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結人の誕生日とクリアリーブル事件2。
結人の誕生日とクリアリーブル事件2㊱
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「「「・・・」」」
クリアリーブルに『誰か一人でもクリーブルに入れば、奏多を解放してやる』と言われてから数十秒――――結黄賊は、誰も口を開こうとはしない。
奏多を見捨てるというわけではないが“クリアリーブルに入る”なんていう選択肢は、結黄賊にとって考えられないものだったのだ。
だからみんなの答えは一つしかなく、黙り続けているのだが――――
―――入るなんて、そんなことできるわけがないだろ。
―――でも、このままだと奏多が・・・!
―――ッ、どうしたらいいんだ!
―――他に手はないのか?
そこで御子紫は、隣にいるコウの方へ視線を移した。
―――コウが自己犠牲を、発揮する前には・・・ッ!
焦りを感じ始めると、クリアリーブルの方へ視線を向け直し尋ねかける。
「他に奏多が助かる方法はないのか!」
「・・・」
何も答えない相手に、更に問い詰める。
「前までは俺たち結黄賊を潰すとか言っていたじゃないか。 なのにどうして今更『クリーブルに入れ』だなんて言うんだ!」
「・・・」
なおも答えない彼らに、心の中で舌打ちをする御子紫。
―――何だよ、答えねぇのかよ。
「うぅッ」
そう思った瞬間男が少しだけ奏多の首を絞め、彼はその苦しさに思わず呻き声を上げる。
「奏多!」
その声に反応し咄嗟に後輩の名を呼んだ御子紫と同時に、隣にいる仲間がある一言を放った。
「俺がクリーブルに入る」
「ッ、は!? コウは駄目だ!」
そんな突然の発言にも驚く御子紫はすぐに否定の言葉を述べるが、コウも自分の意見を主張し出す。
「何を言ってんだよ、今は奏多の命が危ないんだぞ!」
「だからってコウが入る必要ねぇだろ!」
今にでもクリアリーブルの方へ足を進めそうな彼に、御子紫は行かせないよう一歩前へ出て行く手を阻んだ。
―――もう自己犠牲を発揮かよ!
―――一度こうなると、コウは聞かねぇんだから・・・ッ!
「いい、俺が行く」
「ッ・・・! ふざけんな!」
「・・・何だよ」
今はこんな言い合いをしている場合ではないと互いに分かっていながらも、自分の意見を曲げない御子紫とコウ。
―――コウは・・・優し過ぎるんだよ。
―――でもその優しさが・・・ちゃんとみんなには平等に配れていないって、コウは分かっているのか。
そして御子紫は、コウに向かってゆっくりと言葉を紡ぎ出した。
「もしコウがクリーブルに入ったら・・・優は、どうなるんだよ?」
「・・・優?」
ここで初めて出てきた彼の名に、コウは少し反応を見せる。
「あぁ。 優は今でも、コウの帰りを病院で待っているんだぞ!」
「ッ・・・」
「それなのに、コウがクリーブルに入ったと知ったら・・・優はどんな気持ちになると思う?」
「・・・」
最後に、御子紫は強めの口調で彼に向かって言葉を放った。
「コウは人のためにと思って自分を犠牲にしているんだろうけど、その人以外の気持ちを考えたことはあんのかよ!」
「ッ・・・!」
御子紫はこの言葉を放った後、一人後悔していた。 彼から自己犠牲を取ってしまうと、コウがコウでなくなるような気がして。
そして自分が結人と同じくらいに憧れ、尊敬しているコウに向かって、敬意を払わずにそんな強い口調で怒鳴ってしまったことに対して。
「それにもしコウがクリーブルに入って、俺たちの敵になったら・・・俺たちの、負けじゃんか」
「え?」
「・・・」
小さな声で呟いた最後の発言にコウは聞き返すが、御子紫は何も言わずに彼から視線を外しクリアリーブルの方へ向き直った。
コウを一応制御できた今、この状況を早く何とかしようと考え始める。
―――でも・・・待てよ?
―――コウがクリーブルに入ったら、俺たちは終わる・・・。
―――じゃあ、他の奴が入ったとしたら?
―――・・・そうだ。
―――俺がクリーブルに入ればいいのか。
―――口だけ『クリーブルに入ります』って言って、後から俺がクリーブルを裏切ればいい。
―――それだけのことじゃんか。
“我ながらにいい提案だ”と思った御子紫は、早速『俺がクリーブルに入る』と相手に向かって言おうとした瞬間――――
~♪
突如流れた、着信音。 どうやらその音は奏多を抑え付けている男の携帯から流れているらしい。 その着信に気付いた彼はポケットから携帯を取り出し、誰かと話し始めた。
男は相槌だけをひたすら繰り返し、そして――――
「ほらよ」
電話を切ると同時に、奏多を結黄賊に向かって突き出してきた。 奏多は突然解放されたことに驚いているが、結黄賊の後輩がすぐさま駆け寄り彼の無事を確認する。
「どう・・・して・・・」
混乱している御子紫が小さな声で呟くと、男は軽薄な口調で言葉を紡ぎ出した。 それも内容はとても大事なことなのに、この状況をあたかも楽しんでいるかのように。
「それがさぁー。 お前らのお友達が、クリーブルに入ったみたいなんだよねー」
「お友達・・・?」
「お友達、そう・・・。 夜月くんっていう子が、クリーブルに入ったって」
「! どうして、夜月が・・・ッ!」
男の口から夜月の名が出た刹那、御子紫の胸中がざわめき出す。
―――何だよ、それ・・・。
―――どうして、クリーブルなんかに夜月が・・・ッ!
その驚くような表情を見て、彼はニヤリと笑った。 そして御子紫が先程尋ねた答えを、奴はすらすらと口にしていく。
「確かに俺たちは結黄賊を潰そうとした。 だけど諦めたんだ。 お前らと喧嘩をしても、勝てないっていうことが分かったからな」
「・・・」
そして何も言えずにいる御子紫に向かって、男は大きな声で言葉を放った。
「だからぁ・・・結黄賊を潰せないなら、結黄賊を食っちまおうと考えたのさ!」
「食っちまう、って・・・」
―――つまり、乗っ取るって意味か?
「とりあえず、今日は一人でもクリーブルに入ってくれたのならそれでいい。 俺たちも最初から“一人でもこっちの味方につけさせる”っていうことが今日の目的だったからな。
だから今日はもうお前らに用はねぇ。 じゃあな」
誰も口を開かない結黄賊に、男は片手をひらひらと振ってこの場から去って行く。 そして背を向けながら、最後の言葉を呟いた。
「お前らも考えておけ。 ・・・また、誘いに来るからよ」
そして――――クリアリーブルの連中がこの場からいなくなってからも、ここにいる結黄賊たちは互いに言葉を交わすこともなくその場に立ち尽くしていた。
今抱いている感情をどうしたらいいのか分からず、ただその場に立っているだけ。 それだけしか、今の彼らにはできなかった。
みんなはきっと、同じことを思っている。 だがその感情を、どう仲間にぶつけたらいいのか分からなかったのだ。 当然――――御子紫も。
―――どうして、夜月が・・・クリーブルなんかに。
―――コウでも、我慢したっつーのに・・・!
―――コウでも、耐えたっつーのに!
御子紫はこの思いを口にできない代わりに、自分の拳を何度も自分の脚にぶつけ感情を表し出す。
―――夜月は・・・俺たちを裏切ったのか・・・?
―――それとも、俺と同じ考えで・・・後からクリーブルを裏切ようとしてんのか・・・?
―――分かんねぇ・・・。
―――くそッ、折角コウを止めることができたのに!
―――意味ねぇじゃねぇか・・・畜生ッ!!
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