心の交差。

ゆーり。

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結人と夜月の過去。

結人と夜月の過去 ~小学校一年生⑤~

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数日後 休み時間 学校 廊下


結人は授業の後一人でトイレに行き、教室へ戻ろうとした。 いつもは理玖が付いてくるのだが、彼に声をかけられる前に教室から出たため、今は隣に誰もない。
少しでも、学校で一人になる時間がほしかったのだ。
―――僕・・・夜月くんに、何をしたんだろう。
たった一つのこの疑問だけが、頭をぐるぐると回り続ける。 理玖と一緒にいる時間でも、彼には笑顔を見せつつ夜月のことをずっと考えていた。
―――心当たりが・・・ない。
結人は普段、明るくて笑顔が多い活発な少年である。  だが基本受け身の態勢でいることが多いため、図々しい態度をとったことがない。
だから何故避けられているのか、自分でもよく分からなかった。 夜月にいつの間にか、嫌な思いでもさせてしまったのだろうか。
―――でも、夜月くんに避けられているのは確かなんだよな・・・。
結人でも自覚している。 自分は夜月に、避けられているということを。 そんなことを考えながら、自分の教室へ足を踏み入れようとした途端――――

―――・・・あれ?
―――理玖?

中へ入るのと同時に前のドアから入れ違いで、理玖が教室から飛び出していくのが目に入る。
―――・・・どこへ行くんだろう。
彼は珍しく走って教室から出て行ったため、少し違和感を感じた。





その頃理玖は――――結人と入れ違いで教室から出ると、ある一人の少年を追いかける。 彼の背中を見つけるなり、大きな声で呼び止めた。
「夜月! 待ってよ!」
呼ばれた夜月は、静かにその場に立ち止まる。 だが理玖の方へは、顔すらも向けてこなかった。 そんな彼に向かって、心配そうな面持ちで尋ねかける。
「夜月、僕何かした?」
理玖は――――ついに夜月との気まずい関係に耐えられなくなり、本人に直接聞こうとしたのだ。 だがその問いに対して、彼は振り向かないまま一言だけを返す。
「別にしていない」
そのような答えを聞いても、すぐには引き下がらない。
「じゃあ、どうして僕を避けるんだよ!」
「理玖は避けていない」
「避けてるよ!」
「・・・」
強めの口調で言うと、夜月は黙ってしまった。 その様子を見て理玖も態度を改め、落ち着いた口調で言葉を紡ぎ出す。
「・・・夜月、僕が何かをしたのなら言ってよ」
「だから、理玖は何もしていないって」
「夜月にとって何か嫌なこと、僕がしちゃったんでしょ? だったら言ってよ、直すから!」
必死になって言うと、夜月はやっとのことで理玖の方へゆっくりと身体を向ける。
「・・・?」
突然振り返られ、不思議そうな顔で彼のことを見つめた。  すると――――夜月は理玖のことを見据えながら、力強くある一言を言い放つ。

「色折は偽善者だ」

「え?」

いきなり放たれたその一言が理解できず、思わず聞き返した。
「偽善者って・・・何だよ」
「・・・」
「それはどういう意味だよ、教えてよ!」
「・・・」
「夜月!」
当然小学校1年生である理玖は、難しい単語なんて知らない。 だから“偽善者”という意味を聞こうと、必死に尋ね続ける。
だが夜月はその問いを無視し、小さな声で呟いた。
「・・・色折は偽善者だから、俺は気に入らない」
「だから、その偽善者ってどういう意味?」
今もなお同じことを聞き返してくる理玖を見て、彼は少し呆れた表情を見せる。 そして――――理玖のことを睨み付けながら、力強く言葉を放した。

「理玖。 もう色折とは関わるな」
「え? どうして」
「これ以上関わると、いつか色折に騙されて裏切られるぞ」
「え・・・。 あ、夜月!」

言い終えると、理玖の返事も聞かずにこの場から去ってしまう。 だがそんな夜月を、追いかけることができなかった。
彼から言われた言葉が心に響き、理玖は複雑な感情に包まれる。

―スタッ。

「え・・・?」
夜月の背中を見つめたまま、動けずにいると――――背後から誰かが走って行くような、小さな音が耳に届いてきた。





―――やっぱり・・・僕を、避けていたんだ。

足音の主は――――色折結人。 結人は理玖のことが気になり、彼の後を追いかけた。 そして、夜月と理玖の会話を――――聞いてしまったのだ。

―――僕が、偽善者・・・?
―――・・・偽善者って、人の前ではいい人のフリをしている・・・っていうことだよね。
―――本当は、相手のことを悪く思っていて・・・。

結人は溢れそうになる涙を何とか堪えながら、早歩きで廊下を歩きこの場から遠ざかろうとする。
―――そんなこと、思ってなんかいないのに・・・。
―――・・・本当に、そうなのかな。

「結人!」

夜月の言葉を身に染みて感じながら暗い気持ちになっていると、突然後ろから聞き慣れた声が届いてきた。 声の主は、見なくても分かる。
「理玖・・・?」
名を呼びながら、ゆっくりと後ろへ振り返った。 すると――――そこには、複雑そうな面持ちで立っている理玖の姿が目に入る。
その光景を見て、思わず息を呑んだ。 そして――――彼は不安そうな面持ちのまま、必死に言葉を紡ぎ出す。
「結人! その・・・。 さっきのは、何て言うか・・・」
「・・・」

―――・・・聞いていたの、バレていたんだ。

結人は全て事情を把握しているが、理玖は何とか誤魔化そうと迷いながらも言葉を続けた。
「結人のことじゃ・・・ないんだ。 同じ名前でたまたま結人と被っちゃって、その、だから、結人とは違う人で・・・」
その言葉を聞いて――――小さく、心の中で溜め息をつく。

―――理玖は・・・本当に嘘が下手だ。

この状況を何とかしようと頑張っている彼に、結人は優しい表情を見せた。 その顔を見るなり、理玖は不思議そうな顔をする。 
「理玖、ありがとう」
「え・・・?」
そして――――

「・・・僕たちはもう、関わらない方がいいのかもしれないね」

「え、ちょ・・・!」

寂しい気持ちを抑えつつ、心配をかけないよう言葉を綴る。 そして言い終わると、夜月と同様理玖だけをその場に残し、この場から立ち去った。
そんな結人のことも――――理玖は、追いかけることができない。 一方結人は彼に背を向けると、目からは涙が溢れそうになる。
―――これで・・・いいんだよね。
―――もしこれで二人の関係が戻って、夜月くんが明るい性格に戻ってくれるのなら・・・それでいい。
―――僕は偽善者。
―――なら、仲のいい二人の前から消えた方が絶対にいいんだ。
―――あれ・・・。
―――この考えこそが、偽善者なのかな・・・?
そんなことを考えつつ、自虐的に小さく笑った。 

そして――――結人はこれを機に、明るい性格から徐々に大人しい性格へと変わっていく。


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