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結人の誕生日とクリアリーブル事件2。
結人の誕生日とクリアリーブル事件2㉟
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結人が自分の手当てをしている間、伊達はこの場から少し離れ行き交う人々のことを見ながら椎野に電話していた。 話を終え走ってもとの場所へ戻ると、先に結人から口を開く。
「で、椎野は何だって?」
「二人が危ない!」
「は?」
冷静な口調で言葉を発した結人とは反対に、伊達は慌てた口調で言い放った。
「危ないって、二人の身に何があったんだ?」
「未来の喧嘩相手は、清水海翔だって」
「なッ・・・!」
彼の口から男の名を聞いた瞬間、結人は思わず手当てしている手を止める。 一瞬の間を置き、伊達のことを見上げて言葉を放った。
「おい、それは本当なのか!」
「あぁ」
「二人のいる場所は聞いたか?」
「聞いた」
「そうか・・・。 俺に場所を言われてもきっと分からないと思うから、案内は伊達に任せてもいいか?」
「分かった」
彼も今の状況に焦りを感じているのか、目を合わさずに必要以上なことは口にしてこない。 そんな中、結人は自分の手当ての最終段階に入る。
―――未来が、清水海翔と喧嘩・・・?
―――でも確か、アイツって興味がない奴には手を出さないって言っていた気が・・・。
そこで、嫌なことが頭を過る。
―――まさか、俺や藍梨の名前でもアイツの前で出したのか!?
―――今の俺の状態じゃまともに戦えやしねぇ。
―――いやそれ以前に、万全な状態で戦ってもきっとアイツに勝つのは難しい。
―――未来と椎野の二人がかりで攻めても、アイツにはきっと・・・!
―――くそッ、どうしたらいいんだ!
「ユイ・・・?」
自分の手当てをしながら厳しい表情をしている結人に、伊達は心配そうな面持ちで名を呟く。 そんな中、結人はあることを思い付いた。
―――アイツの喧嘩が止められないなら・・・藍梨を、使うか。
「ユイ!」
「ッ・・・。 あ、何?」
清水海翔をどうやって攻略しようかと考えていることに夢中で呼びかけに気付けず、伊達からの一言で現実の世界に戻される。
「ユイは清水海翔と戦うのか?」
「いや、戦わない。 ・・・戦ってもどうせ負ける」
「え、喧嘩したことあんの?」
「・・・」
結人はその問いに答えることができず、話の流れを変えようともう一度頼み事を入れた。
「喧嘩じゃ勝てないから、藍梨を使おうと思う。 今すぐ真宮に連絡してくれ。 そこに藍梨もいる。 ついでに俺にも聞こえるよう、スピーカーにしておいてくれ」
藍梨を使うことに伊達は反論の言葉を述べようとするが、彼は渋々自分の意志を捨て命令通りにした。
「あ、真宮か? 今どこにいる?」
『伊達? んー、今は普通に・・・』
「真宮! 今すぐ藍梨を連れて、俺の言うところまで来てくれ!」
『え?』
結人は二人の会話を遮り今自分がいる場所だけを伝え、真宮との電話を切った。
本当は自ら真宮のもとへ向かった方が早いのだが、体力を少しでも回復させるために彼らからここへ来るよう命令したのだ。
そして、電話してから数分後――――
「ユイ!」
その声に反応し、自分の手当てを終えた結人は真宮の方へ目を向けるが――――彼の姿を見て、思わず声を張り上げる。
「ッ、真宮! どうしたんだよ、その怪我・・・」
「あ、これは・・・」
彼の傷を見て少し複雑な気持ちになるが、結人は再び腰に巻いてある救急セットを手に取った。
「とりあえず、真宮の手当てを先にする。 ナイフで切られたところを見せろ」
「え、どうしてナイフだって」
「そんなもん、そんなに綺麗に切られていたら刃物以外に何があるんだよ」
彼の手当てをしながら、真宮と藍梨に向かって今の状況を説明し始める。
「この手当てが終わった後、俺たちは未来のところへ行く。 そこには椎野と伊達のダチもいるはずだ」
「未来?」
「二人は今、一人を相手に喧嘩をしているらしい。 喧嘩相手の名前は・・・清水海翔だ」
「清水、海翔って・・・」
その名を聞いた瞬間、結人と同様不安なそうな面持ちを見せる真宮。 そんな彼を見て、藍梨のことを見ながら優しく言葉を紡いだ。
「大丈夫。 藍梨を使うから」
「え?」
突然名を呼ばれた藍梨は、思わず聞き返す。 二人に向かって、なおも手当てを続けながら言葉を発した。
「とにかく、藍梨と真宮は俺に付いてこればいい」
そこで結人は、彼の傷を手当てしているとふとあることを思う。
―――そういや・・・真宮には結黄賊の行動は慎むよう、言ってあったよな。
―――じゃあ、どうして今こんなに傷だらけなんだ?
―――真宮は、俺の命令は絶対に聞くだろうし・・・。
さり気なく真宮の目を見ると、彼はどこか苦しそうな目をしていることに気付いた。
―――真宮は俺の命令を聞かなかったわけではない。
―――結黄賊としてじゃなく、自分のためにでも喧嘩したんだろうな。
少し俯いているそんな真宮に向かって、結人は小さな声で尋ねかける。
「真宮は・・・喧嘩には、勝ったのか?」
「・・・あぁ」
「・・・ならいい」
その返事を聞いて、結人は少し微笑み優しい口調で返した。 そして彼の手当てを終え、救急セットを再び腰に巻く。
二人と無事に合流できた結人は、ここにいる仲間のことを見渡し――――伊達に向かって、言葉を放った。
「時間がない。 伊達、案内を頼むぞ」
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