260 / 365
結人の誕生日とクリアリーブル事件2。
結人の誕生日とクリアリーブル事件2㉔
しおりを挟むクリアリーブルのアジト 個室
ここには一人の少年が閉じ込められている。 何もない場所に、ほんの少しの光だけがこの部屋に注ぎ込まれていた。
ドアの向こうからは、男たちの下卑た声が聞こえてくる。 それらが耳に入ってくるたびに、少年は嫌気が差した。
―――伊達の奴・・・大丈夫かな。
―――誰かに見つかったって、言っていたけど・・・。
結人は床に座り壁にもたれながら、先刻まで伊達と繋がっていた携帯を不安そうな面持ちで見据える。
―――まぁ・・・大丈夫だよな。
―――伊達はクリーブルだし、もし捕まっちまったとしても『自分もクリーブルです』って言えば助かるだろうし。
―――まぁ、相手がクリーブルだったらの話だけどな。
彼のことを心配しつつも、他のメンバーのことも考え始めた。
―――そういや・・・未来は無事なのかな。
そう思い、駄目元で未来に電話をかける。
―プルルル、プルルル・・・。
一向に途切れる気配がない電話のコール音。 虚しく鳴り続ける携帯を片手に、結人は次第に不安が募っていった。
―――椎野の奴、未来に会えることができたのかな。
―――その前に、伊達のダチらが椎野を無事見つけられたのかが問題、か・・・。
結人はその場に立ち上がり、携帯をポケットの中へしまった。 そして今、自分がいるこの部屋を一周ゆっくりと歩き始める。 それと同時に、辺りを隅々まで見渡していった。
正方形に近いこの個室。 床も壁も全てコンクリートでできており、触るととてもひんやりしていた。
そして自分の力だけでこの部屋から外に出る方法も考えたのだが、ここから抜け出すとしたら先程入ってきた時のドアを突破するしかない。
もしくは窓から逃げるという手もあったのだが、その案はすぐに頭から排除された。 それにはいくつかの理由がある。
窓はこの部屋に二つ付いているのだが、その両方共結人の身長よりもはるか上に存在していたから。 手を伸ばしてもジャンプしても届かないため、無理だと考える。
そもそも、窓から脱出するということは不可能だった。 その理由は、二つ共中からは逃げられないようになっていたからだ。
ガラスが大きくて身体が入る大きさだとしても、窓には鉄の棒が何本も固定されており、身体がその間を抜けるようなことはなかった。
―――ったく・・・どうしたらいいんだよ。
―――やっぱり伊達が無事にここへ辿り着くのを待ってから、正面突破するしかねぇのかな。
そう思いながら、ドアの方へ目をやった。 だが結人には、気になる点がいくつかある。
―――それよりどうして・・・俺を拘束しなかったんだ?
結人をこの場から逃がさないためには、個室に閉じ込めるのと同時に拘束もするはずだ。 もっと言うならば、この部屋のドアには鍵もかかっていない。
つまりいつでも開けることができ、外にいる奴らを倒せば簡単に脱出できるというわけだ。 だがあんな多人数を相手にしたことはないため、そんなやすやすと行動に移せない。
だが結人は結黄賊の中でコウの次に喧嘩が強いので、多人数の喧嘩には自信がある方だった。 たとえ相手が――――今まで喧嘩をしてきたことのない、多人数だったとしても。
―――俺も、ナメられたもんだな。
強がりながら苦笑を浮かべる結人には、もう一つ気になっている点がある。 それは今こうして誰とでも連絡が取れてしまう、ということだった。
普通なら身柄を拘束しつつ持っている物も没収されてしまうと思っていたのだが、その携帯は何故か今結人の手元にある。
これならいつでも仲間を呼んでこのアジトを襲撃することができてしまうのだが――――それ程相手は、余裕だということなのだろうか。
―――あぁ・・・意味が分かんねぇ。
軽く溜め息をつき、壁に手を添えながら上にある窓を見上げた。 どうしたらここから抜け出せるのだろうと、結人は考える。 だが、その時――――
―ガチャ。
「ッ!」
急に背後からドアの開く音が聞こえ、瞬時にその方へ振り返る。
「お? 何をしようとしていたんだよ。 まぁ、どうせここからは出られないけどな」
「ッ・・・」
『ふっ』と鼻で笑いながらそう口にした男に対し、結人は相手をキツく睨み付けた。
「ところで、どっちにするか決まったか?」
「・・・」
『どっち』というのは、結黄賊を解散させるか、それとも結人が結黄賊を辞めてクリアリーブルに入るか、というものだ。
―――そんなもの『どっちも選べない』に決まってんだろ。
結人の意志は変わらなかった。 問われてから数十分経つが、それでも気持ちは変わらないため、そのことについて考えている時間が勿体なく別のことに思考を巡らせていた。
だが結人は、自分の意志を相手に伝えようとしない。 その代わり、あることを男に尋ねた。
「どうして、俺なんすか?」
「あ?」
「結黄賊で強い奴なら、他にもいるってのに」
その問いに対し、相手は淡々とした口調で答えを述べていく。
「そんなものは簡単さ。 お前、高校生だろ?」
「・・・だったら何なんすか?」
「結黄賊は俺たちと比べて人数は大分少ないが、年が近くて気難しい奴らをあそこまでまとめ上げるなんて・・・。 お前には、かなりの才能があると思ってな」
「はい?」
何を言っているのか理解できず、結人は難しそうな表情を浮かべた。
「お前は年の割にはリーダーの素質があると思ったんだ。 だからお前がクリーブルに入りゃあ、クリーブルというチームはより団結力が増して更にいいチームになると思ってな」
「・・・」
―――何を言ってんだ?
―――コイツ。
一見結人にとって嬉しがるような言葉を並べているが、結人は逆に不審な思いを抱いていた。 そして続けて、相手は言葉を放つ。
「それに今、結黄賊を試させてもらっている」
「は・・・? おい・・・! 結黄賊に、何をしたんだよ!」
―――何だよ、それ。
その一言を聞き、結人は一瞬にして身体が硬直した。 思ってもみなかった一言に震える声で尋ねかけると、男はニヤリと笑って言い放つ。
「別に酷いことは何もしていないさ。 ただ・・・結黄賊の連中はどれだけ結黄賊のリーダー・・・色折結人に忠誠を誓っているのか、確かめてみたくてな」
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる