心の交差。

ゆーり。

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結人の誕生日とクリアリーブル事件2。

結人の誕生日とクリアリーブル事件2㊴

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路地裏


結人、伊達、真宮、藍梨は伊達の案内により未来のいる場所へと走っていく。 近付くにつれ、伊達の友達らの姿が見えてきた。
「お前らはアイツらと一緒にいろ!」
「え?」
結人はそう言いながら、自分の後ろにいる藍梨の手を強く握った。
「でもユイ、一人でアイツに勝てるわけ」
「大丈夫。 俺は喧嘩はしない」
心配している真宮に、結人は安心させるよう優しく言葉を紡ぎ出す。 そして藍梨と共に、仲間である未来たちのもとへと駆け出した。


―――何だよ、コイツ・・・!
―――全然動きが読めねぇ!
椎野は今もなお、一人の男を相手にしている。 普段なら一発で無力化してもおかしくはないのだが、この彼だけは――――違った。
「うぅッ」
「未来!」
未来が蹴り飛ばされ、地面に叩き付けられる。 そんな彼を庇うよう、椎野は二人の間に立ちはだかった。
―――やべぇ・・・来る。
―――この場合、どっちへ避けたら・・・!
男は勢いよく押し寄せてくる。 右手を引きながら向かってきているため、普通ならその手で拳を突き出すのだが――――
―――清水の場合、どっちだ?
―――本当にこのまま右手でくるのか。
―――それとも、直前に左手へ替えるのか・・・?
今のこの状況に素早い判断ができなくなってしまった椎野は、避けることを諦め歯を食いしばり、目を瞑って攻撃を食らう態勢をとった。 だが、その瞬間――――

「止めろ!」

「ッ・・・?」
その一言により、この場の殺気が自然となくなっていく不思議な感覚に包まれる。 そんな中、椎野は恐る恐る目を開けると――――
「! ユイ!?」
目の前には――――先刻殴りかかろうとしてきた男が右手を突き出しながらそのままの態勢で静止しており、更にその横には――――結人と藍梨の姿があった。
―――どうして、こんなところにユイが・・・。
―――クリーブルのところへ行ったんじゃなかったのか?
―――それより、ここに藍梨さんがいたらよりヤバいんじゃ・・・。


結人は椎野に殴りかかろうとした男を制御すると共に、藍梨を自分の背中で隠すよう彼女の前に立った。 もちろん、手は繋いだまま。
こんな突然な登場にも関わらず、青年は藍梨の姿を見て一瞬にして優しい表情になる。
「何だよ。 藍梨ちゃんが自ら俺のところへ来てくれるとはな」
身体を捩じらせ結人の後ろにいる藍梨のことを覗き込みながら、口にする清水海翔。 そんな彼を睨み付けながら、結人は言葉を放った。
「もうコイツらには手を出すな!」
「あぁ」
「ッ・・・」
やられることを覚悟して放った一言だったが、相手はその発言にすんなりと頷く。 そんな彼に思わず言いよどんでしまうが、結人は落ち着いた口調で言葉を返した。
「どうして・・・そんなにあっさり」
「どうして? そりゃあ、好きな女の前では暴力は振るわないって決めているからな」
「・・・」
妙にまともな発言をする清水に少し違和感を覚えるが、違う話題を振ってみる。
「立川にいるなんて・・・珍しいっすね」
「今日は仕事でな」
「その仕事は、もう終わったんですか?」
「いや? ・・・まぁ、あと一時間後くらいかな」
清水は左腕に巻かれている高級そうな腕時計を見つめながら、そう呟いた。
―――あと一時間・・・。
―――そんなに時間を稼ぐのは、厳しいな。
―――俺と藍梨がここで去ったら、未来たちがまたやられる。
―――みんなで去っても、清水は俺たちを逃がさないだろう。
―――じゃあ、どうしたら・・・ッ!
そこで結人は、あることをひらめく。

―――・・・そうか。
―――コイツは藍梨に興味があるから、藍梨に関わっている奴らに手を出すんだよな。
―――なら今コイツが藍梨に告白をして、ここで振られたら・・・諦めてくれるのか?

突如そのような案をひらめいた結人は、何食わぬ顔をしながら清水に向かって言葉を発した。
「清水さんは、今藍梨に告白をしたら納得しますか?」
「は?」
「今すぐ藍梨にコクって下さい」
言うと同時に、藍梨を清水の前に軽く突き出した。 だが相手は――――少しの間黙り込んだ後、小さな声でこう呟く。
「・・・嫌だ」
「ッ、どうして!」
本当に嫌そうな顔をしながら口にした清水に、結人は思わず突っ込みを入れた。 その理由を、彼は当たり前のように言葉を綴り説明していく。
「だって今、藍梨ちゃんはお前と付き合ってんだろ? だったら俺が振られるのは確実だ。 
 それなのにどうして振られることが分かっていて、藍梨ちゃんにコクんなきゃならねぇんだよ」
「ッ・・・」
―――なら、どうしたら・・・!
今となって自分の考えは甘かったと気付き、何も言うことができなくなり口を噤む。 だが相手はもう一度腕時計へと目を移し、言葉を吐き捨てた。
「つか、仕事の前に寄るところがあるからそろそろ行くわ」
「え・・・?」
突然の出来事に呆気に取られている結人をよそに、清水は藍梨に向かって続けて物を言う。
「藍梨ちゃん、俺と連絡先を交換してくれるか?」
「は!? そんなのは駄目だ!」
「お前に聞いてんじゃねーよ」
その一言にすぐさま否定の言葉を述べるが、清水はそんな結人を睨み返し冷たく言い放った。 
この状況をどうしようかと考えていると、突然一人の少女が――――この会話に、口を挟む。

「結人。 別に・・・いいよ?」

「ちょ、藍梨!? 何を言ってんだよ!」

藍梨から思ってもみなかった一言が放たれるが、清水はそんな彼女を見て優しく微笑んだ。 そして、一枚の名刺を財布から取り出し手渡す。
「はいこれ。 いつでも連絡してな。 待っているからさ」
その名刺を彼女が受け取ったことを確認すると、清水は何事もなかったかのようにこの場から静かに立ち去った。 
あまりにもあっさりと去ったことに動揺するが、結人はあることを思い出し藍梨に向かって口を開く。
「ッ、藍梨! 本当に連絡すんなよ!?」
「でも、連絡しなかったら結人たちはまた怪我しちゃうんでしょ・・・?」
「それはッ・・・」
少しだけ怯えた目で見つめてくる彼女に、思わず言葉が詰まってしまう。

―――藍梨・・・頼むから、コウみたいにはならないでくれよ。

今藍梨を説得しても無駄だと思い、ここは諦め未来の手当てをすることにした。
「未来、どうしてアイツと喧嘩なんかしたんだ?」
「・・・」
「相手が誰だか知っていて喧嘩をしたのか?」
「いや、最初は知らなかった! でも話を聞いているうちに、アイツが誰だか分かってきて・・・」
「・・・そうか」
その言葉に、結人は何も言えなくなる。 それは――――結人も一度、相手が清水海翔だと分からずに手を出したことがあったからだ。
そんなことよりも今未来が無事なことに安心し、手当てを続ける。 そんな中、いつの間にか伊達と真宮、伊達の友達らが結人のところへ集まってきていた。
「あとは、他のみんなか。 みんなは・・・無事かな」
椎野は未来を手当てしている光景を見つめながら、小さな声で呟く。 そう――――まだクリアリーブル事件は終わっていない。 
未来の手当てをし終えて、残りの仲間のところへ行ってから。 そこからが、本当の戦いだった。


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