心の交差。

ゆーり。

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結人の誕生日とクリアリーブル事件2。

結人の誕生日とクリアリーブル事件2②

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路上


「それで、ユイの身体はもう楽に動けるようにはなったのか?」
夜月の一言で結黄賊のみんなは悠斗の病室を後にし、自分たちの基地である公園へと足を進める中、隣にいた未来がさり気なく結人に尋ねる。
「まぁ、一応な。 普通の速度で歩けるようになったし、動いても身体の痛みはなくなった。 ただ、素早い動きだけはまだできないんだよな」
「ふーん、そうか。 なら後で、誰かに喧嘩の練習相手にでもなってもらえよ。 またいつどこで抗争が起きるのか、分からないんだからさ」
―――抗争・・・か。
「そうだな。 そうしておく」
未来との会話が終わり、結人は頭上を仰々しく見た。 そしてどこまでも続く広い空を見上げながら、これからのことを考える。
―――明日から学校か。
―――学校行かずに入院生活をするなんてつまらないと思っていたけど、実際明日から学校だと思うと何かテンションが低くなるなぁ・・・。

そんなことを考えながら歩いていると、あっという間に基地へ着いた。 公園へ目をやるといつもいないはずの人がたくさんいるため、彼らが後輩らだとすぐに気付く。
「先輩ー!」
一人の後輩が手を振ってくると、結人も彼らに手を振り返した。 みんなのもとへ着いて早々、再び仲間から祝われる。
「「「先輩、お誕生日おめでとうございます!」」」
半円を描くようにして結人を囲っている彼らに、笑顔で礼の言葉を述べた。 そしてしばらく談笑した後、後輩らから少し離れている二人のもとへ足を進める。
「藍梨、伊達。 二人も、来てくれてありがとな」
「おう。 ユイ、誕生日おめでとう。 それと、退院も無事にできてよかったな」
「結人! 退院できて本当によかった! また明日から、一緒に学校へ通えるんだよね」
大切な彼女である藍梨と、大切な友達である伊達と一緒にしばらく会話をし、楽しいひと時を過ごす。 そんな中、遠くにいた夜月が結人に向かって声を上げた。
「ユイー! そろそろ中へ入ろうぜ。 鍵、持っているよな?」
その一言で、皆は倉庫へと足を向かわせる。 結人を先頭にし、ポケットから鍵を取り出した。 そして挿し込み、重たい扉をゆっくり開けると――――

「・・・何だ、これ。 すげぇ・・・」

その瞬間結人の目の前には、大きくて立派な黄色い旗が現れた。 その表面には“結黄賊”という文字がカッコ良く、そして大きく刺繍されている。
その周りには、メンバーの一人一人の名前も、小さな文字で刺繍されてあった。 
その旗は結人がいつも座っているソファーの横に堂々と立っており、その迫力が結黄賊のリーダーという存在を大いに引き立てている。
愛情のこもった素晴らしい旗に魅了され黙り込んでいると、夜月が結人の隣に並びそっと口を開き説明をし始めた。
「これ、俺たちの手作りだぜ。 まぁ布は流石に買ったものだけどさ。 文字とか全部、後輩たちも含めて俺らが作った。 ・・・な? すげぇだろ」
自慢気に笑っている彼を空気だけで感じ取りながら、結人は今もなお旗に釘づけとなったまま今の思いを綴ろうとする。
「あぁ・・・すげぇ。 めちゃくちゃカッコ良い・・・! 何かマジ・・・ありがとな。 言葉にできねぇよ」
「はは。 別に無理して感想言わなくてもいいっての。 ・・・喜んで、くれたならさ」

この後はみんな自由行動となり、扉を閉めて各々倉庫の中で遊び始めた。 
サッカーをしたり、家から持ってきたボードゲームなどで遊びながら今の時間を楽しんでいる。 そんな中、結人は一人ソファーの方へと足を進めた。
だが座らず隣に置いてある旗の前に立ち、手を近付けそっと触れる。 布はとても分厚い生地で作られており、凄く丈夫だった。

―――これも・・・誕生日プレゼントか。
―――俺はいいダチに囲まれて、本当に恵まれてんだな。

しばらくは立ったまま、立派な旗をずっと見つめていた。 それから数十分経ち、今度はサッカーをしているコウたちのもとへ足を向かわせる。
「おー? ユイも入るか?」
その中にいる椎野に声をかけられると、苦笑しながら返事をした。
「悪い、今はいいや。 少しの間、コウを借りてもいいか?」
「コウ? あぁ、いいよ。 コウー! ユイが呼んでるぞ!」
代わりに呼んでくれ、その声に気付いたコウは結人のもとへとやって来た。 そして椎野は『それじゃ!』と言って、この場から離れて行く。
「どうしたんだ? ユイ」
早速話を切り出してくれたコウに、結人は両手の平を合わせあることをお願いした。
「コウ、頼む! 喧嘩の、練習相手になってくんね?」
「喧嘩? いいよ。 それじゃあ、鉄パイプでも持っておいで」
「いや、素手でいいよ」
「素手だと、今のユイの身体じゃ厳しいだろ」
コウに甘く見られながらも、渋々と言うことを聞き鉄パイプを取りに行った。 そしたがいに向き合う形を取り、鉄パイプを前へ突き出し構える。
「手加減はなしでいくぞ」
「あぁ、当たり前だ」
結人が最初に、攻撃を仕掛ける。 だが彼はあっさりと避けてしまい声を上げた。
「ユイ、動きが遅い!」
「ちッ、分かっている!」
そして何度も何度も攻撃をし続ける中――――結人は手を休めずに、口も同時に動かした。
「そういやッ! コウは優と一緒にッ、遊ぶんじゃないのかよッ!」
「遊ぶ?」
「今の、話ッ!」
結人は鉄パイプを振り続けているが、彼は軽々と避けてしまう。 それでも負けじと食らい付いてくる結人に対し、コウは厳しい表情を一切見せず淡々とした口調で返事をした。
「あぁ。 優は足がまだ治っていないから、一緒に交ざって人生ゲームでもしようと思ったんだけどッ・・・! 御子紫に、サッカーに誘われてさ」
「ふーん・・・。 そっか・・・ッ!」
そしてなおも鉄パイプを振り回しながら、他のことも尋ねてみる。
「優とはッ、最近どう何だよ? 入院していてッ、あまり話せなかっただろッ!」
「優とは・・・確かに最近、あまり話せていない」
少し寂しそうな表情をして口にしたコウに、結人は攻撃をしながら言葉を紡ぎ出す。
「でも、優は今日で退院したからッ・・・! また今日から、たくさん話せるだろッ」
「それは・・・どうかな。 優とあまり話せていないのも、優が入院する前からだし」
「え・・・。 それは、どうして?」
そして彼は、結人に向かって攻撃をしながら小さな声でその問いに答えた。
「最近休み時間とかッ、よく女子に話しかけられて優と話せる時間がないんだ」
「・・・ッ!」
「! うわ、危ねッ!」

―ドス。

「いったぁ・・・」
想像していた理由とは思っていた以上に違い、結人は戸惑ってコウの攻撃を避けるのを忘れ、彼の蹴りを少し食らってしまった。
コウも直前に“ユイは避けない”と気付いたのか、攻撃を止めるよう脳に命令を咄嗟に送ったのだが――――
「悪い、止めようとしたけどできなくて、当たっちまった・・・。 大丈夫? 立てるか?」
蹴りを食らい地面に向かって軽く吹き飛ばされた結人は、差し伸べてくれた手を優しく握り、その場にゆっくりと立ち上がる。
「あぁ悪い、大丈夫・・・。 つか、女子に話しかけられるって何?」
意味が分かっていながらも尋ねると、コウは苦笑しながら答えていった。
「最近よく、女子に話しかけられるようになってさ。 最初は一日に数回だったから大丈夫だったんだけど、次第に話しかけられる回数が増えていって・・・。
 でも優と関わる時間が減るから、一度断ったんだ。 だけどそしたら『あの子とは話して私とは話したくないの?』みたいなこと言われて、それから断りにくくなっちまって」
「あぁ・・・」
「『優も会話に交ざろうよ』って誘ったんだけど、優は気を遣って話に入ろうとしないしさ」
―――流石、コウ・・・。
―――モテる男は大変なんだな。
―――つかその理由も、自分を犠牲にして相手を優先させる・・・コウらしいわ。
「そうか・・・コウも、大変なんだな。 でも今、一緒に住んでいるんだろ? 優に寂しい思いをさせないよう、ちゃんと接してやれよ」
「あぁ、もちろん」
そして結人は、先刻コウに蹴られ未だに痛む腹部を優しくさすりながら、彼に気付かれないように小さく溜め息をついた。

―――やっぱり、コウには勝てないな。
―――コウが敵じゃなくて、本当によかった・・・。

先日の夜月、俊と同様――――結黄賊の中ではコウの次に、結人は強いのだが――――そんな結人でも、改めてそう思った。


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