心の交差。

ゆーり。

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結人の誕生日とクリアリーブル事件2。

結人の誕生日とクリアリーブル事件2㉞

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クリアリーブル集会 広場


―――俺が、結黄賊だとバレてんのか・・・?
この状況を止めるには『お前がクリーブルに入れ』と言われた夜月は、今もなお壇上から見下ろしてくる男を見据えながらそう思う。
今クリアリーブル集会にいるというのに、お前はクリアリーブルではないと見破られ――――より、混乱の中へと陥った。
―――てより、クリーブルなんかに入るわけねぇだろ!
―――こんなところで話していても意味がない、俺もみんなのことを手伝うか。
夜月の意志は当然決まっており、クリアリーブルに入るかどうか迷っている時間は必要なかった。 
男と話していても無駄だと思った夜月は、後ろへ振り返り自ら人混みの中へと足を進めていく。
北野と同じく、喧嘩を仕掛けようとしている奴を見つけたらすぐさまそこへ駆け付け――――一般のクリアリーブルの人を助ける、という行為を繰り返していた。
そんな時、ふとある彼らの姿に目が留まる。
―――あ・・・後輩たち、来ていたのか。
―――やっていることが俺と同じっていうことは、北野に会えたのかな。
遠くで仲間の姿が見えると、彼らのおかげで少し気持ちを落ち着かせることができ再び自分のすべきことへ目を向けた。
―――人が多過ぎて、こんなんじゃキリがねぇ!
人を助けていると、突如近くから幼い女の子の叫び声が聞こえてきた。 それにすぐさま反応しその子のもとへ駆け付け、男を殴り手放させる。
「あの」
怪我をしてしまった女の子を安全な場所へ運ぼうとすると、近くから声をかけられる夜月。 
その方へ目を向けるとそこには若い男の人が立っており、今の状況からして“この子のお父さんだろう”と察し『こっちへ』と口にし安全な場所へ移るよう促した。
人混みから何とか抜け出した夜月は、近くにあるベンチに女の子を座らせる。
「大丈夫?」
彼女の目線に合わせその場にしゃがみ込みながら声をかけると、女の子は泣きながらもコクン、と小さく頷いた。 
一応親子の安全を確保した夜月は、携帯を取り出し北野に連絡する。
「・・・あ、もしもし北野か?」
『うん。 そっちは大丈夫?』
「俺は何とか。 というより、今怪我をした女の子を発見した。 すぐに来てほしい」
『分かった』
「場所は大きな時計がある真下のベンチだ。 女の子のお父さんも付いているから」
『了解、すぐに行く』
北野と連絡が取れた後、電話を切りお父さんの方へ身体を向け直した。
「今仲間を呼びました。 この子の手当てをしてくれるので、ここで待っていて下さい」
「あぁ、ありがとう」
「では、俺はこれで」
優しい表情で口にし、踵を返そうとしたその瞬間――――
「あの!」
「?」
またもや呼び止められ、お父さんの方へ振り返る。 そしてどこか複雑そうな表情をしながら、彼は小さな声で夜月に尋ねかけた。

「君は・・・クリーブルなのか?」

「ッ・・・」

その問いに思わず言葉が詰まってしまうが、お父さんから少し目をそらし小声で返事をする。
「いえ・・・。 違います」
「そうか・・・」
そして彼は、続けて言葉を発した。
「じゃあ・・・どうしてクリーブルでもない君が、娘を助けてくれたんだ?」
「それは・・・」
理由など――――言えなかった。 『俺は結黄賊で、クリーブル内での抗争を止めに来た』などと言っても――――誰が信じてくれるのだろうか。
本当のことを言いたくても、なかなか言い出せず悔しくなり拳を強く握り締めた。

「クリーブルは・・・こんなチームじゃなかったのにな。 みんなで集まって、楽しく騒いで・・・幅広い年代の人とも関わることができる。 
 そんな気楽でいられるチームだと、思っていたのにな」

「・・・」
夜月はこの場にいることが耐えられず、お父さんに向かって一言を呟いた。
「すいません、俺はここで失礼します」
軽く頭を下げ、その場から逃げるように離れ再び人混みの中へと入っていく。 だが夜月の心は――――先刻とは、少し違っていた。
―――何とかしてでも・・・この抗争を、止めないと。
そう決意した夜月は、視線を地面から前へと移す。 その瞬間――――クリーブルにやられている人がたくさん目に入り、言葉を失った。

「ッ・・・!」

―――クリーブルを潰す奴らが増えたのか!?
―――何なんだよ、マジでキリがねぇ!
―――このままだと、被害者が増えていくばかりじゃねぇか・・・!
この瞬間夜月は――――冷静な判断ができなくなり、正気を失ってしまった。 ついに、クリアリーブルに入ることを考えてしまったのだ。

今目の前で起きているこの抗争を止めるには、自分が犠牲になってクリアリーブルに入るしかない――――

―――コウ・・・。
―――もしコウが、今の俺の立場なら・・・クリーブルに、入るよな?
―――これ以上、被害者を出さないために・・・コウなら、入るよな。
こんな状態の時に“コウ”の名が出てきてしまったことに、自分は卑怯だと考える夜月。 そして“どうしてこの選択しか今の俺にはできないんだ”という怒りも覚える夜月。
そして――――“もしクリーブルに入ったとしても、どうせ後から裏切ればいい”という――――甘い考えを思い付いてしまう、夜月。
夜月はこの場から走り出し、先刻までいたこの集会を仕切っている男のもとへと向かった。 そして今もなお同じ場所いる者に向かって、壇上に手を付き大きな声で言葉を放つ。
「おい、今すぐ止めてくれ!」
「クリーブルに入るのかどうか、決まったのか?」
男は夜月のことを嘲笑うように見下ろしながら、そう口にした。 それを聞いて夜月は俯き――――か細い声で、自分の意志を伝える。

「頼む・・・。 これ以上、被害者を出すのは止めてくれ・・・! 俺が・・・クリーブルに、入るから・・・ッ!」

その言葉を聞いた瞬間男はニヤリと笑い、楽しそうに尋ねてきた。
「お前の名前は?」
夜月は、顔を上げ彼のことを見据える。 そして決意した表情で、その問いに答えた。

「俺の名は・・・夜月だ」


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