心の交差。

ゆーり。

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結人の誕生日とクリアリーブル事件2。

結人の誕生日とクリアリーブル事件2⑦

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翌日 休み時間 沙楽学園1年4組


「どうしたどうしたー? 休み時間、わざわざ俺に絡みに来るなんて」
授業が終わり休み時間に入った瞬間、伊達は未来のいる方へ足を進めた。 
彼は今悠斗がいないからかクラスの男子たちと一緒に会話しており、そんな未来だけに向かって声をかけると笑いながら返してくる。
そう言うが、伊達から話しかけることは珍しいことではなかった。 
「そういや、昨日はユイがお前の家に泊まりに行ったんだろー? いいなぁ、羨ましいぜ」
「羨ましいって?」
伊達に気を遣うようクラスの男子たちからさり気なく離れながら、未来はそう言ってくる。 そして窓際まで行き背中を預けたところで、彼は続けて言葉を発した。
「伊達の豪邸に泊まるっていう羨ましさもあるけど、ユイと二人きりで寝るまで過ごせるなんて、最高じゃん」
「ユイと二人で過ごしたいのか?」
「ユイはああ見えて、俺たちからも結構人気なんだよ。 今じゃ藍梨さんがいるし遠慮して言えなくなったけど、去年なんかはユイ争奪戦みたいな感じでヤバかったぜ」
『ははッ』と、昔を懐かしむように笑う。 それに対し、伊達は素直な意見を述べた。
「だったら、未来からユイを誘えばいいじゃないか。 去年みたいに」
そう言うと、未来は苦笑しながら静かな口調で答えていった。
「そうしたいけど、簡単にはいかないんだ。 去年はユイの両親とも仲よくしてもらっていたから遠慮なんていらなかったけど、高校生になって一人暮らしをし始めたら・・・な。
 家の中にはユイと俺しかいなくなるわけだし、ある意味気まずいじゃんか。 それに、自分から誘っても気持ち悪いだけだし」
「そっか・・・」
少し寂しそうな表情を見せる彼だが、この重たい空気を自ら払い除けるよう明るめの口調で言葉を発した。
「あぁ、それで何だっけ? 何かの用で、俺に声をかけたんだろ?」
その言葉に、忘れていた用件のことを思い出す。
「あ・・・! そうだった! 未来、頼みたいことがあるんだ」
「頼みたいこと? 何だよ」
そして伊達は真剣な表情になり、早速本題を切り出した。
「喧嘩のやり方を、俺に教えてほしい」
「ッ・・・」
未来は“喧嘩”というワードを聞いた瞬間、すぐさま目をそらした。 そしてその状態のまま、落ち着いた口調で問いかけてくる。
「・・・それは、ユイにも頼んだのか?」
「頼んだ。 だけど・・・教えてはもらえなかった」

そう――――伊達は昨日、結人に喧嘩を教えてもらうよう直接頼み込んだのだが、結局は駄目だった。 結構粘ったのだが、断固として教えてくれなかった。
だから彼は諦め、未来に頼み込もうとしたのだが――――

「一般人を“こっち側”には巻き込みたくないから、駄目だ」
「こっち側・・・?」
「そうだ。 一度“こっち側”へ来てしまえば、もう元の生活には戻れなくなる」
「それはどういう・・・」
未来が力強く言葉を発していく中、理解ができずにいる伊達は恐る恐る詳細を求めた。 すると彼は真剣な面持ちのまま、淡々とした口調で答えていく。
「もしお前が喧嘩をしてしまえば、必ず相手に目を付けられる。 だからもう、今みたいな生活を送ることはできないんだ。 俺たちを見ていたら分かるだろ」
「・・・」
黙り込む伊達を見て、更に問いかけてきた。
「どうして今更、教えてほしいだなんて言うんだよ。 自分を守るためか? それとも、藍梨さんを守るため?」
「ッ・・・」
伊達は喧嘩を教えてほしいなどというのはただの興味でしかなかったため、特に理由はなかったのだが、言われてみれば少なからず未来の言っていることは当たっていた。
そして何も言えなくなっている伊達を目の前に、彼は更に追い打ちをかける。
「とにかく、ユイから“教えてもいい”という命令を言い渡されるまでは、俺からは教えることができない」

「でも・・・クリーブル事件の時は、命令を聞いていなかったじゃないか・・・」

「ッ・・・!」

痛いところを突かれた未来は一瞬言葉を詰まらせるも、負けじと伊達に食い付いてきた。
「だから俺はッ! ・・・伊達に、平穏な日常をこれからもずっと過ごしてほしいんだよ。 
 まぁ・・・クリーブル事件の時、俺からお前を少し巻き込んじまったことは、悪いと思っているけどさ・・・」


「どうしてそんなことを言うんだ?」
そして伊達は今――――コウの目の前にいる。 “未来にこれ以上頼み込んでも無駄だ”と思い、気持ちを切り替え喧嘩の強いコウのもとまで足を運んだ。
彼はクラスの女子と話しており一度引き返そうと思ったのだが、コウから伊達のことに気付いてくれ、女子に断って自分のところまで来てくれた。
そして結人と未来と同様、喧嘩を教えてもらうよう頼み込んだのだが――――
「自分のことは自分で守りたいから」
「それは護身術じゃ駄目なのかな・・・」
「駄目だ」
「・・・」
即答する伊達を見て、コウは一度口を噤む。 そして少しの間黙り込み、そっと口を開いて言葉を放した。
「分かっているとは思うけど、結論から言わせてもらうとそれは無理だ。 ユイから『教えてもいい』という命令を聞くまで、教えることはできない」
「・・・どうしてだよ」
静かな口調で尋ねると、彼は自分の意見を主張する。
「伊達は“こっち側”の世界へ来てはならない。 もし一歩でもこちらに足を踏み入れてしまうと、もう“そっち側”の世界には戻れなくなる。 
 だから、わざわざ自ら“こっち側”の世界へ来る必要なんてないんだ。 伊達のことは俺たちがちゃんと、守ってやるからさ」
先刻の未来と似たようなことを言われ――――伊達は、あることを問いかけた。
「さっきから、こっち側、こっち側って・・・。 一体“こっち側”って何なんだよ?」
「・・・分かっているくせに」
彼は小声で呟いた後、ハッキリとした口調で言葉を言い放った。

「“喧嘩”というものを知ってしまうことだよ」

そこで伊達は、コウに過去の話を切り出す。
「コウは・・・いつから、その世界に入り込んだんだ?」
その問いに対し、彼は苦笑しながらも答えを紡いでくれた。
「俺は一応、幼稚園の頃からだよ。 ・・・はは、酷いだろ? 優とは別で、幼稚園の頃から仲のいい奴がいたんだ。 でもソイツ・・・喧嘩っ早くてさ。
 少しカッとなるだけで、すぐ人に手を出しちまう奴で。 俺はいつもソイツと一緒にいたから、自然と喧嘩というものを知っちゃってな。 そん時に、俺は喧嘩が身に付いた。
 そして今でもそれを続けているから、慣れて強くなっちまった・・・。 だから伊達には、俺みたいな酷い人生を送ってほしくないんだ」
「・・・でも」
~♪
昨日と同じくタイミングの悪い時に鳴り出した携帯を、溜め息をついて少し苛立ちながらも手に取り――――内容を確認する。 さっきの音はメールだった。

―――クリーブル集会・・・?

そのメールはクリアリーブルから送られてきたもので、内容には『今週の土曜日、初のクリアリーブル集会を行う』と書かれていた。
その文の他に、集会場所と集合時間も書かれている。 
―――何だよ、今更・・・こんな時に。
携帯の画面を不審な目で見つめながら色々考えていると、目の前にいるコウは一言を言ってこの場から去ろうとした。
「あ、コウ! 話はまだ終わっていないぞ!」
「教えるのは無理って言ったの、聞こえなかったのか」
結人と未来と同様、コウの意志は断固として変わらない。 だが伊達も――――断固として、自分の意志を変えなかった。 携帯をポケットにしまい込み、コウの両肩を力強く掴む。
そして真剣な面持ちでハッキリとした口調で、彼の目を見ながら言葉を放した。

「俺が“そっち側”の世界へ入り込もうが、そんなことは俺の勝手だ。 放っておけ。 だから諦めないぞ。 ・・・喧嘩のやり方を、俺に教えてくれ」


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