心の交差。

ゆーり。

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文化祭とクリアリーブル事件。

文化祭とクリアリーブル事件⑥⑨

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―――なッ・・・どうして・・・!

その頃結人は――――今目の前で起こっている信じたくもない出来事を見て、その場に固まりなおも立ち尽くし続けていた。
「悠・・・斗・・・?」
震える声をハッキリと出しつつ、正面にいる彼の名を呼ぶ。 この想像もしていなかった自体を見て、唖然としているのは結人だけではない。 真宮も――――同じだった。 
目の前で苦しそうな表情をしてこの場を必死に耐えている悠斗を見て、酷く恐ろしい顔をして絶句している。
結人が今、目にしているものは――――真宮が握っていたナイフが、悠斗の背中に突き刺さっている光景だった。
悠斗は結人の方を向いておらず、背中を向けているのだが――――
「悠斗・・・。 どうして・・・」
声にもならないような悲鳴に近い声を上げながら、真宮は正面にいる悠斗の名を呼んだ。 
その問いに――――苦しくて倒れそうになるのを耐えながら、ハッキリとした口調で言葉を発していく。

「だって・・・真宮は、自分を刺すと・・・思っていたから・・・」

「なッ・・・」

優しく微笑みながら口にする彼を見て、言葉を詰まらせ何も言い返せなくなった。 悠斗は今――――真宮と、真宮が握っているナイフの間に立っている。
つまり――――真宮が自分へ向けてナイフを刺そうとしたところを、悠斗はその行為を阻止するように、自ら真宮の身体とナイフを持っている手の間に入り込んだのだ。
そして当然――――この光景を目にして動けなくなっているのは、二人だけではない。 この部屋の中にいる男たちも、思いもよらなかった出来事を見てその場に固まっていた。
今の一瞬で何が起こったのかを把握することに、数十秒かけ――――やっと現状を理解した一人の男が、真宮に向かって声を張り上げる。
「おい真宮、お前は何をしている! 早く結黄賊のリーダーを刺せ!」
「ッ・・・」
その言葉を聞いて、瞬時に反応したのは――――悠斗だった。 彼は背中から流れている血には気にも留めず、その場で仁王立ちして両手を左右に大きく広げる。
まるで結人を――――自らが盾となり、守っているかのように。 いつの間にか悠斗の背中から抜かれていたナイフは、当然彼の血で真っ赤に染まっていた。
だがあまり深くまでは刺さっていなかったようで、刃の先だけが血で滲んでいる。
いくら背中に刺されたといえども、悠斗が無事なままで済むわけがない。 そんな彼の異常さにここにいる者は再び絶句するが、一人の男が再び声を上げる。
「な、何なんだよコイツ・・・ッ! お、おい! 今すぐ向こうにいる奴らから、何人か応援を呼べ!」
「は、はい!」
指示されたドアの近くにいた男は、結人たちの横を走って通り過ぎこの部屋から姿を消した。 そして急に訪れた重たい空気の中――――悠斗が小さな声で、言葉を放つ。
「ユイ・・・」
「・・・え?」
結人からは悠斗の表情など先刻から全く見えていないが、声から“今とても苦しいんだ”と感じることができた。
そんな彼を少しでも楽な態勢にさせてあげようと、ゆっくり近付くが――――

「真宮のせいじゃ・・・ないから」

「ッ・・・」

またもや悠斗の言葉に、足が止まってしまう。
―――真宮のせいじゃない・・・?
―――悠斗は、真宮のことを何か知ってんのか・・・?
真宮の事情を何も知らない結人は、その発言を聞きより混乱の中へと陥っていく。 そんな中――――先程部屋から出て行った男が、勢いよく走って戻ってきた。
「だ、駄目です! 全員やられました!」
「ッ、何だと!?」
部屋の中へ着くと同時に発せられた言葉に、ここにいるみんなは無意識にその男へ注目する。
―――みんな・・・無事だったんだな。
そわそわして焦り出す男らの中――――結人だけは、その言葉に少し安心感を覚えていた。





―――終わったん・・・だよな?
肩で呼吸をしながら、身の回りに横たわっているクリアリーブルの連中を見渡して確認する夜月。
結黄賊とクリアリーブルの抗争は――――予想していた通り、結黄賊の勝利だった。 といっても、完全勝利とは言い難い。
普段なら無傷で終わっていたといっても過言ではないが、今回ばかりは相手の人数もあり結黄賊の身なりは凄まじくボロボロだった。
中には何箇所も怪我している者もいて、その場に苦しそうにしゃがみ込んで身体を休ませている仲間もいる。
―――そういや・・・コウは・・・。
コウが先程までとてつもないオーラを纏いながら喧嘩していたことをふと思い出し、前にいる彼のもとへ足を進めた。
「コウ・・・大丈夫か?」
流石結黄賊のエースと言うべきか、彼の身なりは無様な姿にはなっていなく顔に数箇所しか傷を負っていない。
その場に立ち尽くしずっと俯いているコウに静かに尋ねると、夜月の方へ視線を移動させながら優しい口調で答えていく。
「あぁ、大丈夫だよ」
「優の敵は取れたか? 優をやった犯人は・・・」
「コイツだよ」
周りにいる相手をキョロキョロしながら探していると、彼は自分の目の前で横たわっている一人の男へ目をやりながら合図した。
だが夜月は、その姿を見ると静かに息を呑み――――その様子を見たコウは、苦笑しながら言葉を続けていく。
「いや・・・。 別に気絶させるつもりは、なかったんだけど」
「そ、そうか・・・」

―――コウはいくら仲間で自分を犠牲にする奴だとしても、怒らせると怖いんだな・・・。

改めてコウの強さを実感した夜月は、彼から逃げるように他の仲間のもとへと足を進めていく。
「未来。 ・・・二人の居場所は、聞き出せたか?」
「・・・どうして・・・。 真宮が・・・」
「・・・は?」
壁に寄りかかっている未来に尋ねるが、求めた返事とは違う答えが返ってきて困惑する。 
だが彼の些細な発言には意に介さず“聞き出せなかったのか”と理解した夜月は、この空間になおも横たわっているクリアリーブルの連中に向かって声を張り上げる。
「おい! 俺たちの仲間、二人をどこへやった!」
「「「・・・」」」
相手のほとんどは意識がありその言葉を耳にするが、誰も答える者がいない。 そんな彼らを見て気に障り、横たわっている連中を見下しながら冷たく言い放つ。

「どうしても言わねぇってんなら・・・言うまで、まだ痛め付けてやってもいいんだぜ?」

「あ、あのー・・・。 夜月?」

「あぁ?」

カッコ良く決まった台詞をいとも簡単に受け流された夜月は、より不機嫌になりながら声の方へと視線を移す。 
そんな態度に一瞬驚きつつも――――名を呼んだ御子紫は、怖くて目が合わせられないのかそそくさと用件だけを伝えた。
「いや、その・・・。 ユイが、戻ってこねぇんだけど・・・」
「・・・ユイ?」
「・・・」
険しい表情をしながら聞き返してくる夜月を目にし黙り込んでしまう御子紫を見て、椎野が彼の続きを代弁する。
「さっきここへ来たんだよ。 ユイがさ」
「え、それ本当か?」
「あぁ」
―――どうして、ユイがここに・・・?
突然放たれた言葉に、夜月が必死に頭の中で整理していると――――突如背後から、低くて感情のこもっていない声が聞こえてきた。
「椎野・・・。 ユイはどこへ行った」
「え?」
いきなり尋ねられた椎野は思わず聞き返してしまうが――――未来はゆっくりとその場に立ち上がり、仲間を睨み付けもう一度冷たく言葉を言い放った。

「ユイは・・・どこへ行ったんだ?」


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