心の交差。

ゆーり。

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結人の誕生日とクリアリーブル事件2。

結人の誕生日とクリアリーブル事件2㊲

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路地裏


椎野は未来のところへと全力で走って行く。 少し怖い気持ちを持ち合わせていたが、今はそんなことで迷っている場合ではなかった。
―――清水って奴はどれだけ強いかは分からないけど、未来を助けるにはとりあえず行くしかねぇ!
目の前にいる未来は清水に殴られ、その勢いで吹き飛ばされる。 そんな光景を見た椎野は悔しくなって歯を食いしばり、相手に向かって鉄パイプを振り下ろした。
「ッ、おい! 止めろ! ・・・ッ、くそ!」
だが清水に軽々と避けられ、キツく睨み付ける。 そして仲間を庇うように、未来と男の間に立った。
「し・・・。 い、いや、お前、どうしてここが・・・」
「・・・」
突然の仲間の登場に驚いた未来は尋ねてくるが、椎野は何も答えようとしない。
―――コイツが・・・清水海翔?
―――喧嘩が強いとは聞いていたけど、こんなに細身で強い喧嘩なんてできるのか・・・?
「おい、どうしてここが分かった!」
「そんなこと今は関係ないだろ!」
未来の発言に構わず目の前の男に戦闘態勢をとっているが、相手はこちらのことを睨まずにただずっと見据え突っ立っているだけ。 そんな彼に違和感を覚える。

―――何だよ、俺には攻撃してこないのか?

「お前は・・・コイツが誰だか知っていて、ここへ来たのか?」
「あぁ」
「ならどうして!」
「未来一人だけやられているのを見て、放っておけるわけがないだろ!」
「だからどうしてここが分かったんだよ!」
二人のやり取りをしばらく黙って見ていた清水は、ようやく椎野に向かって口を開いた。
「お前も藍梨ちゃんの知り合いか?」
「え・・・。 藍梨?」
「違う、コイツは関係ない!」
「え?」
先刻から未来が椎野のことを“お前”や“コイツ”呼ばわりしているのは、清水に椎野の個人情報を知られないためでもある。
“藍梨”という名を聞いた椎野は少し反応を見せたが、未来がすぐさま口を挟んできた。 そんな彼にも、違和感を覚える。

―――どうして・・・そんなことを言うんだよ。

そして未来はゆっくりとその場に立ち上がった。 それを見て椎野は思わず声を上げる。
「未来止めろ! そんな身体じゃ」
「・・・来る」
「え?」
未来が呟いた途端、彼はまた清水からの攻撃を食らった。 
“どうして未来は今の攻撃を避けなかったんだ”という思いが一瞬過るが、違う思いを清水に向かってぶつけ出す。

「おい! どうして未来ばかりを攻撃するんだ! すんなら俺にしろよ!」

再び仲間を庇うように、地面に倒れ込んでいる未来の前に立って言い放つ。 そして清水は椎野のことを見下ろしながらこう口にした。
「もう一度聞く。 お前は色折の彼女・・・藍梨ちゃんの知り合いか?」
「それは・・・」
一瞬答えようとするが、背後から嫌な視線を感じた椎野はすぐさま後ろへ振り向いた。
「ッ・・・」
そこへ視線を移すと自分のことをキツく睨んでいる未来の姿が目に入り、思わず言葉が詰まってしまう。
―――何なんだよ、知り合いと言ったら何が起きるんだ。
―――でも・・・もし言ったら、清水の攻撃は俺に来て未来は助かるんだよな?
そう思った椎野は、怖さを捨て未来の意志も無視し――――清水に向かって、ハッキリとした口調で言葉を放つ。

「あぁ。 ユイの彼女・・・藍梨さんのことは、よく知っているよ」

どうしてこんなところで彼女の名が出てきたのか分からず、なおも困惑した状態で口にした瞬間――――清水は椎野に向かって、蹴りを入れた。
―――ッ、油断した!
椎野は攻撃を食らうがすぐに起き上がり、相手に向かって突進する。 そして鉄パイプを振り回したが避けられ、そのまま相手の攻撃を食らい軽く吹き飛ばされた。
「くはッ・・・!」
―――何なんだよ、コイツ・・・!
「・・・だから、言ったのに」
「え?」
自分の近くで横になっていた未来は、小さな声で呟いた。 そして続けて、言葉を綴っていく。

「コイツは自分が興味のある奴にしか手を出さねぇ。 だから・・・言うなって、言ったのに」

そして未来はもう一度椎野のことを睨み付け、その場にゆっくりと立ち上がりながら更に言葉を続けた。
「でも、こうなっちまったら仕方ねぇ。 椎野、本気でやれよ。 油断したら、死ぬかもしれねぇぞ!」
最後の言葉を言い放ちながら、未来は椎野の手から鉄パイプを奪い取りそのまま清水に向かって押し寄せた。
「ちょ・・・!」
自分の武器である鉄パイプを奪われたことに突っ込みを入れようとするが、自分よりもボロボロな姿の未来を見て突っ込む気力がなくなってしまう。
それでも負けじと、自分も素手で相手に食らい付くが――――椎野からの攻撃は全て避けられ、相手からの攻撃は全て食らってしまった。
―――ッ、無理だ!
―――コイツの動きは・・・予測不可能だ。


その頃、椎野たちの喧嘩を見ている者は伊達の友達二人以外にも――――もう一人いた。
「あの坊やも・・・結黄賊なのかしら」
やられている結黄賊の未来と椎野のことを陰でひっそりと見据えながら、小さく呟いたお姉さん。
「あの二人、顔も可愛くて性格も熱くて見込みがあると思っていたんだけどなぁ・・・」
そしてお姉さんは二人のことを睨み付けながら、普段よりも低いトーンで言葉を投げ出す。
「折角強い子に出会えたと思ったのに、清水海翔を相手にしたら勝てないなんて・・・とんだ期待外れ」
踵を返し、この場を去りながら最後の言葉を吐き捨てた。

「・・・だったらこのままいっそ、やられてくれたらいいのに」


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