプリントを終わらせようと、必死に机へ向かい勉強に取り組んでいた。
この暑い部屋には窓から涼しい風が入ってくるが、結人の体力は既に限界である。 いや、体力が限界というよりも――――
―――あぁ・・・駄目だ。
―――・・・集中、できないや。
勉強が手に付かなくなり、鉛筆を机の上に置いてその場に立ち上がる。 そしてベッドまで行き、思い切り布団へ向かってダイブした。
「・・・はぁ」
そこで自分の身体を包み込むように、小さく丸くうずくまる。 その態勢のまま、結人の脳裏には彼らが浮かんだ。
―――みんなと一緒にいると楽しいのは確かだけど、やっぱり夜月くんがいると気まずいなぁ・・・。
そう――――結人はまだ、夜月のことが気になり引きずっていたのだ。 今は交流が増えたとはいえ、二人の間にはまだ壁がある。
理玖たちと一緒にいる学校、放課後、休日、夏休み。 毎日、結人は彼らとの関係について思い悩んでいた。
―――・・・僕がみんなから離れたらそれで済むんだけど、それは理玖が許してくれないんだよね。
―――じゃあ・・・どうしたら。
―プルルルル。
そのことについて考えていると、突然下の階から電話の音が聞こえてくる。 それが耳障りだと感じ、顔を腕の中に埋めた。
それから数秒後、電話の音が途切れたので母が電話に出たのだと分かる。 だがそれから更に、数秒後――――
「結人ー?」
「・・・」
母が下から名を呼んでくるが、結人は返事をする気にはなれず、かといって電話にも出る気ではなかったため、逃げるようにより深く顔を埋めた。
「結人、電話よー」
「・・・」
“早くこの時間が去ってくれ”と願いながら、ただ過ぎるのを待つ。 だが――――次の瞬間。
「浩二くんから電話ー!」
その名が耳に届いた瞬間、結人はベッドから勢いよく飛び上がった。
―――え・・・真宮から?
彼の名を聞くなり急いで部屋を出て、急いで階段を下り、電話のあるところまで走る。 真宮浩二――――彼は、結人が静岡にいた頃、一番仲がよかった友達だった。
「貸して!」
「何よ。 聞こえているなら返事くらいしなさい」
受話器を奪い取ると母は強い口調でそう言いながら、この場を去っていく。 だがそんな言葉には気にも留めず、結人は電話越しの相手に声をかけた。
「もしもし? 真宮!?」
『お、色折かぁ! 久しぶりだな』
「・・・本物だ」
『何だよそれ。 まるで、偽の僕が出たみたいな言い方だな』
先程まで理玖たちのことで悩み苦しい思いをしていたが、信頼できる真宮から連絡がきて幸せな気持ちを今は味わう。
「真宮、久しぶり! また話せて嬉しいよ。 約一年ぶりかな?」
『あぁ、そのくらいだな』
「声を聞いている限り、元気そうでよかった。 でも、急に電話をしてきてどうしたの?」
早速結人は、何故か期待に胸を膨らませながら本題を切り出した。 すると電話越しからは、その期待を裏切らないような言葉が返ってくる。
『色折はさ、お盆は空いてる?』
「お盆? んー・・・。 多分、何も予定はないと思うけど」
『本当? なら、会おうよ!』
「え?」
―――・・・会う?
その誘いに言葉が詰まっていると、少しの間を置いて再び電話の向こうから声が聞こえてきた。
『うん。 僕が色折のいる、横浜へ行く』
「え、本当!? 来てくれるの?」
『あぁ。 といっても、一人では行けないから、僕のお母さんと一緒に行くことになるけど』
「全然いいよ! 凄く嬉しい!」
久しぶりに真宮に会えると思い、結人は素直に喜ぶ。
『僕のお母さんがお盆しか連休取れないみたいだから、その時しか時間がなくてさ。
僕のお母さんからは横浜へ行って色折に会ってもいいっていう了解はもらったけど、あとは色折のお母さん次第かなぁ・・・』
「そんなの、絶対にOKしてくれるよ! また真宮に会えるなんて嬉しい! あ、そうだ。 もちろん、僕の家に泊まるよね?」
『さぁ、それはどうだろう?』
「泊まってもいいよ!」
『はは、ありがとう。 僕も横浜へ行って色折に会えるの、楽しみにしているよ』
こうして――――最後にはきちんと結人の母からOKをもらい、家に泊まることもOKしてくれた。 結人はこのお盆休みを、心から楽しみにしている。
今の苦しい気持ちから、少しでも離れることができると思うと――――結人の顔からは、自然と笑みがこぼれていた。
数日後 公園
夏休みの間も、当然結人には自由がない。 ほぼ毎日理玖に『一緒に遊ぼう!』と誘われ、断ることができなかった。 そして今、いつものメンバーが公園に集合している。
結人はブランコに乗って、彼らが楽しそうに談笑しているのをぼんやりと見ていると、突然目の前に理玖が現れた。
「ねぇ結人!」
「?」
「お盆って、空いてる?」
「え、お盆?」
聞き返すと、彼は笑顔で頷いて続きの言葉を口にする。
「うん! このメンバーみんなで、キャンプへ行きたくてさ!」
「ッ・・・」
結人はその誘いを聞いた後、少し引きつった顔を見せた。 だがすぐに申し訳なさそうな表情になり、断りを入れる。
「あ・・・ごめん。 お盆は、予定が」
「え、予定って?」
「お盆は、静岡の友達と会う約束があって」
理玖の顔がまともに見られず俯いたまま言い放つと、彼は溜め息をつきながら結人の隣にあるブランコに腰を下した。
「そっかぁ・・・。 そりゃあ、僕たちといるよりも静岡の友達と一緒にいた方が、結人は楽しいもんね。 じゃあ、仕方ないかぁ・・・」
素直にショックを受けている彼に、もう一度謝りの言葉を述べる。
「・・・ごめんね」
「ううん、いいよ! 土産話もってくるからね。 でもいつか結人と一緒に、キャンプへ行きたいな」
「うん、そうだね。 キャンプはみんなで行くんだっけ?」
「そうだよ。 夏休みのキャンプは、毎年恒例なんだ! ・・・いや、毎年恒例っていっても、今年で3年目だけど。 キャンプのセットは僕の家に全てあってさ。
僕の両親、忙しくて夏の休みはお盆しか取れないんだ。 だから毎年その期間、友達を誘ってキャンプに出かけているんだよ」
「へぇ、そうなんだ。 楽しそうだね」
理玖からキャンプについて話を聞いていると、結人たちの周りには自然と未来たちが集まってきた。 そして二人の輪にさり気なく入るように、未来が理玖に向かって口を開く。
「そういや、琉樹にぃって今年は来れないんだっけ?」
「ッ・・・」
「?」
その問いに答えようとすると、理玖は近くにいる夜月の一瞬の反応に気が付いた。
「あぁ、うん。 兄ちゃん、今年は来れないって。 ・・・夜月?」
質問に答えた後、素直に彼を気にかける。
「ん?」
「どうかした?」
心配そうな面持ちで尋ねた理玖だが――――夜月はその問いに対して、軽く首を横に振った。
「いや、何でもないよ」
「そう・・・」
冷たく返されると、自然と視線を地面へと落とす。 みんながキャンプへ行くことを楽しみにしているのと同時に――――結人も、真宮に会えることを楽しみにしていた。
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