心の交差。

ゆーり。

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結人の誕生日とクリアリーブル事件2。

結人の誕生日とクリアリーブル事件2㉔

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クリアリーブルのアジト 個室


ここには一人の少年が閉じ込められている。 何もない場所に、ほんの少しの光だけがこの部屋に注ぎ込まれていた。 
ドアの向こうからは、男たちの下卑た声が聞こえてくる。 それらが耳に入ってくるたびに、少年は嫌気が差した。
―――伊達の奴・・・大丈夫かな。
―――誰かに見つかったって、言っていたけど・・・。
結人は床に座り壁にもたれながら、先刻まで伊達と繋がっていた携帯を不安そうな面持ちで見据える。
―――まぁ・・・大丈夫だよな。
―――伊達はクリーブルだし、もし捕まっちまったとしても『自分もクリーブルです』って言えば助かるだろうし。
―――まぁ、相手がクリーブルだったらの話だけどな。
彼のことを心配しつつも、他のメンバーのことも考え始めた。
―――そういや・・・未来は無事なのかな。
そう思い、駄目元で未来に電話をかける。

―プルルル、プルルル・・・。

一向に途切れる気配がない電話のコール音。 虚しく鳴り続ける携帯を片手に、結人は次第に不安が募っていった。
―――椎野の奴、未来に会えることができたのかな。
―――その前に、伊達のダチらが椎野を無事見つけられたのかが問題、か・・・。
結人はその場に立ち上がり、携帯をポケットの中へしまった。 そして今、自分がいるこの部屋を一周ゆっくりと歩き始める。 それと同時に、辺りを隅々まで見渡していった。

正方形に近いこの個室。 床も壁も全てコンクリートでできており、触るととてもひんやりしていた。 
そして自分の力だけでこの部屋から外に出る方法も考えたのだが、ここから抜け出すとしたら先程入ってきた時のドアを突破するしかない。
もしくは窓から逃げるという手もあったのだが、その案はすぐに頭から排除された。 それにはいくつかの理由がある。
窓はこの部屋に二つ付いているのだが、その両方共結人の身長よりもはるか上に存在していたから。 手を伸ばしてもジャンプしても届かないため、無理だと考える。
そもそも、窓から脱出するということは不可能だった。 その理由は、二つ共中からは逃げられないようになっていたからだ。
ガラスが大きくて身体が入る大きさだとしても、窓には鉄の棒が何本も固定されており、身体がその間を抜けるようなことはなかった。

―――ったく・・・どうしたらいいんだよ。
―――やっぱり伊達が無事にここへ辿り着くのを待ってから、正面突破するしかねぇのかな。
そう思いながら、ドアの方へ目をやった。 だが結人には、気になる点がいくつかある。 

―――それよりどうして・・・俺を拘束しなかったんだ?

結人をこの場から逃がさないためには、個室に閉じ込めるのと同時に拘束もするはずだ。 もっと言うならば、この部屋のドアには鍵もかかっていない。
つまりいつでも開けることができ、外にいる奴らを倒せば簡単に脱出できるというわけだ。 だがあんな多人数を相手にしたことはないため、そんなやすやすと行動に移せない。
だが結人は結黄賊の中でコウの次に喧嘩が強いので、多人数の喧嘩には自信がある方だった。 たとえ相手が――――今まで喧嘩をしてきたことのない、多人数だったとしても。
―――俺も、ナメられたもんだな。
強がりながら苦笑を浮かべる結人には、もう一つ気になっている点がある。 それは今こうして誰とでも連絡が取れてしまう、ということだった。
普通なら身柄を拘束しつつ持っている物も没収されてしまうと思っていたのだが、その携帯は何故か今結人の手元にある。
これならいつでも仲間を呼んでこのアジトを襲撃することができてしまうのだが――――それ程相手は、余裕だということなのだろうか。
―――あぁ・・・意味が分かんねぇ。
軽く溜め息をつき、壁に手を添えながら上にある窓を見上げた。 どうしたらここから抜け出せるのだろうと、結人は考える。 だが、その時――――

―ガチャ。

「ッ!」
急に背後からドアの開く音が聞こえ、瞬時にその方へ振り返る。
「お? 何をしようとしていたんだよ。 まぁ、どうせここからは出られないけどな」
「ッ・・・」
『ふっ』と鼻で笑いながらそう口にした男に対し、結人は相手をキツく睨み付けた。
「ところで、どっちにするか決まったか?」
「・・・」
『どっち』というのは、結黄賊を解散させるか、それとも結人が結黄賊を辞めてクリアリーブルに入るか、というものだ。

―――そんなもの『どっちも選べない』に決まってんだろ。

結人の意志は変わらなかった。 問われてから数十分経つが、それでも気持ちは変わらないため、そのことについて考えている時間が勿体なく別のことに思考を巡らせていた。
だが結人は、自分の意志を相手に伝えようとしない。 その代わり、あることを男に尋ねた。
「どうして、俺なんすか?」
「あ?」
「結黄賊で強い奴なら、他にもいるってのに」
その問いに対し、相手は淡々とした口調で答えを述べていく。
「そんなものは簡単さ。 お前、高校生だろ?」
「・・・だったら何なんすか?」
「結黄賊は俺たちと比べて人数は大分少ないが、年が近くて気難しい奴らをあそこまでまとめ上げるなんて・・・。 お前には、かなりの才能があると思ってな」
「はい?」
何を言っているのか理解できず、結人は難しそうな表情を浮かべた。
「お前は年の割にはリーダーの素質があると思ったんだ。 だからお前がクリーブルに入りゃあ、クリーブルというチームはより団結力が増して更にいいチームになると思ってな」
「・・・」
―――何を言ってんだ? 
―――コイツ。
一見結人にとって嬉しがるような言葉を並べているが、結人は逆に不審な思いを抱いていた。 そして続けて、相手は言葉を放つ。
「それに今、結黄賊を試させてもらっている」
「は・・・? おい・・・! 結黄賊に、何をしたんだよ!」
―――何だよ、それ。
その一言を聞き、結人は一瞬にして身体が硬直した。 思ってもみなかった一言に震える声で尋ねかけると、男はニヤリと笑って言い放つ。

「別に酷いことは何もしていないさ。 ただ・・・結黄賊の連中はどれだけ結黄賊のリーダー・・・色折結人に忠誠を誓っているのか、確かめてみたくてな」


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