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結人と夜月の過去。
結人と夜月の過去 ~小学校一年生④~
しおりを挟む翌日 学校
無事に一日目を終えることができた結人。 だがこれから、毎日幸せな日常を過ごせるわけではない。 それは自分でも――――分かっていることだった。
「結人ー! 次の時間は体育だって! 早く行こう!」
休み時間の間に体操服に着替え終わった理玖は、これからの授業を楽しみにしているかのように満面の笑みで近寄ってくる。
「うん! 体育、何をやるんだろうね」
まだこの学校へ来て二日目の結人は、素直な疑問を口にした。
「あ、結人は知らないもんね。 体育は夏休み前と同じのを少しやるって言っていたから、サッカーだよ!」
「本当!? サッカー大好き!」
「僕も好き! 結人と一緒のチームだといいなぁー。 身長も近いし、一緒のチームになれる可能性が高い!」
そう言いながらふと時計を見ると、もうすぐで授業が始まることに気付く。
「そろそろ外へ行こうか! 夜月も行くよ!」
「・・・」
理玖は教室の端にいる着替え終わった夜月を見て言うが、彼は無視し一人教室から出ていってしまった。 その光景を見て、慌てて口を開く。
「あれ、夜月! 待ってよ! 結人も行こう!」
「あ、うん!」
二人は走って追いかけた。 そう――――夜月が結人を無視することは、転校した初日だけではない。 これからもずっと――――続くのだ。
数日後 休み時間
授業が終わってからすぐ、理玖はまたもや結人の席へ駆け寄った。
「なぁ、結人! 結人はまだ、学校のこと詳しく知らないでしょ? だったら、僕が校舎を案内するよ」
「本当? 嬉しい!」
素直に喜ぶと、笑い返してくれる。
「でも入学してまだ半年くらいだし、僕が知らないところもきっとたくさんあるだろうね。 でも結人となら、冒険するみたいで楽しそう!」
「そうだね」
そこで彼は、一人の少年の名を口にした。
「あ、そうだ。 夜月も誘っていい?」
「もちろん!」
理玖は――――夜月のことを、ひと時も忘れたことはない。 常に彼のことを考え、気を遣っていたのだ。
「夜月! 夜月も僕たちと一緒に、学校探検しようぜ!」
「・・・」
理玖は夜月に向かって大きな声で言うが、彼はまたもや何も言わずに教室から出て行ってしまう。
「あれ・・・。 夜月、トイレかな・・・」
去っていく後ろ姿を見つめながら、理玖は困った表情で小さく呟いた。 だが結人は、気付いている。 夜月が避けているのは、理玖ではなく自分だということを。
自分だけが避けられているのに、理玖にも被害を与えてしまって、結人はそれを申し訳なく思っていた。
数日後 国語の授業
「じゃあ、3人グループを作って! そしたら「ましてや」を使った短文を、グループ内で発表するように!」
先生から指示をされ生徒たちは、一斉に動き出す。 当然理玖も、彼らと同時に動き出した。
「結人、一緒にやろう!」
「うん、いいよ!」
結人も当然、断るわけがない。
「国語って難しいよなぁ・・・。 僕さっぱりなんだけど」
そう言って苦笑すると、今度は夜月の方へ視線を移し名を叫んだ。
「夜月ー! こっちへ来いよ! 一緒にやろう!」
だが――――彼はこちらが誘う前に、他の男子からの誘いを受けている。 更にそれを、小さく笑って受け入れていた。
「・・・何だよ。 僕以外の誘いに、OKしちゃってさ・・・」
ここで初めて見る、理玖の暗い表情。 その姿を見ていると、結人の胸も苦しかった。 そんな彼に何か声をかけてあげようとした、その瞬間――――
「理玖くん、結人くん。 僕も、一緒にやっていい?」
突然クラスメイトの一人の男子が、申し訳なさそうな面持ちで話しかけてきた。 それを聞いた途端、理玖は一瞬にしていつもの笑顔を見せる。
「あ、もちろん! 一緒にやろう!」
だが結人は――――分かっていた。 理玖は、空元気が得意ではないということを。 今この男子に見せた笑顔も、完全な作り笑いであるということを。
理玖は本当に嘘が下手で、真宮みたいな人の思考が読める人間ではない結人でも、彼が無理しているということには既に気付いていた。
数日後 放課後 路上
転校初日から、理玖が言っていた通り放課後は5人みんな揃って下校している。 この習慣は当たり前のように続いていて、流石に結人を無視する夜月でも、この時だけは一緒にいた。
「なぁなぁ、どうして未来と夜月は自分のことを“俺”って言うんだー?」
ふと思ったことを、陽気な口調で理玖が尋ねる。
「え、だって“俺”の方がカッコ良いじゃん」
「僕たちはまだ子供だろ! “僕”のままでいいじゃんか!」
「そうかなー」
未来の返しに、少し頬を膨らませた。
「僕は“僕”を貫き通すからな! これから先もずっと!」
「やれるもんならやってみろ!」
「あぁ、やってやるさ。 夜月も未来と同じ理由で“俺”なのかー?」
「・・・」
理玖は上手く夜月に会話のパスをする。 だが彼はこちらの方へは一度も視線を向けず、黙ったままだった。
そんな中、気まずい空気になってしまうといち早く感じ取った理玖は、慌てて次の言葉を発する。
「ま、まぁ確かに“俺”の方がカッコ良い気もするけどなー。 でも小1の僕たちは、まだ“僕”でいいんじゃないかって思っただけだ。 ははッ!」
そう言って、笑ってみせた。 だが――――未来と悠斗も、夜月の違和感には気付いている。
直接言ってはいないが、最近夜月と理玖はあまりいい関係を築いていないと分かっていた。
そんな彼らに口出しすることもできない二人は、何も言わずに静かに見守るだけ。 そして――――結人も、元気だった。
まだこの時は、無邪気で元気で笑顔の絶えない、純粋な――――少年だった。
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