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結人の誕生日とクリアリーブル事件2。
結人の誕生日とクリアリーブル事件2㊶
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未来の手当てを終えた結人は、早速彼らに向かって口を開いた。
「よし、もう未来は大丈夫だな。 これからみんなにはそれぞれ向かってもらうところを言うから、よく聞いてくれ。 一度しか言わないぞ」
みんなが頷いたことを確認し、仲間である二人のことを見ながら命令を下す。
「みんなが同じところへ行くのは時間の無駄だ。 だから椎野と真宮は、俺たちが来るように指定された空地まで行ってくれ。 そこには御子紫とコウがいるはずだ」
「了解」
「もしそこで何か危ないことが起きていたら、真宮も協力してくれて構わないから」
「分かった」
二人からの了解を得た後、次はクリアリーブルである彼らに顔を向けた。
「伊達とダチ二人は、これから俺と一緒にクリーブル集会の広場へと向かってもらう。 いいな」
「「「分かった」」」
そしてポケットからあるモノを取り出し、それを残りの少年に手渡す。
「未来。 未来は藍梨を連れて、倉庫で待っていてくれ」
「は!? 何でだよ! 俺もどっちかへ行く!」
「そんな身体でよく言うよ」
「俺はまだ大丈夫だ!」
リーダーの命令を相変わらず聞こうとしない未来に、結人は彼のことを見据えながら静かに言葉を紡いだ。
「未来。 藍梨を守るのも、大切な役目だぞ」
「ッ・・・」
それでもなかなか受け取ろうとしない彼の手を掴み、無理矢理鍵を握らせる。
「後で倉庫にみんなを集合させる。 それまでそこで待っていてくれ」
それぞれに行く場所を伝えた後、時間も勿体ないためすぐにその場所へと向かった。
結人たちは特に会話することもなく、ひたすら足を動かし続けクリアリーブル集会へ向かう。
全力で走って数十分後、やっとの思いで広場へと着くが――――結人はある違和感に気付き、警戒し出した。
「おい! 思ったよりも、静かじゃねぇか・・・?」
「集会が始まった時は、すげぇ人がいてざわついていたけど・・・」
そんなことを話しながら、走るのを止めて身をかがめ、ゆっくりと近付いていく。 そしてここにいる結人らは、広場を見た瞬間皆同じことを思った。
―――人が・・・いない?
だが中を覗くにつれ、見覚えのある少年らが視界に入っていく。 そして彼らが仲間だと確信した途端、結人は思い切り走り出した。
「お前ら大丈夫か!」
「ッ、ユイ・・・」
突然な登場にもかかわらず、この場にいた結黄賊らは驚きもせずゆっくりと後ろへ振り返る。 伊達たちも、結人の後ろから付いてきていた。
そして伊達の友達たちは無事にまた集まることができ、互いに顔を見合わせ少し安堵している様子。 そんな中結人はここにいる仲間を見渡し、あることを彼らに尋ねた。
「あれ・・・。 夜月は?」
「「「・・・」」」
その問いに対し、結黄賊は一様に口を噤む。
「ここにいたみんなは・・・無事に避難したのか?」
「「「・・・」」」
何も答えない彼らに、周りを警戒しつつ見渡しながら尋ね続ける。
「ここにいたクリーブルは・・・どこへ」
「「「・・・」」」
そこで結人はやっと彼らの違和感に気付き、この場にいる結黄賊の中で唯一同い年である北野に向かって口を開いた。
「・・・北野。 何があったんだよ」
突然名を呼ばれた北野は、驚いて少しの間黙り込むが――――重たい口を無理矢理開き、小さな声で言葉を紡ぎ出す。
「夜月が・・・ここにいた人々から、これ以上被害が出ないよう・・・クリーブルの人と交渉して・・・」
「・・・?」
「夜月が・・・クリーブルに、入った」
「ッ・・・!」
―――どう、して・・・。
「それでさっき、クリーブルの人たちと一緒に・・・夜月はどこかへ・・・」
「おい待て! 夜月はクリーブル内での抗争を止めさせるために、自らクリーブルへ入るって言ったのかよ!?」
その問いに対し、北野は恐る恐る小さく頷いた。
「それ・・・マジかよ・・・」
伊達も、突然な出来事に思わず呟く。
―――さっきクリーブルが言っていた『今結黄賊を試させてもらっている』っていうのは、このことだったのか・・・?
―――どうして夜月は、そんな簡単にクリーブルなんかに・・・!
そして結人は、彼に向かって問いただす。
「北野。 どうして夜月はクリーブルに入った?」
「だから、それは・・・」
「夜月が簡単にクリーブルへ入るわけねぇだろ!」
「ッ・・・」
その一言に、少し反応を見せた。 それを見逃さなかった結人は、北野のもとへ近付き彼の肩を強く掴みながらもう一度尋ねかける。
「どうして夜月はクリーブルなんかに入ったんだ!」
「・・・」
「北野! 何か知ってんだろ!? 頼むから教えてくれ!」
肩を少し揺さぶりながら尋ねると、彼は黙っているのを諦めたのかその問いに対しての答えを静かに言い放した。
だがそれを聞いて、夜月と同様――――結人も心の中にある何かが、崩れ落ちるような感覚に陥った。
「それは・・・。 ユイが、偽善者だからって・・・」
「なッ・・・」
刹那――――結人は全身の力が抜けて北野の肩から手を放す。 そして俯き、今にでも崩れそうになる身体を何とか持ち堪えた。
―――夜月・・・どうして・・・。
過去から、様々な出来事が蘇ってくる。 今はこうして夜月と仲よくしているが、実際彼と出会った頃は仲がよくなかった。 というより、結人は夜月から嫌われていた。
その理由は“結人は偽善者だから”ということも――――よく理解していた。
―――どうして、今更・・・そんな・・・ッ!
「何を言ってんだよ! ユイは偽善者なんかじゃねぇぞ!」
「そんなことは俺だって分かっているさ!」
「それなのに夜月を止められなかったのかよ!」
「・・・」
何も言葉を発さなくなった結人をよそに、伊達と北野は言い合っている。
「夜月は今どこにいるんだ。 ・・・夜月に、電話をする」
「・・・」
「ちッ、繋がらねぇ!」
今この場で一番腹が立ち、夜月に対して怒っていたのは――――結人でもなく北野でもなく、伊達だった。
「俺、今からクリーブルのアジトへ行ってくる」
「それは駄目だ!」
「何でだよ!」
「そんなに怪我をした状態で勝てるわけがないだろ! というより、伊達は喧嘩なんてできないだろ!」
「じゃあどうしたらいいんだよ!」
伊達がクリアリーブルのアジトへ行くことに対し、北野は彼を止め続けた。 二人が珍しく感情的になっているのにもかかわらず、今でも結人は何も口を挟めないままでいる。
というより――――今この場で一番混乱しているのは、結人だった。 今の状況が上手く理解できなく、どう対処したらいいのか分からない。
そんな結人に今できることは、彼らの会話を聞き流し自問自答を繰り返すことだけだった。
―――夜月・・・どうして今更、そんなことを言うんだよ・・・。
―――夜月はもう・・・俺のところへは、戻ってこないのか?
結人には、怒りでもなく悔しさでもなく――――何とも言い現せられない複雑な感情だけが、心に残り続けていた。
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