心の交差。

ゆーり。

文字の大きさ
上 下
340 / 365
結人と夜月の過去。

結人と夜月の過去 ~小学校二年生①~

しおりを挟む


2年生 教室


1年が過ぎ、2年生となった。 クラス替えをして、また新たな生活が始まろうとしている。 
そして2年生のクラス分けは――――結人と夜月が同じクラスになり、理玖と未来と悠斗が同じクラスだった。 
一見この二組を見て危機感を覚えると思うが、夜月はこの結果に関して特別な感情は何も抱いていない。 
昨年は理玖と結人が一緒のクラスだったため、嫌でも彼らの絡みが視界に入っていたが、今年別になったおかげで常に絡まなくなり、寧ろよかったと思っていた。
そしてもう一つ、一個学年が上がって変わったこと。 それは、夜月は理玖からの誘いをできるだけ断らないようになった。 
昼休みなどは、毎回『夜月遊ぼう!』と言って姿を現し誘ってくる。 当然彼の隣には、結人もいた。 1年生の頃は誘いを断ることがほとんどだったが、今はできるだけ参加。
結人が理玖の隣にいることは今でも気に食わないが、それは我慢していた。 放課後の帰りも、当然彼らと一緒。 その理由は――――


「待っていたよ、夜月。 早速仕事だ」
目の前にいる琉樹から、そう言い放たれた。 目を合わすことができない夜月に向かって、楽しそうに淡々とした口調で命令を下していく。
「さっき友達とサッカーをして遊んでいたらさぁ、ボールがあの家の方へ飛んでいっちゃったんだよ。 だから、取ってきてくれる?」
「・・・」
「あぁ、ついでに言うと、ボールがあの家へ飛んでいくのと同時に窓が割れる音もしたから、そこらへんもよろしくね」
そう言って――――琉樹はニヤリと小さく笑った。 夜月は素直にその指示に従い、一人でボールが飛んでいった方へと足を進める。
「・・・すいません」
家へ着くなり小さな声で呟くと、突然中から男の怒鳴り声が聞こえてきた。
「君かぁ! このボールの持ち主は!」
「・・・」
それでも夜月は抵抗せず、家主の怒りを黙って聞いている。
「ったく、何度目だ! いつもいつも窓ガラスを割りやがって! よし君、学校名を教えろ。 学校へ連絡して、厳しい罰を受けてもらわないとな!」
ここでも言われた通り素直に学校名を教えるが、先生に呼び出されるものの注意だけで済み、大事にならずに済んだ。 
そう――――夜月は理玖に、自分は琉樹から酷いことをされているということがバレないよう、心配をかけないよう積極的に絡んでいこうと思ったのだ。


そしてまた――――ある日のこと。
「昨日また、悪いことをしちゃってさぁ」
「・・・」
「ソイツらが『お前のせいだ』とか言って、俺のことをすげぇ怒ってくんの。 だから・・・俺の代わりに、ソイツらにやられてきてよ」
琉樹が何かしらの罪を被ったら、それは全て夜月が責任をとる。 こういう命令でさえも、文句を何一つ言わず素直に受け入れていた。 
夜月は休日や放課後、琉樹に酷いことをされ続けている。


そしてまた――――ある日のこと。
「あー、マジアイツら気にいんねぇ。 調子に乗んなっての。 鬱陶しい」
「・・・」
「夜月ー、アイツらを今からいじめてきてよ。 アイツらを待ち伏せして、水を上からぶっかけたり・・・とか」
琉樹と同学年である彼らを、いじめる。 その命令ですら、夜月は素直に従っていた。 自分がやっていることはいけないことだと分かっていながらも、断ることができずにいる。
もしここで抵抗してしまうと、より酷いことをされそうな気がしたから。 ただ――――それだけだった。


そしてまた――――ある日のこと。
「何だよこの暑さー。 まだ6月だぞ?」
「・・・」
「あー、喉乾いた。 夜月、自販機で飲み物を買ってきてくれ。 もちろん、お前の奢りでな」
時には、パシリにされたり。


そしてまた――――ある日のこと。
「あー、また俺の基地を占領してやがる」
「・・・」
「夜月、アイツらの中へ入っていって喧嘩を売ってこいよ。 そしてやられたら、その場で倒れ込め。 そしたらアイツら、ここから離れると思うからさ」
琉樹にやらされていることは、精神的にも肉体的にもキツいものばかりだった。 それでも夜月は――――彼の言いなりになり続ける。





学校


ある日のこと。 もうすぐ夏を迎えようとしている彼らに、理玖は夜月の目の前に姿を現した。
「夜月!」
「何?」
「そろそろ暑くて耐えられないから、明日から一緒に半袖で登校しようよ! ほら、僕だけ半袖で浮いちゃうのは嫌だしさ」
「ッ・・・」
何でも理玖の言うことには逆らわないようにと決めていたが――――それだけは、どうしても無理だった。
「・・・悪い、俺はまだ長袖でいいや」
「え、どうして?」
「俺肌が弱いから、日焼けなんてしたくないし」
「肌が、弱い・・・?」
幼稚園の頃からの仲なのだが、初めて聞かされた夜月の体質に戸惑う理玖。 
そう、この誘いを断ったのは――――当然、琉樹に酷いことをされている時の怪我やアザを、隠すためだった。 そして夜月へのいじめは、まだまだ続くのである。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ガラスの世代

大西啓太
ライト文芸
日常生活の中で思うがままに書いた詩集。ギタリストがギターのリフやギターソロのフレーズやメロディを思いつくように。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタの村に招かれて勇気をもらうお話

Akitoです。
ライト文芸
「どうすれば友達ができるでしょうか……?」  12月23日の放課後、日直として学級日誌を書いていた山梨あかりはサンタへの切なる願いを無意識に日誌へ書きとめてしまう。  直後、チャイムの音が鳴り、我に返ったあかりは急いで日誌を書き直し日直の役目を終える。  日誌を提出して自宅へと帰ったあかりは、ベッドの上にプレゼントの箱が置かれていることに気がついて……。 ◇◇◇  友達のいない寂しい学生生活を送る女子高生の山梨あかりが、クリスマスの日にサンタクロースの村に招待され、勇気を受け取る物語です。  クリスマスの暇つぶしにでもどうぞ。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

神様のボートの上で

shiori
ライト文芸
”私の身体をあなたに託しました。あなたの思うように好きに生きてください” (紹介文)  男子生徒から女生徒に入れ替わった男と、女生徒から猫に入れ替わった二人が中心に繰り広げるちょっと刺激的なサスペンス&ラブロマンス!  (あらすじ)  ごく平凡な男子学生である新島俊貴はとある昼休みに女子生徒とぶつかって身体が入れ替わってしまう  ぶつかった女子生徒、進藤ちづるに入れ替わってしまった新島俊貴は夢にまで見た女性の身体になり替わりつつも、次々と事件に巻き込まれていく  進藤ちづるの親友である”佐伯裕子”  クラス委員長の”山口未明”  クラスメイトであり新聞部に所属する”秋葉士郎”  自分の正体を隠しながら進藤ちづるに成り代わって彼らと慌ただしい日々を過ごしていく新島俊貴は本当の自分の机に進藤ちづるからと思われるメッセージを発見する。    そこには”私の身体をあなたに託しました。どうかあなたの思うように好きに生きてください”と書かれていた ”この入れ替わりは彼女が自発的に行ったこと?” ”だとすればその目的とは一体何なのか?”  多くの謎に頭を悩ませる新島俊貴の元に一匹の猫がやってくる、言葉をしゃべる摩訶不思議な猫、その正体はなんと自分と入れ替わったはずの進藤ちづるだった

処理中です...