心の交差。

ゆーり。

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結人と夜月の過去。

結人と夜月の過去 ~小学校一年生⑪~

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冬休み後 朝 


何事もなく年が明け、冬休みが終わった後の初めての学校。 冷たくキンキンとした空気が、小学生らの周りに鋭く纏わりつく。 
だがそれに反するよう、みんなは登校しながら、元気よく走り回っていた。
「学校久々だなー!」
友達とはしゃぎながら楽しそうにしている彼らとは反対に、ある少年二人はゆっくりと歩きながら学校へ向かう。 
久しぶりに背負ったランドセルを嬉しく思いながら、理玖は笑顔で言葉を発した。
「学校は別に好きじゃないけど、三ヶ月も空いたら流石に行きたくもなるよね」
そして夜月は、楽しそうに話す彼のことを隣で微笑んで見守っている。
「それにさぁ! 僕の冬休みの宿題がみんなと同じって、何かおかしくない!? 僕は学校へ行っていなくて、宿題を出されても何も分かんないのに!」
「まぁ、そうだな」
「んー、でも、夜月が教えてくれたからよかったよ。 一人だったらさっぱりだったし。 夜月がいてくれて、本当に助かったー!」
そんなことを話し、夜月も理玖と再び一緒に登校することができて嬉しく思う中、二人は学校へ着き自分の教室へと向かった。
理玖は久々の学校が嬉しく、そして理玖とまた生活を送れることを嬉しく思っている夜月は、互いに軽い足取りのまま進んでいく。
そして教室へ着き、足を一歩中へ踏み入れると――――理玖はある一人の少年をすぐさま発見し、一瞬にしてより笑顔になった。

「結人だ!」

「ッ・・・」

早々放たれた言葉に、夜月は険しい表情になる。 だがそれに気付いていない理玖は、笑顔で結人のもとへと駆け寄った。
「結人!」
「ッ、理玖・・・」
彼の声を久々に聞いた結人は、喜ぶことよりも一瞬顔を強張らせてしまう。 そんな二人をよそに、夜月は彼らのもとへは行かず自分の席へと着いた。
「結人久しぶり! 元気だった?」
笑顔で何事もなかったかのように言葉を発してくる理玖に戸惑いながらも、無理に笑顔を作りぎこちなく答えていく。
「あ・・・。 うん、元気だったよ」
「よかったぁ! しばらくの間ずっと会えなかったら、心配していたんだよ」
「ごめんね。 理玖も無事、退院できたみたいだね。 おめでとう。 理玖も元気そうでよかったよ」
「ありがとな。 でも本当に、今日からまた結人と一緒に過ごせるなんて嬉しい!」
そんな彼らのやりとりは、理玖のテンションのせいか大きめな声で繰り広げられていた。 
そのため、教室の中で一番後ろの端にいる夜月の席でさえも、二人の会話が耳に届いてくる。

―――色折・・・その笑顔とその言葉は、全て本心からなのか?

そんな結人を横目で見ながら嫌な思いを抱いていると、背後から幼馴染二人がやって来た。
「夜月ー!」
夜月は未来の声に反応するが、後ろを振り向かずに何も言葉を返さない。 だが彼はそんなことには意に介さず、教室全体を見渡して大きな声を上げた。
「あれ、理玖もいる! そうか、理玖も今日から学校か!」
それに続けて、悠斗も微笑んで口にする。
「理玖、ユイに会えて凄く嬉しそうだね」
「だな。 理玖がいると、やっぱり雰囲気が違う。 クラスが一気に明るくなったような気がするな」
そんな未来の発言に、夜月はなおも振り向きもせず淡々とした口調で口を挟んだ。
「理玖がいるかどうかじゃなくて、理玖が入院してみんなは心配していたから、今元気に登校したのを見て安心しただけだろ」
「いやまぁ、そうかもだけどさ」
鋭い突っ込みに苦笑しながらもそう返し、夜月の腕を掴み続けて言葉を放つ。
「よし! 俺たちも理玖のところへ行こうぜ!」
「俺はいい」
「そうかぁ? でも俺たちは行っちゃうぞ?」
「勝手にしろ」
「じゃあ勝手にする。 理玖ー!」
そう言いながら未来は腕を放し、理玖と結人のもとへと駆け寄った。 そして彼の後ろを、悠斗は小走りで追いかけていく。
「あ、未来! 悠斗!」
理玖も二人に気付き、更に笑顔になった。
「このメンバーで会うの、久しぶりだね」
悠斗も彼らの輪に交ざり、優しく笑って口にする。 来てくれた彼らに向かって、理玖も笑顔で言葉を返した。
「だな。 二人も、入院中の見舞いや冬休みとかも来てくれてありがとな」
「いいって。 まぁ、夜月みたいに毎日は行けなかったけどな」
未来と悠斗も会話に交ざり、徐々に話が盛り上がっていく。 楽しそうに談笑している彼らを見て、聞いているのも嫌になり、夜月はついに席を立った。
苦い現実から逃げるよう、教室から出て廊下を歩く。 
―――ったく、何なんだよ・・・!
何に対してイラついているのかも分からない夜月は、落ち着きを取り戻すために行く当てもなく校舎内を歩き回った。 だけど、そんな時――――

「あ、夜月!」

「ッ・・・。 琉樹、にぃ?」

突然名を呼ばれ、少し驚きながらも立ち止まって声の方へと視線を移す。 そこに立っていたのは、理玖の兄である琉樹だった。 
夜月がその場に立ち止まったことを確認すると、二人の間を横切っている生徒たちを避け、彼はこちらへ駆け寄ってくる。
「夜月、ちょっと聞きたいことがあるんだ。 こっちへ来てくれるか?」

朝比奈琉樹(アサヒナルキ) 琉樹は理玖の実兄で、夜月たちより3つ上。 理玖は琉樹のことが大好きで、よく兄の自慢話を聞かされる。 それと同時に、琉樹も弟思い。 
だから二人の関係は凄くいいものだった。 夜月、未来、悠斗も琉樹と知り合いで、とても仲がいい。 放課後や休日でみんな揃った時、遊び相手にもなってもらったりしていた。
そして5歳から行っている毎年恒例になりつつあるキャンプでも、当然琉樹はいて夜月たちと遊んでもらったりもしている。 そしてみんなは彼のことを“琉樹にぃ”と呼んでいた。
カッコ良くて強くて、とても頼りになるため――――みんなにとっても、琉樹は兄的存在である。

「琉樹にぃ。 話って?」
呼び出された夜月は、校舎を出て学校の裏庭へと来ていた。 ここは行き交う生徒はほとんどいなく、今はまさに二人きり状態。
そして琉樹は一度周囲を見渡し誰もいないことを確認すると、夜月のことを真剣な表情で見据えながらゆっくりと言葉を紡ぎ出した。
「あぁ。 理玖さ、秋頃に入院しただろ? そのことについて聞きたくて」
「・・・」
少し嫌な予感がしながらも、彼から出る次の言葉を待つ。 そして琉樹は――――躊躇いもなく、ある質問を直球で投げかけてきた。

「理玖は、本当に事故だったのか?」

「ッ・・・」

どうして夜月は、この時一瞬言葉に詰まってしまったのだろうか。
「えっと・・・。 どうして、それを俺に?」
「いや、夜月は理玖と一番仲がいいからさ。 だから、何か知らないかと思って」
どうして夜月は、この時最低なことを思い付いてしまったのだろうか。
「・・・」
「まぁ、事故なら仕方ないけどな。 ただ・・・意図的なものだったら、何か許せなくて」
どうして夜月は――――この時、あの少年の名を口にしてしまったのだろうか。
「それは・・・色折のせいだよ」
「シキオリ?」
琉樹が聞き返してくるその言葉に、夜月はゆっくりと頷く。
「色折結人。 色折は俺と理玖と今同じクラスの奴で、最近よく理玖と一緒にいるんだ」
「色折・・・」
そして覚悟を決め、次の一言を力強く放った。

「その色折っていう奴が・・・理玖を、病院送りにしたんだよ」

何てことを言ってしまったのだろう。 この時はまだ、夜月は結人の存在を認めてなんかいなかった。 結人の全てを、肯定できなかった。 
だからそのようなことを、軽々と口にしてしまったのだ。

ここで彼の名を出さなければ――――夜月はこの先、苦しい思いをしなくても済んだというのに。


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