280 / 365
結人の誕生日とクリアリーブル事件2。
結人の誕生日とクリアリーブル事件2㊹
しおりを挟む結人は藍梨のいる隣に何も言わずに腰を下ろし、俯いたまま考える。 夜月がクリアリーブルへ入ってしまった今、これから先どうしようかと。
「ユイ・・・」
副リーダーである真宮は、他の仲間が結人の目の前で各々地べたに座っていく中、結人の隣に立ちリーダーの命令を待つ。
「真宮」
なおも顔を下にしたまま、彼を近くに来るよう呼び寄せた。
「怪我をしている奴らに、手当てをするよう命令してくれ」
今複雑な感情を持ち合わせているからか、大きな声が出せないため小声で言い渡す。 彼は素直に命令に従い、怪我をしている仲間に声をかけ始めた。
彼らが手当てをしている中、結人は一人考える。
―――夜月を、どうやって取り戻そう。
―――まだ俺から離れていくなんて決まってはいない。
―――でも、どうしたら・・・。
―――それにまだクリーブルに入っただけで、結黄賊を辞めたわけでは・・・ないんだよな。
そんなことを考えていると、手当てを終えた者たちは元いた場所へと戻り座っていく。 そして全員手当てを終え、みんなが集合したところで結人は顔を上げた。
今この場には、病院にいる悠斗と優、そしてクリアリーブルに入ってしまった夜月以外の仲間たちがいる。
そんな彼らの顔を一通り見渡した後、結人はその場に立ち上がり仲間の方へと足を進めた。 そして意を決し、彼らに向かって口を開く。
「夜月とは・・・昔、色々あって。 今詳しく話しても、時間の無駄だから話さない。 でもとりあえず、夜月は俺のことを偽善者だと思っている。 それは・・・本当のことだ」
結人はこの時、唯一この中で事情を知っている未来のことを直視できずにいた。 どんな顔をして彼のことを見たらいいのか、分からなかったからだ。
「俺と夜月は、出会った頃仲よくはなかった。 俺が偽善者っていうことが原因で、気まずい生活をずっと送っていた。 でも、今では一応解決して落ち着いたんだ。
それで俺は、夜月と仲よくなった。 だけど・・・また夜月は、過去のことを思い出しちまったのかもな」
「それって」
「あぁ、分かっている」
椎野が小さな声で口を挟むのに対し、結人もその言葉に更に上から被せた。
「これは・・・誰のせいでもない、俺のせいだ。 ・・・だから俺が、夜月のことは何とかする」
「「「・・・」」」
将軍のその発言に、ここにいる結黄賊らは皆一様に黙り込んだ。 そんな中、結人はこれからのことを考える。
―――でもまずは、夜月に会わないと駄目だよな・・・。
―――今更会っても、口を利いてくれないかもしれないけど。
~♪
そんな弱気なことを思っていると、突如鳴り響く結人の携帯電話。 結人は携帯を取り出し、電話相手を確認した刹那――――身体全体が凍り付いた。
携帯に表示された“八代夜月”という文字。 つい先程まで夜月と話さなければならないと思っていたが、いざ彼の名を見ると身動きが取れずにいた。
―――どうして、夜月から・・・。
―――ッ、まさか・・・結黄賊を辞めたいという話か・・・?
突然そのような嫌な予想が頭を過り、息を呑んでより電話に出ることができなくなる。
そんな結人を見かねたのか、いつの間にかリーダーのいる壇上に登っていた未来が手に持っている携帯を取り上げた。
「あ、おい!」
そして表示された名を見るや否や、彼は躊躇いもせずに電話に出る。
「おい夜月! お前今どこにいる!」
そう口にしてから数秒後、未来の表情が一瞬にして変わった。
「ッ、お前・・・夜月じゃないな? 夜月はどうした」
静かな口調で電話相手に尋ねる。 そんな彼の様子を、ここにいる結黄賊らは静かに見据えていた。
「リーダー? 俺はリーダーじゃねぇ。 ・・・あぁ。 分かった、待ってろ」
そう言うと一度未来は耳から携帯を遠ざけ、画面を見た。 そしてスピーカーモードに切り替え、結人の方へ携帯を差し出す。
だが結人はそれを手に取ることができず、黙って相手の言葉を待った。
「結黄賊のリーダーか? そこにいるんだろ?」
いきなり放たれた男の発言に思わず言葉を詰まらせるが、静かな口調で尋ねかける。
「俺に何の用だ?」
顔も見えない相手に強張った表情をしながら口にすると、電話越しから返事がきた。
「明日の13時。 俺たちはお前らの基地へ行く」
「は・・・?」
「今言った時間に、お前らはそこへ来い」
―ツー、ツー。
一方的に言葉を放たれた後、強制的に切られる電話。 そこで結人はやっと未来から携帯を受け取り、画面を見た。 再び夜月の名を見て、心が動き出す。
「・・・どうする?」
未来のその一言に、結人は覚悟を決めた。
―――こんなところで、俺がうじうじしていても仕方ねぇんだよな。
自分を嘲笑うように心の中でそう思った後、結人は仲間に向かって大きな声で言葉を発した。
「春馬たちは、今日先輩たちの家に泊めてもらえ」
後輩たちに命令を下した後、続けてみんなに言い渡す。
「明日13時、正彩公園に集合だ。 おそらく明日、夜月もあの公園に来るだろう。 だから・・・明日が、夜月を取り返すチャンスだ」
最後の言葉は仲間に向かってではなく、自分に向けた言葉でもあった。
「夜月は明日、俺たちに対して本気で攻めてくるのかもしれない。 だからお前ら、油断はすんなよ」
当然この言葉も、仲間ではなく自分に言い聞かせるように。 この時の結人は、夜月に対する恐怖心を通り越し――――焦りしか、感じていなかった。
本当は夜月に会いたくないと思いつつも、今は彼を取り戻すことしか頭にない。 夜月の気が変わってしまううちに、取り戻すことが第一だった。
だからこの時の結人は、いい戦略を考えず――――ただ今自分にできることを、やっていくしかなかったのだ。
―――夜月・・・待っていろよ。
―――お前は俺たちの仲間なんだ。
―――だから・・・夜月を、簡単に手放すわけにはいかねぇ!
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
夫は魅了されてしまったようです
杉本凪咲
恋愛
パーティー会場で唐突に叫ばれた離婚宣言。
どうやら私の夫は、華やかな男爵令嬢に魅了されてしまったらしい。
散々私を侮辱する二人に返したのは、淡々とした言葉。
本当に離婚でよろしいのですね?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる