心の交差。

ゆーり。

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結人と夜月の過去。

結人と夜月の過去

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夏休み 午前 立川駅前


そして――――ついに、夏休みに突入した。 早速みんなは自分たちの荷物を持ち、横浜へ行くために駅の前で集合している。 
この中では藍梨、真宮、伊達以外の実家は横浜にあるため、この3人以外の持ち物は基本的に少ない。 だから電車に乗っても、多く幅を取らなくて済むだろう。
「待ちに待った夏休みだぜー!」
「楽しもうぜー!」
相変わらずテンションの高い御子紫と椎野は、駅前で両手を高く上げ楽しそうに騒いでいた。 そんな彼らの光景を、隣で温かく見守っている北野も相変わらずだ。
立川駅の前で、10時に集合する約束をしたのだが――――ある二人だけは、この場にいなかった。
「あれ、人数少ないよな? 10時集合なのに来ていない奴は誰だ」
携帯を見て今は10時ぴったりだと確認すると、周りに仲間が少ないことに気付き未来は不満そうに口にする。
「コウと優がいないよ」
「優はともかく、コウなら時間をちゃんと守りそうなのにな。 ユイ、コウたちからの連絡は?」
「来ていないよ」
悠斗の返事を聞いて未来が結人にそう尋ねると、結人は携帯の画面を見ながら心配そうな表情でそう返した。
「あー、コウたちなら、俺が連絡してみるわ」
そう言って御子紫は、自ら携帯を取り出しコウに電話をかける。 彼に二人のことを任せていると、未来はふと思い出したかのように真宮に向かって口を開いた。
「あ、そうだ! 真宮、俺の家にしばらく泊まっていけよ」
「マジで? さんきゅ」
未来から誘われたことに真宮は素直に喜ぶと、彼らの会話に椎野が笑いながら割って入ってくる。
「未来、今となって一人が寂しいんだろー?」
「は!? ちげーしッ!」
「分かりやすいなぁ」
そんな彼らの会話を聞いていた夜月も、近くにいる伊達に声をかけた。
「伊達は俺の家に泊まるか?」
「え、いいのか?」
「もちろん」
「ありがとな」
そしていつの間にか、真宮と伊達がしばらく泊まる家が決まったみたいだ。

「おう、分かった。 じゃ、また後でなー」
泊まる家を話していると、御子紫の電話も終わった様子。 それと同時に椎野は口を開く。
「コウたちは何だってー?」
「あと20分くらいかかるって」
「そんなにかかるのかよ。 先に行って、向こうで待っているか?」
「いや、それは流石に可哀想だろ」
未来の発言に御子紫が仲間を思いやりそう言うと、みんなはコウと優の到着を待つことになった。
「そう言えば、向こうへ着いたら何をするの?」
二人を待っている間に放たれた北野のその言葉に、ここにいる彼らは自然と結人の方へ注目する。

―――・・・え、俺かよ。

今の状況を見てそう判断した結人は、困りながらも答えていった。
「んー・・・。 荷物が重くて、一度家に帰りたい奴はいるか? いないなら、そのまま飯でも」
「いいね、飯! みんなでどこかに食べに行こうぜ!」
発言を遮ってそう口にしてきた未来に、結人はどこか嬉しそうに“やれやれ”といった表情を見せる。
「藍梨の荷物は俺が持つし、真宮と伊達がいいならな」
「俺は構わないぜ」
「俺も」
結人のその気遣いに真宮と伊達が続けて返事をすると、未来は嬉しそうな表情を見せた。
「よし! じゃあ着いてからどこへ行くのか決めようぜ!」

そうして、みんなでどこへ行くのかを話し合っていると――――やっとコウと優が、駅前に到着する。
「お待たせー!」
「遅いぞ! 優、コウ!」
二人の登場に、早々声を上げる未来。
「ごめんごめん。 随分コウの家に居座っちゃって、自分の家に一度戻って荷物の準備をしていたら遅くなってさぁー」
「昨日荷物の準備をしなかったのか?」
「しなかった! でも今日は早めに起きて、俺ん家行ったんだよ!」
「それでも遅刻だ!」
椎野の問いにそう答えるものの、未来の怒りは治まらない。 だが優も負けじと彼に食らい付いた。
「遅刻といっても、30分も経っていないでしょ!」
「今は10時26分だぞ! 30分でも26分でも一緒だ!」
そんな二人の言い合いを聞いて呆れた結人は、溜め息交じりでみんなに向かって口を開く。
「言い争っていても仕方ないだろ。 そろそろ行こうぜ」





電車の中


その一言で、結黄賊のみんなは電車の中へと乗り込んだ。 横浜までは一時間半あれば余裕で着く距離だ。
―――藍梨は・・・あ、椎野のところか。
結人は彼女と隣同士で座ろうとしたのだが、近くで彼らの姿が目に入ると諦め、一人で椅子に腰をかける。
一番左端の席に座り、結人は仲間たちのことを見つめながら嬉しく思った。
―――またこのメンバーで、横浜に戻れるなんてな。
「ユイ」
そんなことを思っていると、目の前に夜月が現れ声をかけられる。
「おう」
「ちょっといいか? 伊達も呼んでくる」
そう言って、彼は伊達のもとまで足を進めていった。

―――伊達・・・つーことは、過去の話でもしてくれんのかな。

二人揃って戻ってくると、紀田の横に伊達、夜月の順で座る。 そして先に、夜月が口を開いた。
「二人は前に、俺に過去のことを聞いてきただろ? だからそれを、今から全て話そうと思って」
「ユイはともかく、俺も全部聞いていいのか?」
「構わないよ。 ・・・というより、伊達がいてくれた方が気が楽だから」
伊達の問いにそう答えると、今度は結人に向かって言葉を紡ぎ出す。
「それに・・・校外学習の時、琉樹さんに会ったろ。 横浜へ戻ったら、また琉樹さんに再会する可能性がある。 
 ・・・こんなことを言うと最低だと思われるかもしれないけど、俺は嬉しかったんだ。 俺のせいでユイは琉樹さんにいじめられていたっていうのに、あの時は俺を庇ってくれて。
 そのことに関しても、ユイに謝りたい。 ・・・今まで、謝っていなかったから」
「・・・」
結人はその言葉に、何も言えなくなって口を噤んだ。
「それに、今でもすげぇ怖いんだ。 また、琉樹さんに会うことが。 でもユイは、俺たちの過去に入り込もうとしているだろ?
 ・・・だから今、過去のことを全て話しておきたくて。 俺と琉樹さんの間で、何があったのか。 そして・・・どうして俺が、ユイを嫌っていたのか。
 すげぇくだらない理由だけど、ユイには全部知っておいてほしい。 ・・・今なら、全て話せる気がするから。 こんな時にまで、ユイを頼っちまってごめんな」
「いいぜ。 俺は構わないから。 じゃあ、話してくれるか?」
「あぁ。 えっと・・・」
夜月が早々口ごもると、結人は察して伊達に向かって尋ねかける。
「あ、じゃあ俺から話そうか。 伊達も、俺と夜月の出会いから知りたいだろ?」
「そうだな」
そして――――結人は過去のことを思い出しながら、言葉を綴り始めた。

「んー、そうだな・・・。 これは、俺たちが小学校1年生の時の話だ。 俺は小1の夏休みの後、静岡から横浜の小学校へ転校した。 その時の・・・話だ」


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