307 / 365
御子柴のヤキモチ勉強会。
御子柴のヤキモチ勉強会㉑
しおりを挟む火曜日
テスト二日目。 昨日御子紫は、本当は勉強をやらずにそのまま寝ようとしたのだが、やはり成績のことで焦りを感じ結局は夜に勉強をした。
そのおかげか、テスト最終日の今日は何とか無事に全問解くことができ安心する。
―――間違っているかはともかく、全部埋められたから十分だろ。
少しの手応えを感じたまま、御子紫は二日間のテストを乗り越えることができた。 あとは結果を待つのみ。
今日も授業は午前中終わりで、テストが終え解散となった今、すぐさま教室を飛び出し隣の2組へと向かう。
「コウ!」
中へ足を踏み入れると同時に、彼の名を叫んだ。
「あ! また来たな、御子紫!」
御子紫の姿が目に入ると、すぐに優はそう口にしこちらまで駆け寄ってくる。
「何だよその言い方。 俺たちは仲間だろ?」
少し怒ったような口調でそう発した優に対し、行く手を阻まれた御子紫はその場に立ち止まり苦笑した。
「そうだけど! でも! 最近御子紫は、コウを一人占めし過ぎだ!」
そう言って、可愛らしく頬を膨らませる。 そんな優に対し、御子紫は目を細くして彼を見据え反撃した。
「優だって、毎晩コウを一人占めしているじゃないか」
「もぉー! それとこれとは別だ!」
「何だよ別って」
二人の言い合いには終わりが見えず、そんな彼らを見かねたコウが“やれやれ”といった感じで口を挟む。
「まぁまぁ、二人共。 で、御子紫はここへ来てどうしたんだ?」
自分の席に座りながら顔だけを御子紫の方へ向け、そう尋ねてきた。
その問いに目の前にいる優を避けるように身体を傾け、彼のことを見ながら言葉を返した。
「あ、折角テストが終わったし、一緒に帰ろうと思ってさ」
「あぁ、いいよ」
その答えにあまりにもあっさりと返事をしてしまうコウに、優は慌てて口を挟む。
「え、ちょ、コウ待ってよ! 今から俺と一緒に遊びに行くって、約束したばかりじゃん!」
「約束はしたけど、別に二人でとは言っていないだろ」
「・・・嘘つき」
「嘘なんてついていないよ」
その返事にふてくされた優は、突然とんでもないことを言い出した。
「じゃあ今からこのクラスの誰かに喧嘩を売って、コウに構ってもらうぞ!」
必死になってそう口にした彼に、コウは驚きもせず淡々とした口調で言葉を返す。
「ユイの許可なしでは人に手を出したら駄目だ」
「え、でもコウは昨日手を・・・」
「・・・」
「あ」
二人の会話を聞いていて御子紫は思わず口を滑らせてしまうと、コウはそれに気付き御子紫のことを鋭い目付きで睨んできた。
「俺が、何?」
だが――――睨んだのはほんの一瞬で、すぐ笑顔になってそう口を開く。
「いや・・・。 別に」
何事もなかったかのようにそう言い捨て、慌てて視線をそらした。
―――コウを怒らせると、怖いんだな・・・。
「え? 何?」
不自然な二人のやり取りを見ていた優は、困惑した表情で交互に見つめる。 だがそんな彼には構わず今もなお笑顔のまま、コウは御子紫に向かって口を開いた。
「御子紫、俺はいつも通りだよ。 どうしたんだよ、様子が変だぞ? もしかして、勉強のし過ぎで頭がやられたのか」
「ッ・・・」
―――コウは、黒いというか・・・何というか・・・。
「あはは・・・」
何も言い返すことができなくなった御子紫は、苦笑いをしてこの場を流す。 そしてまたもやその様子を見かねたコウは、続けて言葉を発した。
「というより、テストで分からなかったところを復習したいから、今日は遅くまで遊べないぞ」
優しい表情でそう口にした彼に、心から安心する。
―――・・・よかった。
―――いつも通りの、真面目なコウだ。
そんなコウを見て、御子紫が優しい表情になった――――その時。
「みーこーしーばぁー!」
「ん?」
―ドスッ。
突如背後から、訳も分からず蹴りを入れられる。
「いってぇ・・・。 おい椎野、危ねぇな!」
背中を蹴られたその衝撃で、御子紫は身の回りの机に思い切り身体をぶつけた。 その場に座りながら打ったところを優しくさすり、目の前にいる椎野に向かって怒鳴り付ける。
すると彼も当然、怒った口調で反抗してきた。
「御子柴こそ、どうして俺たちを迎えに来なかった! いつもみたいにずっと待っていたんだぞ!」
御子紫の目の前で仁王立ちをしながらそう言うと、彼の後ろからは北野がひょっこりと姿を現す。
「あぁ・・・。 悪い。 忘れていたよ」
椎野と北野とは、いつも一緒に放課後帰っている。
普段は帰りのホームルームが終わるとすぐに3組へ足を運ぶのだが、今回は忘れて2組に来てしまったため素直に謝罪の言葉を述べた。
「忘れていた、って・・・。 つか、俺たちのクラスじゃなくて2組にいるし」
少し怒ったような表情をしながら椎野がそう言うと、彼の後ろにいる北野が静かな声で口を挟む。
「御子紫は、優たちに何か用でもあったの?」
「いや、用っていうか・・・。 一緒に帰ろうと思ってな」
「だから、コウは俺のものだ!」
その問いに答えると、すぐさま優が口を挟んできた。
「一緒に帰るくらいいいだろう!」
「駄目だ駄目だ! 今からは俺たちだけの時間なんだ!」
「夜は一緒にいないから、今くらいいいじゃないか!」
「だから駄目ー!」
「・・・最近御子紫は、コウとよく一緒にいるよね」
二人の言い合いを見た北野は、椎野の後ろで小さくそう呟いた。 その言葉を聞いた椎野は、目の前でコウ争奪戦を繰り広げている二人を見て、優しく微笑む。
そして――――御子紫とコウは一度関係が崩れたものの、今はいつも通りの生活に戻りいつも通りの関係になった。 今のコウは昨日とはまるで違い、普段の彼に戻っている。
あの破天荒な姿は、もう一生見られないのかもしれない。 というより――――昨日は少し、驚いた。
あぁいう言動をするなんて“やっぱりコウは人間なんだな”と改めて思う。 だけど――――昨日の彼の一部始終を見たのは、御子紫だけ。 コウ自身もそう言っていた。
コウと誰よりも近くにいる優でさえ、知らない一面を見ることができた。 これは二人だけの秘密。 そのことが、御子紫は何よりも嬉しかった。
そしてこれからも御子紫は、コウは完璧な人間だと思い彼を敬い続けるだろう。 それにできれば、もう荒れている姿なんて見たくない。
だってまた荒れたりでもしたら、御子紫の理想であるコウの姿を――――壊してしまうことになるから。
だからそのために、御子紫はあまりストレスをかけないよう、自分の言動に注意しようと思った。
またあまりストレスを溜めないよう、彼のことをこまめに気にかけようと思った。 こうすることによって、少しでも楽になってくれるのなら。
いつもみたいに優しくて、自己犠牲をするコウに――――戻ってくれるのなら。
これは後から聞いた話だが、コウは昨日本当に勉強をしなかったらしい。 が――――全ての教科、コウが高得点を叩き出したのは言うまでもない。
御子紫もテストは平均並みを取れていて問題はなく、苦手な数学でも――――58点は取れていた。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
きらきらときどきゆらゆら
こえ
ライト文芸
約束された生活、約束された未来、約束された結婚……。明治から続く大企業の令嬢、月崎笙子は、それゆえの虚しさを感じる日々を送っていた。そんなある日、笙子は美しい少女、紫以菜(しいな)と出会う。大学生と小学生という奇妙な組み合わせだったが、二人は日常を共に過ごすようになり、繋がりは深くなってゆく。しかし、笙子には、考えると気が重いものがあった。志良山雄一という、許嫁の存在だ。笙子は彼との未来にある「違和感」をもっていた……。美少女を通じての、迷える大人女子の成長の物語。——わたくしは、わたくしであらねばならないのです。
都合のいい女は卒業です。
火野村志紀
恋愛
伯爵令嬢サラサは、王太子ライオットと婚約していた。
しかしライオットが神官の娘であるオフィーリアと恋に落ちたことで、事態は急転する。
治癒魔法の使い手で聖女と呼ばれるオフィーリアと、魔力を一切持たない『非保持者』のサラサ。
どちらが王家に必要とされているかは明白だった。
「すまない。オフィーリアに正妃の座を譲ってくれないだろうか」
だから、そう言われてもサラサは大人しく引き下がることにした。
しかし「君は側妃にでもなればいい」と言われた瞬間、何かがプツンと切れる音がした。
この男には今まで散々苦労をかけられてきたし、屈辱も味わってきた。
それでも必死に尽くしてきたのに、どうしてこんな仕打ちを受けなければならないのか。
だからサラサは満面の笑みを浮かべながら、はっきりと告げた。
「ご遠慮しますわ、ライオット殿下」
悪女の指南〜媚びるのをやめたら周囲の態度が変わりました
結城芙由奈
恋愛
【何故我慢しなければならないのかしら?】
20歳の子爵家令嬢オリビエは母親の死と引き換えに生まれてきた。そのため父からは疎まれ、実の兄から憎まれている。義母からは無視され、異母妹からは馬鹿にされる日々。頼みの綱である婚約者も冷たい態度を取り、異母妹と惹かれ合っている。オリビエは少しでも受け入れてもらえるように媚を売っていたそんなある日悪女として名高い侯爵令嬢とふとしたことで知りあう。交流を深めていくうちに侯爵令嬢から諭され、自分の置かれた環境に疑問を抱くようになる。そこでオリビエは媚びるのをやめることにした。するとに周囲の環境が変化しはじめ――
※他サイトでも投稿中
大学受注発注
古島コーヒー
ライト文芸
きっかけは「実は先輩と同じ大学に合格しました」という何気ないメッセージだった。高校時代の部活の憧れの先輩、藤代宗(ふじしろ そう)に挨拶のつもりでチャットメッセージを送り、うきうきした気持ちで大学デビューを待ち望んでいた宮中万一(みやなか かずひと)。しかし、入学しても憧れていたキャンパスライフはどこか地味で、おまけに憧れだった先輩は性格が急変していた……。普段であったら関わることない人々と、強制的に(?)出会わせられ、面倒なことに手助けを強いられる羽目になってしまう。一見地味に見えるが、割とすごいことに巻き込まれるおふざけ日常学園コメディ。
アルファポリス収益報告書 初心者の1ヶ月の収入 お小遣い稼ぎ(投稿インセンティブ)スコアの換金&アクセス数を増やす方法 表紙作成について
黒川蓮
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスさんで素人が投稿を始めて約2ヶ月。書いたらいくら稼げたか?24hポイントと獲得したスコアの換金方法について。アルファポリスを利用しようか迷っている方の参考になればと思い書いてみました。その後1ヶ月経過、実践してみてアクセスが増えたこと、やると増えそうなことの予想も書いています。ついでに、小説家になるためという話や表紙作成方法も書いてみましたm(__)m
短編集 ありふれた幸せ
たけむら
ライト文芸
何でもない人達の何でも無い瞬間。束にしてやっとぼんやり色が見える位の。
店や駅や街の中ですれ違い、それぞれのスピードで進んで行く。そういう、ありふれた人生について。
あちこちで書いていた物のまとめやら続きやらなんやらです。
桃と料理人 - 希望が丘駅前商店街 -
鏡野ゆう
ライト文芸
国会議員の重光幸太郎先生の地元にある希望が駅前商店街、通称【ゆうYOU ミラーじゅ希望ヶ丘】。
居酒屋とうてつの千堂嗣治が出会ったのは可愛い顔をしているくせに仕事中毒で女子力皆無の科捜研勤務の西脇桃香だった。
饕餮さんのところの【希望が丘駅前商店街 in 『居酒屋とうてつ』】に出てくる嗣治さんとのお話です。饕餮さんには許可を頂いています。
【本編完結】【番外小話】【小ネタ】
このお話は下記のお話とコラボさせていただいています(^^♪
・『希望が丘駅前商店街 in 『居酒屋とうてつ』とその周辺の人々 』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/274274583/188152339
・『希望が丘駅前商店街~透明人間の憂鬱~』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/427152271
・『希望が丘駅前商店街~黒猫のスキャット~』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/813152283
・『日々是好日、希望が丘駅前商店街-神神飯店エソ、オソオセヨ(にいらっしゃいませ)』https://www.alphapolis.co.jp/novel/177101198/505152232
・『希望が丘駅前商店街~看板娘は招き猫?喫茶トムトム元気に開店中~』
https://ncode.syosetu.com/n7423cb/
・『Blue Mallowへようこそ~希望が丘駅前商店街』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/582141697/878154104
・『希望が丘駅前商店街 ―姉さん。篠宮酒店は、今日も平常運転です。―』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/172101828/491152376
※小説家になろうでも公開中※
少年ドラッグ
トトヒ
ライト文芸
※ドラッグを題材にした物語ですが、完全にフィクションです! 危険ドラッグダメ絶対!
ネオ・ドラッグ条約により、ドラッグを使用し個体の性能を高めることを推奨されるようになった時代。
ドラッグビジネスが拡大し、欧米諸国と同様に日本もドラッグ大国となっていた。
千葉県に住んでいる高校二年生の八重藤薬人は、順風満帆な高校生活を送っていた。
薬人には母親と暮らしていた小学四年までの記憶が無いが、母親の弟である叔父との二人暮らしはそれなりに幸せだった。
しかし薬人の記憶がよみがえる時、平穏な日常は蝕まれる。
自身の過去と記憶の闇にあらがおうとした少年の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる