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校外学習と過去の因縁。
校外学習と過去の因縁⑬
しおりを挟むホテル前
御子紫から北野が倒れたという連絡を聞いた後、椎野と悠斗は班の女子に説明し、御子紫たちがいるホテルへと急いだ。
北野が倒れて心配なため、椎野は不安そうな面持ちでホテルへと向かうが――――目的地が見えてくるにつれ、その表情が険しいものへと変わっていく。
だがその変化は悠斗も同じで、不安そうなものから難しそうな表情を浮かべた。 そして――――椎野と悠斗は、ホテルの中へは入らずに入口前で立ち止まる。
「あれ、悠斗も来てくれたのか」
ホテルの前には御子紫が立っており、椎野だけを呼んだはずが悠斗というおまけも付いてきたことに、彼は苦笑しながらそう口を開いた。
「えっと・・・」
悠斗は今目の前にしている光景に何と言ったらいいのか分からず、困ったような表情を素直に見せる。
そんな悠斗の言葉を代弁するよう、椎野は険しい表情をしながら御子紫に向かって言葉を放った。
「御子紫。 これはどういうことだよ」
「・・・だって、こうでもしねぇと椎野来ないだろ」
その問いに対して、彼は気まずそうに視線をそらしながらそう答える。 そう、椎野と悠斗の目の前には――――北野が、平然としてその場に立っていたのだ。
倒れたと聞き急いでホテルへ駆け付けたというのに、その本人はどこも悪いところはないようで、寧ろ何事もなかったかのように突っ立っている。
そんな彼の違和感に気付いた椎野は、御子紫の一言で“俺をおびき寄せるために嘘をついたんだ”と確信した。
騙されたことに嫌な思いを抱き、目の前にいる彼らを睨み付け踵を返す。
「・・・悠斗、戻るぞ」
「待って!」
椎野が悠斗を連れて戻ろうとすると、背後から呼び止められ思わずその場に立ち止まった。 そしてその声の主である――――北野は、走って椎野のもとへと近付く。
「これ・・・」
それでも後ろへは振り向かずに立ったままでいると、彼は横から小さな袋を手渡してきた。 椎野はそれを数秒間見つめた後、無言で袋を受け取り中身を確認する。
「あ・・・。 これ・・・」
そこに入っていたのは、今回椎野と北野の喧嘩のキーワードとなった、例のストラップだった。
「今日、買ってきた」
その言葉を聞いた瞬間、椎野は勢いよく後ろへ振り返り北野に向かって言葉を放つ。
「どうして! あんなに遠いところまで」
「・・・椎野を、怒らせたから」
「ッ・・・」
「でも、御子紫も付いてきてくれたから大丈夫だったよ」
そう言って、彼は小さく笑ってみせた。 そんな光景を見て、御子紫も椎野たちに近付きながら嬉しそうに言葉を紡ぐ。
「ちなみにそのストラップ、北野と椎野と俺でお揃いだぜ」
「え?」
そう言われ、椎野は視線を北野と御子紫のズボンのポケットへと移した。 そこには携帯が入っており、確かにストラップが繋がれている。
「そのストラップ、俺たちにピッタリだな」
「悠斗も来るんだったら、悠斗の分も買ってきた方がよかったな」
悠斗が椎野に近付き手に持っているストラップを見てそう口にすると、御子紫は申し訳なさそうな表情でそう言ってきた。
だがそんな彼に、優しく笑いながら首を横に振る。
「いや、俺は大丈夫だよ。 3人の友情には流石に割り込めないからな。 気を遣ってくれてありがとう」
「ごめんな」
「ううん」
そして――――ここでいったん話が途切れると、北野は椎野のことを見ながらゆっくりと言葉を紡ぎ出した。
「今日、神社へ行った時・・・買う前に、もう一度落ちていないか探したんだ。 ・・・でも、見つからなかった。 なくしちゃって簡単に許してもらおうだなんて思っていない。
だけどどうしても、椎野にはこのストラップを持っていてほしくて」
「・・・どうして、そこまで」
どこか寂しそうな表情でそう尋ねると、彼は優しく微笑み返してくる。
「だってそのストラップ、椎野は凄く気に入っていたから。 その・・・怒らせちゃって、ごめんなさい」
「・・・」
その言葉を聞いた後、椎野は何も言わずに自分の携帯を取り出した。 そして――――そこに、ストラップの紐を通す。
「あ・・・」
その光景を見た北野は、思わずそう声を出し驚いた表情をした。 そんな彼に向かって、笑顔を見せる。
「わざわざ遠いところまで行って、買ってきてくれてありがとな。 ・・・俺も、北野のことを疑い過ぎた。 本当に、ごめんな」
「・・・うん、いいよ」
笑ってそう言ってくれた北野に、椎野は再び笑みを返した。
―――3人がいつも通りの関係に戻ってくれて、よかった。
~♪
悠斗がそんな3人の微笑ましい光景を見てそう思っていると、突然この場に鳴り響く悠斗の携帯電話。
「誰?」
御子紫がそう聞いてくると、携帯を取り出し相手を確認する。
「・・・あ、未来からだ」
「あぁ、そういや、どうして悠斗一人なんだ?」
他の班員が見当たらないことからまたもやそう尋ねられると、椎野が代わりに説明をしてくれた。 その間に、悠斗は電話に出る。
『もしもし、悠斗かー? 今先生と別れたところー。 説教は長くてうんざりだったけど、ケーキや飲み物も奢ってくれたからまぁよかったかなって感じ』
「そっか。 お疲れ様」
『おう。 ところで夜月は? 戻ってきたか?』
「あ・・・」
未来に夜月のことを尋ねられ、悠斗は琉樹のことを思い出した。 それと同時に、漠然とした不安に襲われる。
―――そうだ、このことを早く未来に伝えないと!
「未来、今どこにいる?」
『んー、とりあえずさっきまでいた店の前まで戻ろうかなーって、思っていたところなんだけど』
「じゃあそこに集合で! すぐ行くから!」
未来に向かってそう言い放ち、自ら電話を切った。
「何だって?」
「未来が今先生と別れたって。 未来と合流してくるよ」
御子紫の問いにそう答えると、椎野が悠斗に向かって口を開く。
「おう。 心配かけちまって悪いな」
「ううん、大丈夫だよ。 仲直りができて本当によかった。 じゃあ、また後で」
彼に優しい表情をしてそう返すと、急いで未来のもとまで走った。
集合場所前
悠斗が約束した場所まで行くと、未来は既に着いていて退屈そうに待っていた。
「未来!」
「どうしたんだよ、そんなに急いで」
珍しく慌てている悠斗を見て、笑いながらそう返してくる。 そんな未来に、真剣な表情で尋ねた。
「さっき夜月を連れていった男、憶えているか?」
「憶えているか、って・・・。 俺たちの知り合いだったのか?」
その言葉を聞いて、ゆっくりと頷く。 そして――――
「琉樹にぃだよ」
「なッ・・・」
“琉樹”という青年の名を口にすると、夜月と悠斗と同様――――未来も、同じ反応を示した。
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