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結人と夜月の過去。
結人と夜月の過去 ~小学校二年生①~
しおりを挟む2年生 教室
1年が過ぎ、2年生となった。 クラス替えをして、また新たな生活が始まろうとしている。
そして2年生のクラス分けは――――結人と夜月が同じクラスになり、理玖と未来と悠斗が同じクラスだった。
一見この二組を見て危機感を覚えると思うが、夜月はこの結果に関して特別な感情は何も抱いていない。
昨年は理玖と結人が一緒のクラスだったため、嫌でも彼らの絡みが視界に入っていたが、今年別になったおかげで常に絡まなくなり、寧ろよかったと思っていた。
そしてもう一つ、一個学年が上がって変わったこと。 それは、夜月は理玖からの誘いをできるだけ断らないようになった。
昼休みなどは、毎回『夜月遊ぼう!』と言って姿を現し誘ってくる。 当然彼の隣には、結人もいた。 1年生の頃は誘いを断ることがほとんどだったが、今はできるだけ参加。
結人が理玖の隣にいることは今でも気に食わないが、それは我慢していた。 放課後の帰りも、当然彼らと一緒。 その理由は――――
「待っていたよ、夜月。 早速仕事だ」
目の前にいる琉樹から、そう言い放たれた。 目を合わすことができない夜月に向かって、楽しそうに淡々とした口調で命令を下していく。
「さっき友達とサッカーをして遊んでいたらさぁ、ボールがあの家の方へ飛んでいっちゃったんだよ。 だから、取ってきてくれる?」
「・・・」
「あぁ、ついでに言うと、ボールがあの家へ飛んでいくのと同時に窓が割れる音もしたから、そこらへんもよろしくね」
そう言って――――琉樹はニヤリと小さく笑った。 夜月は素直にその指示に従い、一人でボールが飛んでいった方へと足を進める。
「・・・すいません」
家へ着くなり小さな声で呟くと、突然中から男の怒鳴り声が聞こえてきた。
「君かぁ! このボールの持ち主は!」
「・・・」
それでも夜月は抵抗せず、家主の怒りを黙って聞いている。
「ったく、何度目だ! いつもいつも窓ガラスを割りやがって! よし君、学校名を教えろ。 学校へ連絡して、厳しい罰を受けてもらわないとな!」
ここでも言われた通り素直に学校名を教えるが、先生に呼び出されるものの注意だけで済み、大事にならずに済んだ。
そう――――夜月は理玖に、自分は琉樹から酷いことをされているということがバレないよう、心配をかけないよう積極的に絡んでいこうと思ったのだ。
そしてまた――――ある日のこと。
「昨日また、悪いことをしちゃってさぁ」
「・・・」
「ソイツらが『お前のせいだ』とか言って、俺のことをすげぇ怒ってくんの。 だから・・・俺の代わりに、ソイツらにやられてきてよ」
琉樹が何かしらの罪を被ったら、それは全て夜月が責任をとる。 こういう命令でさえも、文句を何一つ言わず素直に受け入れていた。
夜月は休日や放課後、琉樹に酷いことをされ続けている。
そしてまた――――ある日のこと。
「あー、マジアイツら気にいんねぇ。 調子に乗んなっての。 鬱陶しい」
「・・・」
「夜月ー、アイツらを今からいじめてきてよ。 アイツらを待ち伏せして、水を上からぶっかけたり・・・とか」
琉樹と同学年である彼らを、いじめる。 その命令ですら、夜月は素直に従っていた。 自分がやっていることはいけないことだと分かっていながらも、断ることができずにいる。
もしここで抵抗してしまうと、より酷いことをされそうな気がしたから。 ただ――――それだけだった。
そしてまた――――ある日のこと。
「何だよこの暑さー。 まだ6月だぞ?」
「・・・」
「あー、喉乾いた。 夜月、自販機で飲み物を買ってきてくれ。 もちろん、お前の奢りでな」
時には、パシリにされたり。
そしてまた――――ある日のこと。
「あー、また俺の基地を占領してやがる」
「・・・」
「夜月、アイツらの中へ入っていって喧嘩を売ってこいよ。 そしてやられたら、その場で倒れ込め。 そしたらアイツら、ここから離れると思うからさ」
琉樹にやらされていることは、精神的にも肉体的にもキツいものばかりだった。 それでも夜月は――――彼の言いなりになり続ける。
学校
ある日のこと。 もうすぐ夏を迎えようとしている彼らに、理玖は夜月の目の前に姿を現した。
「夜月!」
「何?」
「そろそろ暑くて耐えられないから、明日から一緒に半袖で登校しようよ! ほら、僕だけ半袖で浮いちゃうのは嫌だしさ」
「ッ・・・」
何でも理玖の言うことには逆らわないようにと決めていたが――――それだけは、どうしても無理だった。
「・・・悪い、俺はまだ長袖でいいや」
「え、どうして?」
「俺肌が弱いから、日焼けなんてしたくないし」
「肌が、弱い・・・?」
幼稚園の頃からの仲なのだが、初めて聞かされた夜月の体質に戸惑う理玖。
そう、この誘いを断ったのは――――当然、琉樹に酷いことをされている時の怪我やアザを、隠すためだった。 そして夜月へのいじめは、まだまだ続くのである。
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