心の交差。

ゆーり。

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文化祭とクリアリーブル事件。

文化祭とクリアリーブル事件⑦⑦

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話を聞いた直後、感情的になった未来は少年に向かっていきなり怒鳴り声を上げた。
「じゃあ藍梨さんのためだけに、今まで俺たちを犠牲にしてきたっていうかよ!」
問いに対し、真宮は僅かに怯えている身体を自分の意志だけで静めながら、震えている声で言葉を紡ぎ出す。

「俺は・・・クリーブルの奴らに目を付けられるから、みんなには動いてほしくなくて・・・! だからあれ程、動くなと言ったのに・・・ッ!」

「「「ッ・・・」」」

その言葉を聞き、言い返すことができなくなってしまった結黄賊たち。 そんな気まずい空気の中、真宮は今までの自分の思いを吐き出した。
「俺は、怖かったんだ・・・。 ユイが“もう目を覚まさないんじゃないか”と思うと、すげぇ怖かった・・・」

それは真宮が、結人を歩道橋の上から突き落す時のこと。 クリアリーブルの連中に結黄賊のリーダーを病院送りにするよう命令され、素直に従ってしまったのだ。
あの夜結人と二人で立川をパトロールする時がチャンスだと思い、突き落すことを実行した。 
その日の放課後、彼は櫻井と二人きりで劇の練習をしており、帰りが遅くなる時だった。 真宮も一緒に残るよう言われたが、作戦を実行するためにわざと断ったのだ。
そしてそれは成功し、結人は真宮によって病院に運ばれたのだが――――彼はすぐには目覚めない。 翌日には目を覚ますと思っていた。
だけど――――何日経っても、目覚めなかったのだ。 その時に真宮は、とてつもない恐怖に襲われた。 “自分が、本当にユイを死なせてしまったんじゃないか”と。
毎日結人の見舞いに行くが、なかなか目覚めてはくれなかった。 そんな恐怖や不安と同時に、未来たちは勝手に行動してしまうため“彼らを止めなきゃ”という焦りもあった。
そんな苦しい心境の中、ずっと真宮は自分と闘い苦しい日々を過ごしていたのだ。 

そして更に――――真宮は、自分の気持ちを仲間に向かって吐き出す。
「でも・・・“責められたらどうしよう”っていう気持ちもあったんだ・・・。 ユイが目覚めたら、俺を責めるんじゃないかって・・・。
 それは、副リーダーとしてみんなをちゃんとまとめられなかったから、というわけじゃなく・・・。
 俺が、ユイを突き落したっていう事実を・・・ユイに問い詰められるんじゃないかと思ったら・・・すげぇ、怖かった・・・」
その発言を聞いた瞬間、未来は何かをひらめいたかのように突然結人に向かって声を張り上げた。

「ッ! それって、ユイは自分が真宮にやられたっていうことを最初から知っていたのか!?」

「・・・」
だが結人は何も答えず、目をそらし沈黙を守り続ける。 

だが実際、結人には見られていた。 彼は突き落された瞬間、少しだけ背中を押した犯人の方へ顔を向けていたのだ。
そしてほんの一瞬だが、その時真宮は結人と目が合ったような気がした。 刹那、凄まじい恐怖に包まれる。 
自分が突き落したところを本人に見られてしまい、もうどうしようもなくなってしまったという絶望感。 
最初は結人のことを心から心配し“一秒でも早く目覚めてくれ”と願っていたのだが――――次第に“目覚めないでくれ”と思うようになってしまった。
そんな自分の思いと常に葛藤していると、突然椎野からの連絡で結人が目覚めたと知る。 だがこの時の真宮は、素直に喜ぶことができなかった。
もう既に真宮の心は“副リーダーとしての役目をちゃんと果たせなかった、どうしよう”というよりも
“ユイに責められるんじゃないか、どうしよう”という気持ちに完全に成り果てていたからだ。 
だが実際結人の病室へ足を運んでみると彼は真宮を疑うような発言は一切せず、それが逆に真宮に懸念を抱かせていた。
文化祭が近付くにつれ、少しずつ余裕が生まれ精神的にも楽になったのだが――――行事が終わった翌日、結人に呼び止められる。
その時に、今までの苦しくて複雑な気持ちが一気に吹き飛んだ。 それはいい意味でなく――――悪い意味で。 彼はやはり、見ていたのだ。
真宮が結人を突き落したという、事実を。 それを彼が口にした途端、今までの漠然とした不安が全て打ち消された。 もうそのような思いをする必要がなかったからだ。
だけどそれが――――真宮の心を、更に苦しめることになったのだが。 だから今まで、とても苦しい思いをしながらこの場を耐えていた。
こんな思いを抱え込んでいるというのに仲間に責められては、もう自分の居場所などはないと思っていた。 だがそれは――――仕方のないことだけれど。

「質問質問! 本当に、俺たちをやったのは真宮なのか?」
この重たい空気がこれ以上続かないよう、少し明るめな声で椎野は尋ねる。 その問いに対し、真宮は詳しい説明を交えながら答えていった。
「・・・あぁ、そうだよ。 椎野、ユイ、悠斗をやったのは俺だ。 でもお前らには重症な怪我を負わせたくなかったから、わざと危ないところを避けて攻撃した。
 それと・・・椎野と悠斗は俺が攻撃する前に気が付いて、少し避けてくれたから・・・より重症にならなくて済んだんだ」
すると椎野は、過去の出来事を思い出しながら陽気な程に大きな声で言葉を返す。
「あー、なるほど! だからあの時“俺を攻撃した奴下手だったなー”って思ったのか! なるほどなー、納得したぜ」
彼が満足そうにニコニコと笑っているのをよそに、未来が真宮に向かって口を開いた。
「お前は、クリーブルに協力していたんだろ。 じゃああの時、どうして伊達の仲間を助けたんだよ。 伊達の仲間を捕まえていた奴、アイツもクリーブルなんだろ?」

そう――――それは、未来がクリアリーブル事件の情報を集めようと、伊達と彼の友達に協力してくれるよう頼んだ時のことだ。
事件に関わっている人を捜し出そうと、色々動いていたのだが――――その時、タイミング悪くクリアリーブル事件を起こしている者に出会ってしまった。
この時未来は“流石に伊達たちを喧嘩に巻き込みたくない”と思い、その場から逃げたのだが――――伊達の仲間が、一人捕まってしまう。
その絶体絶命な状況の時、真宮が男を攻撃し彼を助けてくれたのだ。 

この時は普通に、真宮は自分の味方だと当然思っていたため疑うようなことは一切しなかった。 だけど今までの話を聞いて違和感を感じた未来は、今直接彼に問う。 
その問いに対しても、丁寧に答えていった。
「確かにアイツは、クリーブルだよ。 アジトにもいた。 だけど・・・捕まえられていたのは、伊達のダチなんだろ。 
 伊達にはこっち側の世界に入り込んでほしくなかった。 だから、どうしても止めたくて・・・その時はクリーブルを裏切って、ソイツを助けた。 それだけだ」
答えを聞いてすぐに、未来はもう一つの違和感を真宮にぶつける。
「そうか。 ならもう一つ聞きたいことがある。 俺は悠斗がやられた直後、その犯人を追いかけてソイツの顔を直接この目で見た。 ・・・最終的には、気絶させちまったけど。
 でもその時俺が見た男の顔は、真宮ではなかった。 それでも、悠斗をやったのは真宮だと言うのか?」

それは未来、悠斗、夜月の3人で立川をパトロールしていた時のこと。 結人がやられ居ても立っても居られなくなった3人は、真宮の指示を無視し夜の街へと足を踏み入れた。
その時に悠斗が被害者となり――――未来は彼を夜月に任せ、犯人を追いかけ――――ソイツを、追い詰めることができた。 だけどその相手は、真宮ではなかった。

その質問に対しても、真宮は本当の出来事を素直に口にしていく。
「あぁ・・・。 あの時、未来は一瞬犯人を見失っただろ?」
「・・・見失ったな」
「俺は悠斗を攻撃して、すぐにその場から離れた。 そして予め組んでいたクリーブルの人と、入れ違いになってもらったんだ。
 見失ったけどすぐにまた、男は未来たちの目の前に現れただろ? ・・・あまり俺がやっているところを結黄賊に見られたくないって言ったら、快く協力してくれたんだ」
「・・・」
未来はそれを聞いて納得したのか分からないが、目をそらしたまま俯き出した。 そんな彼を横目に、次は御子紫が口を開く。
「・・・椎野や悠斗は分かるけど、ユイはやり過ぎじゃねぇか? だって、5日間も目を覚まさなかったんだぜ? 
 軽く済ませたいって思っていたなら、ユイにも軽症で済ませるだろ・・・普通」
その問いに対しても、事実を述べていく。
「それは・・・クリーブルの奴らに、言われたんだ。 結黄賊のリーダーをやる時は、他の人よりも派手にやれって。 軽傷では、済ませんなって・・・」
答えると、反論をしたかったここにいる彼らは“それを拒んだら藍梨さんの名を出されて脅されたのか”と自然にその答えに辿り着き、言い返す者はいなかった。
そんな中、優が大きめな声で口を開く。
「じゃあやっぱり、俺をやったのは真宮じゃなかったんだね!」
「あぁ。 優をやったのは俺じゃない。 ・・・それだけは、信じてくれ。 つっても・・・信じては、くれないか」
「俺は信じるよ!」
「・・・ありがとう」
自虐的になっている真宮を、優はすかさずフォローした。 ここで“どうして優は知らない奴から被害を受けたのか”という事実も話したかったが、あえて話さないようにした。
ここで言ってしまうと未来と悠斗が責められてしまうし、何といっても言い訳にしかならないと思ったからだ。

そして――――みんなはもう真宮に尋ねることがなくなったのか、一斉に黙り込みこの重たい空気の中何とかやり過ごす。
だが、この空気を自ら追い払うように――――一人の少年が、真宮に向かってそっと口を開いた。

「どうして・・・こんなことをした?」

もちろんその声の主は未来であり、ここにいるみんなも彼は何かを口にすると心構えていた。 だから誰一人その発言には驚きも見せず、真宮も口を開きすぐ答えていく。
「お前らだって・・・お前らだって、俺の立場に立ったら藍梨さんを守るために同じことをしただろ!」
「他にも手段はあったはずだ!」
「なかったんだよ! なかったんだ・・・。 他に手段があるとするなら、結黄賊を素直に解散させるしかなかった。 そんなこと・・・できるわけ、ねぇだろ・・・」
「どうしてそのことを俺たちに相談しなかった? もちろん結黄賊は解散させねぇ。 だから俺たちに相談したら、それ以外にもやり方はあったかもしれないだろ!」
そして真宮は、静かな口調で仲間に向かって言葉を放った。
「じゃあ・・・藍梨さんを見捨てるか、結黄賊を解散させる。 お前らだったら、どっちを取ったんだよ」
「「「・・・」」」

「藍梨さんを守りたいから結黄賊を解散させるって言いたいところだけど、本当はどちらも選べないだろ!」

「「「ッ・・・」」」
鋭い問いに対し、ここにいる結黄賊たちは皆一様に黙り込んだ。


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