心の交差。

ゆーり。

文字の大きさ
上 下
279 / 365
結人の誕生日とクリアリーブル事件2。

結人の誕生日とクリアリーブル事件2㊸

しおりを挟む



路上


ここでは、男女一組の影が夕日によって作られていた。 倉庫へと続く人気がない道路を、二人の影だけが動き進んでいく。
未来はこの気まずい空気を、持ち前の明るさで何とかしようとした。 
だがクリアリーブル事件はまだ終わっていなく不安が募るばかりのため、無理して明るく振る舞う気力すら今はない。 かつ、今隣にいるのは僅かに恋心を抱いている相手だ。
彼女の隣にはいつも結人がいるため、あまり二人きりになる機会はない。 だから今がたくさん話せるチャンスなのだが、未来の気持ちはあまり上がらなかった。

「怪我は・・・大丈夫か?」
頑張って選んで、頑張って発した最初の一言。 藍梨の顔を見ずに、小さく問いかけた。
「うん。 怪我はしていないし、大丈夫だよ」
それに対して丁寧に返してくれた彼女に、未来は言葉を続ける。
「清水って奴と、知り合いだったんだな」
「え?」
「ん?」
即座に聞き返され思わず彼女の方へ目をやり、互いに見つめ合ってから数秒後。
「あ・・・。 さっきの人?」
「・・・知らなかったのか?」
「うん、名前はね」
まさかの発言に、少し動揺を見せる。
「・・・悪い」
「大丈夫だよ。 あ、さっき貰った名刺、ちゃんと見ていなかった私が悪いね」
「・・・」
「前にあの人と出会ってから、気に入られちゃったみたいで。 今困っているんだ」
可愛らしい苦笑を見せる彼女に、瞬時に視線をそらした。
「そっか。 まぁ、アイツに連絡をする時は気を付けろよ」
「うん、大丈夫だよ」
「ユイを放っておいて、二人でどこかへ行くなよな」
「ありがとう」
未来の優しさに、藍梨は素直に頷き礼の言葉を述べる。 そんな彼女に、もう一度謝りの言葉を入れた。
「・・・歩くの、遅くて悪い」
「私は大丈夫だよ。 早くその怪我、治るといいね」
「あぁ、ありがとう」
歩くスピードが遅いという理由は怪我をしているためだと分かったのか、優しい表情で口にする。 そんな藍梨に微笑み返し、再び進む方向へ視線を戻す。

―――そういや・・・ユイは今日クリーブルに呼ばれた時、何を話していたんだろう。

突然そのようなことが頭を過り考えていると、いつの間にか倉庫に到着していた。 結人から預かった鍵を使い、扉を開ける。
「藍梨さんはソファーにでも座っていて」
「うん」
彼女がソファーへ足を進める中、未来はじっとしていることがもどかしく倉庫の中を歩き回っていた。 そんな時結黄賊の旗にふと目が留まり、しばらくそれを見据える。
何も思わず何も考えもえず、沈黙の中ずっと見続けていると――――突然、未来の携帯が鳴り響いた。 電話ではなくメールだ。 
相手は椎野からで『今倉庫の目の前にいる。 開けてくれ』という内容だった。 それを見るなり、結黄賊の旗に背を向け入口へ向かって歩き出す。 中から鍵を開け、扉を開いた。
「・・・早かったな」
「まぁ、空地へ行ったらクリーブルはもういなかったからな」
苦笑しながら椎野が返すと、空地から来た仲間たちは次々と倉庫の中へ入っていく。 だがここで、彼らに違和感を感じた。 
みんなからは活気が感じられなく、どこか重たい空気を醸し出している。 その変化に気付いた未来は、今丁度倉庫の中へ足を踏み入れたコウを呼び止めた。
「コウ! 何かあったのか?」
「え、っと・・・」
珍しくまごついている彼に、更に問いかける。
「教えてくれ」

「・・・夜月が、クリーブルに入ったんだ」

「は!? どうして!」
思いもよらなかった発言に、驚きを隠しきれず思わず大きな声を張り上げた。
「俺はその場にいなかったから、どうして夜月が入ったのかまでは分からない。 ・・・ごめんな」
申し訳なさそうな表情をして口にした後、未来を置いて倉庫の奥へと入っていく。 

突然放たれた言葉にしばらく考え込んでいると、次にクリアリーブル集会へ向かった結人たちが倉庫へと到着した。 
扉は椎野たちが来てから開いたままだったため、彼らは何も言わずに足を中へ踏み入れていく。 
扉の前でなおも立ち尽くしている未来は、彼らのことを迎え入れつつ仲間の様子を一人ずつ見ていった。 最初に入ってきた結人は当然暗く、ずっと俯いたまま。
顔を下げているため、どんなに距離が近くても表情までは窺えなかった。 そして彼らにも違和感を感じた未来は、またもや北野を呼び止める。 
一番事情を知っていそうな結人を呼び止めても、きっと何も答えてはくれないと思ったからだ。
「北野、何があった?」
「・・・」
彼は何も答えたくないのか、未来のことを一瞬見てすぐに目をそらし口を噤む。
「どうして夜月がクリーブルに入ったんだ?」
今は結人がいるため大きな声では言えず、小さな声でできる限り感情の込め言葉を放った。 その様子を見て心が動いたのか、北野はその答えを無理に絞り出す。

「夜月の中で・・・何があったのかは、分からないけど・・・。 ・・・ユイが、偽善者だからって」

「は・・・ッ! 偽善者・・・?」

ここでもまた、未来も過去の記憶が脳内に映し出された。 夜月、結人、未来、悠斗。 そして、もう一人の少年との思い出が――――脳裏に、蘇ってきた。
―――どうして・・・。
―――何なんだよ夜月、どうして今更そんなことを思うんだよ・・・ッ!
―――夜月は今、何を考えているんだ!
何も言えなくなっている未来を横目に、北野は無言で倉庫の中へと足を進めていく。 そして誰も入って来なくなったことを確認すると、静かに扉を閉めた。
だがここで、あることに気付く。

―――そういや・・・伊達たちは帰ったのか?
―――きっと伊達も、夜月がクリーブルに入ったっていうこと、知ってんだよな・・・。
―――だったら倉庫へ来る時『俺も話し合いに参加する』とか言って、付いてきそうだけど。
―――・・・説得でもしたのかな。

ふとそのようなことを思いつつも、未来も仲間たちの方へ足を進めた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

処理中です...