305 / 365
御子柴のヤキモチ勉強会。
御子柴のヤキモチ勉強会⑲
しおりを挟む「ッ、コウ・・・!」
その声に気付いた未来は、相手にやられながらもコウの方へ目をやり苦しそうに名を呼んだ。
「コウ、俺は何をしたら」
未来たちとの距離が近付き、御子紫はコウにそう尋ねる。
「御子紫は未来と悠斗を頼んだ。 俺は不良を相手にする」
「・・・分かった」
本当は体調不良であるコウに喧嘩をさせたくはないのだが、今の彼には何を言っても無駄だろうと思い、素直に言うことを受け入れた。
そしてたくさんの不良を掻き分け、未来たちのいる真ん中まで足を進める。
御子紫もそんなコウを見失わないよう必死に付いていき、二人の目の前で彼らを守るようその場に立った。
その行為により未来たちには手を出せなくなった不良たちを一通り見渡すと、コウは自分がやられる前に相手に向かって自ら飛びかかる。
「コウ・・・」
仲間が不良たちを無力化している間、少し離れたところでは優と北野がその喧嘩を静かに見据えていた。
優も当然コウには無理をさせたくないため止めに入ろうとするが、彼から“今は近付くな”という強いオーラを感じ取ったのか、その場から動けずにいる。
「二人共、大丈夫か?」
「あぁ・・・」
コウが不良たちを相手にし優たちも黙って見守る中、彼らを助けるよう言われた御子紫は未来たちの無事を確認した。
“体調が悪いのに喧嘩なんてしていいのか?”という複雑な表情を見せる未来と悠斗に、強めに問う。
「二人はどうしてコイツらなんかに負けていたんだ! この人数なら、ギリ勝てるはずだろ!」
1人5人を相手にしたら、少しでも勝つ希望は見えていた。 今コウが1人で10人を相手にしている方が心配をしないといけないが、御子紫はコウを信じ二人にそう尋ねる。
その問いに対して、未来は目の前で凄まじい喧嘩を繰り広げている彼らを釘づけとなったような目で見ながら、静かな口調で言葉を紡いでいった。
「俺たちよりも体格のいい男が、凄い力で押さえ付けてきて・・・。 そして身動きが取れなくなったら、一斉に襲いかかってきたんだ・・・」
御子紫の問いにはきちんと答えているが、未来の意識は集団の方へ向いたまま。
コウの喧嘩はとても見応えのあるもので、とても素早くとてもカッコ良く、同じ男である未来たちも彼に憧れ釘づけとなっている。
そして、コウが10人の不良を相手にして数分後――――彼は不良ら全員を、全て無力化した。
「・・・すげぇ」
今もなお、未来は興奮した目で彼らのことを見つめている。
だが――――コウが全員を無力化し終え、数秒間呼吸を整えると――――一気に未来たちのいる後ろへ振り返り、突如怒鳴り声を上げた。
「未来! 悠斗! 二人は何度言ったら分かるんだ!」
「・・・え」
今憧れていた人物が急に目の前で怒り出し、未来は夢の中から一瞬にして現実へと引き戻される。
「ユイの許可を貰わずに喧嘩はするなって、あれ程言ってあっただろ!」
「でも・・・止むを得ない場合はいいって」
滅多に感情的にならないコウを目の前にし、未来はおどおどとした口調で言葉を返した。 その発言に対し、コウも自分の思いを放していく。
「そうは言っても、二人は止むを得ない場合が多過ぎだ!」
「コウ・・・?」
またもや感情的になっているコウを見て、御子紫は心配そうな表情で彼を見つめた。
「わざわざ暴力を使わなくても、警察さえ呼べば解決できるだろ!」
そう言うと、未来も今の状況にやっと慣れたのか、当然のように反抗してくる。
「警察を呼んでいる時間が勿体ねぇ! その間に被害者が出たらどうすんだよ! だったら早く人を助けて、相手を無力化した方が絶対にいいじゃんか!」
「今コイツらを無力化できていなかっただろ!」
「ッ・・・」
その発言を聞いて返事に詰まってしまうと、コウは落ち着いた口調に戻し続けて言葉を放した。
「未来と悠斗は、今俺たちがここへ来ていなかったら確実に負けていた。 もし俺たちがここへ来なかったら、二人はどうしていたんだよ」
「・・・どうしたんだよ、コウ」
いつもとは違った仲間に戸惑いながらも未来はそう口にするが、コウの苛立ちは治まらない。
「とにかく未来は、人にすぐ手を出す癖を直せ。 “人を助けたい”っていう気持ちがあるだけで十分だ。 それに同じチームメイトなんだから、チームのルールはしっかりと守れ」
「・・・」
そう注意された未来は、不機嫌そうにコウから顔をそらした。 そんな彼を見据えた後、続けて悠斗に向かって口を開く。
「悠斗。 悠斗は未来を止めようとしなかったのか?」
「・・・ごめん」
「どうして止めようとしなかった!」
「・・・」
その問いに悠斗が小さな声で謝ると、コウはまたもや怒り出した。 だがその声を聞いて、そっぽを向いていた未来がこちらへ振り向き口を挟む。
「ちょ、待てよ。 確かに悠斗は俺が喧嘩するのを止めようとした。 だから悠斗は悪くねぇ」
「でも未来と一緒に手を出したのは事実なんだろ!」
「ッ・・・」
その返された言葉にも何も言えなくなった未来はコウを睨み付けると、また不機嫌そうにそっぽを向いた。 そしてコウは、視線を悠斗へ戻し自分の思いを綴り出す。
「悠斗。 悠斗は自分の意志をしっかりと持っているんだ。 その面については、俺だって尊敬している。 だから、もっと最後まで自分の意志を貫き通せ。
俺にはそういうことができないから、そこは俺の分まで頑張ってほしい。 ・・・未来が一番指示に従うのは、ユイではなくて悠斗なんだから」
「・・・」
その言葉を聞いて、悠斗はコウを見ながらしっかりと頷いた。 それを見たコウは、最後に二人に向かって自分の思いを吐き出す。
「それに、二人は俺たちに迷惑をかけ過ぎだ。 確かに俺もみんなには迷惑をかけているけど、もしかけるくらいなら俺みたいに全部自分一人で抱え込め。
それができないなら、俺たちに迷惑をかけるな。 ・・・二人が思っている以上に、俺たちは未来と悠斗のことを、心配しているんだから」
真剣な眼差しで、コウがそう思いを伝え終えると――――
「・・・ごめん。 分かったよ」
悠斗はその発言を素直に受け入れ、そう口にした。 彼からの返事を聞くと、コウは未来を見据え口を開く。
「未来は?」
「・・・ったく。 分かったよ」
どこか不機嫌そうな顔をして今もなおそっぽを向いているが、未来も渋々そう口にした。 彼からそのような返事が聞けて、コウは一瞬にして緊張が解ける。
「でも、本当によかったよ。 二人が、無事、で・・・」
「ッ、コウ!」
優しい表情でそう発言していると、緊張が突然解れたためか少しよろけて倒れそうになった。 そんなコウを、御子紫が慌てて支えに入る。
「大丈夫か?」
「うん、悪いな」
「コウ! どうして・・・そんな無茶を」
倒れそうになったところを見て、優は急いで近付いてきた。 そんな彼に向かって、コウは苦笑しながら言葉を返す。
「あぁ、確かに無茶をしちまったな。 でも、俺はスッキリしたよ」
「え・・・?」
不思議そうな表情で優が見つめていると、御子紫はコウに向かって口を開いた。
「コウ、病院へ戻るか?」
その言葉を聞いた彼は、軽く離れ自力でその場に立ち歩き始める。
「いや、病院には戻らない。 というより、これから出かけようか」
「え? 出かけるってどこへ」
コウは先程投げ捨てた自分のスクールバッグを拾い、御子紫の方へ振り返って笑顔になった。
「御子紫も、来るだろ?」
「ッ・・・。 も、もちろん! あ・・・でも、勉強は?」
「勉強はしねぇよ。 今はしたい気分じゃねぇし」
苦笑しながらそう答えると、この場から歩き出してしまった。 それ追いかけるよう、御子紫も慌てて彼の後ろを付いていく。
「え・・・。 ちょ、コウ待ってよ!」
「あ・・・」
優が二人の行動に驚きながらも呼び止めると、コウは何かを思い出したかのようにその場に足を止めた。
「・・・俺としたことが。 優のことを、忘れていたなんてな」
そう呟いて自虐的に笑うと、ポケットの中から家の鍵を取り出し、優に向かって放り投げる。 そんな突然な行動にも驚くが、彼はそれを見事にキャッチした。
そして優が鍵を手にしたことを確認すると、コウは彼に向かって笑いかけながら大きな声で言葉を発する。
「優! もし家にいてくれたら、俺は必ず優のもとへ戻るよ」
「え・・・?」
それでもなおも混乱している優をよそに、コウは再び身体を進行方向へ向け、御子紫に向かって口を開いた。
「じゃあ行こうか。 今から二人で、遊びに行こう」
そう言って――――コウは立川の街を、歩き出す。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
魔がさした? 私も魔をさしますのでよろしく。
ユユ
恋愛
幼い頃から築いてきた彼との関係は
愛だと思っていた。
何度も“好き”と言われ
次第に心を寄せるようになった。
だけど 彼の浮気を知ってしまった。
私の頭の中にあった愛の城は
完全に崩壊した。
彼の口にする“愛”は偽物だった。
* 作り話です
* 短編で終わらせたいです
* 暇つぶしにどうぞ
悪女の指南〜媚びるのをやめたら周囲の態度が変わりました
結城芙由奈
恋愛
【何故我慢しなければならないのかしら?】
20歳の子爵家令嬢オリビエは母親の死と引き換えに生まれてきた。そのため父からは疎まれ、実の兄から憎まれている。義母からは無視され、異母妹からは馬鹿にされる日々。頼みの綱である婚約者も冷たい態度を取り、異母妹と惹かれ合っている。オリビエは少しでも受け入れてもらえるように媚を売っていたそんなある日悪女として名高い侯爵令嬢とふとしたことで知りあう。交流を深めていくうちに侯爵令嬢から諭され、自分の置かれた環境に疑問を抱くようになる。そこでオリビエは媚びるのをやめることにした。するとに周囲の環境が変化しはじめ――
※他サイトでも投稿中
忘れてきたんだ、あの空に。
すみれ
ライト文芸
──失感性エモナール病。
発症した者は、徐々に感情を忘れ、無機質なロボット人間と化してしまう。唯一の治療法は、過酷な環境に身を投じ、精神的に強い刺激を受ける事。主に、戦場。ルイ・ラサートルは、病気の治療のため、今日も飛行機に乗り空戦へ向かうのだった。
小説家になろう、カクヨムにも掲載。
アルファポリス収益報告書 初心者の1ヶ月の収入 お小遣い稼ぎ(投稿インセンティブ)スコアの換金&アクセス数を増やす方法 表紙作成について
黒川蓮
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスさんで素人が投稿を始めて約2ヶ月。書いたらいくら稼げたか?24hポイントと獲得したスコアの換金方法について。アルファポリスを利用しようか迷っている方の参考になればと思い書いてみました。その後1ヶ月経過、実践してみてアクセスが増えたこと、やると増えそうなことの予想も書いています。ついでに、小説家になるためという話や表紙作成方法も書いてみましたm(__)m
【完結】学生時代に実った恋は、心に痛みを残した。
まりぃべる
ライト文芸
大学を卒業して、四月から就職した川村千鶴。大学で付き合っていた彼と、仲が良かったはずなのにいつの間にかすれ違い始めてしまう。
別々の会社勤めとなっても、お互い結婚すると思っていたはずなのに。
二人、新たな選択をするお話。
☆現実にも似たような言い回し、言葉などがあると思いますが、作者の世界観ですので、現実とは異なりますし関係ありません。
☆完結してますので、随時更新していきます。
君を愛することは無いと言うのならさっさと離婚して頂けますか
砂礫レキ
恋愛
十九歳のマリアンは、かなり年上だが美男子のフェリクスに一目惚れをした。
そして公爵である父に頼み伯爵の彼と去年結婚したのだ。
しかし彼は妻を愛することは無いと毎日宣言し、マリアンは泣きながら暮らしていた。
ある日転んだことが切っ掛けでマリアンは自分が二十五歳の日本人女性だった記憶を取り戻す。
そして三十歳になるフェリクスが今まで独身だったことも含め、彼を地雷男だと認識した。
「君を愛することはない」「いちいち言わなくて結構ですよ、それより離婚して頂けます?」
別人のように冷たくなった新妻にフェリクスは呆然とする。しかしこれは反撃の始まりに過ぎなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる