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文化祭とクリアリーブル事件。
文化祭とクリアリーブル事件⑥⑧
しおりを挟むそして――――真宮が男にナイフを手渡される光景を目にしつつも、悠斗はなおも拘束された縄をどうにかしようと試行錯誤し続けていた。
流石に今の状況を目の当たりにしては余裕がなくなり、悠斗も急に焦りそわそわし出す。
―――早く、早く縄を解かないと・・・!
―――このままだと、真宮は・・・。
真宮と男のやり取りを目を離さずにじっと見ているが、意識は完全に腕の方へ集中させていた。 縄が解けるのは今か今かと、待ち侘びながら――――
―――縄には、解けない結び方がある。
―――それを実行しない限り、簡単に外れるはずなんだけど・・・。
悠斗が一人でもがき苦しんでいる中――――真宮はナイフを手に取ったまま、ゆっくりと目の前にいる結人の方へ足を近付けていった。
―――マズい、早くしないと!
彼が早速動き出し、悠斗は先刻よりも焦り出す。 拘束されている縄をどうにかして解こうと、棒に殴り付けたり地面に擦り付けたりしながら性質を少しずつ弱らせていく。
「おい・・・。 真宮? お前、何をしようとしているんだよ」
ナイフを手にしたまま少しずつ近付いてくる真宮に対し、結人は顔を強張らせながら声を肺から無理に絞り出す。
だが彼は何も言わずに、俯いたまま足を前へ前へと進めていくだけ。
この部屋の中にいる3人の男らは誰も口を開こうとはせず、かといって動くわけでもなく、ただ遠くから彼らの様子を静かに見守っていた。
真宮が結人との距離を徐々に縮めていくのを見て、悠斗は無我夢中になり縄を解こうとする。
―――早く解けろよ!
「なぁ・・・。 真宮・・・」
いつの間にかこの部屋のドアは閉められており、抗争の音でうるさかったこの場所が今は少しだけ静まり返っていた。 そんな中、結人の震えた声だけがこの室内に響き渡る。
―――違う、真宮は・・・。
結人はその場から一歩も動けずにいた。 今から何をされるのか分からなくて、突っ立っているわけではない。 ただ怖くて足がすくみ、動けなくなっているだけなのだ。
『お前がこの手で、自ら結黄賊を終わらせろ』という言葉の意味は、今の状況や真宮の事情も何も知らないが、二人はある程度のことは推測できていた。
“真宮に、殺される” そうとしか考えられなかった。 『結黄賊を終わらせろ』というのは“結黄賊のリーダーを殺して終わらせろ”という意味。
その意味が、男が口にした瞬間に理解できた結人は、凄まじい恐怖に襲われその場から動くことができなくなっていた。
―――違うんだよ、真宮は・・・!
真宮と結人の残りの距離は約5メートル。 徐々に距離がなくなっていく彼らに、必死に悠斗は腕を動かし続ける。
そしてそんな気持ちに応えるように、縄の性質は少しずつ弱くなっていた。
―――真宮は、ユイを殺そうとなんかしない。
―――真宮は、結黄賊を殺さないんだ。
―――・・・そう、言っていたじゃないか。
腕と同じように、悠斗の気持ちも焦り出し鼓動がだんだん早くなっていく。
そんな緊張感を交え複雑な感情を持ち合わせたまま、クラウチングスタートをするような態勢をとった。 二人の残りの距離は、約4メートル。
―――早く止めないと!
―――真宮は、絶対にユイを刺さないんだから!
そしてついに――――悠斗の熱い意志が伝わったのか、縄が千切れ腕は解放された。 だがその喜びを感じる間もなく、その場から勢いよく走り出す。
―――だから・・・だから、俺が真宮を止めないと・・・!
悠斗が二人のもとへ着くと同時に――――真宮はナイフを力強く握り直し、思い切り前へ突き出した。
―――どうして・・・真宮が・・・。
その頃未来は、偽真宮の上にまたがりながら鉄パイプを持っていた右腕を力なく下ろし、彼の発言を何度も頭の中でリピートさせていた。
―――真宮が、ユイをやった・・・?
今感じているのは、真宮に対する怒りではない。 何も感情なんて、今は持ち合わせていなかった。 ただただ、混乱の中へと沈んでいくだけ。
偽真宮は今もなお下にいて、脱力している未来を今のうちに攻撃し逃げるチャンスなのだが、一発殴る気力すらもないのかずっと倒れたままでいた。
だが――――そんな彼らの背後から、ゆっくりと近付く男が一人。 その者は傍に落ちている鉄の棒を手に取り、そっと立ち上がって足を前へと進めていく。
そんな大胆な行動でも今は気配すら感じられず、未来は何も反応をしないでただ自問自答を繰り返し続けていた。
―――意味が、分かんねぇ。
―――どうして真宮が、ユイをわざわざ階段から突き落したりしたんだよ。
―――つか・・・コイツが言ったこと、本当なのか?
―――真宮がやったっていうこと、信じてもいいのかよ。
―――俺は今でも、真宮のことを信じているんだ。
―――そんな簡単に・・・仲間を、疑えるわけねぇだろ・・・!
今自分の下にいる偽真宮の発言を信じた方がいいのか信じない方がいいのか、真宮のことを疑うべきか疑わないべきか、これらを迷い周りには意識など向けていなかった。
そして今がチャンスだと思ったのか、背後まで近付いた男は未来に向かって鉄の棒を振り上げ――――
「ッ! おい未来!」
「え・・・?」
突然名を呼ばれ、恐る恐る首を後ろへ回していくと――――そこにはコウが、相手の持っている鉄の棒を素手で受け止め抵抗している姿が目に入る。
そんな恐ろしい光景を目の当たりにし、衝撃的なことを続けて味わった未来は何も口にすることができなかった。
それでも動けずその後ろ姿をずっと見ていると、コウは相手に攻撃をしながら少しだけ未来の方へ目をやり、力強く言葉を放つ。
「未来! まだ抗争は終わってなんかいないんだ、しっかりしろ!」
「あ・・・」
普段あまり感情的にならない彼の強い言葉を耳にするが、やはり何も言えず動けない。
周りにいる相手は全てコウが相手をしてくれて、未来は無事に助かったのだが――――
「先輩! 未来先輩、大丈夫ですか?」
近くにいた後輩が未来の様子がおかしいと気付き、近付きながら口にした。 そして力が入っていない身体を支えてもらいながら、ゆっくりとその場に立ち上がる。
「先輩、とりあえず安全な場所へ。 壁際の方へ行きましょう」
―――おい真宮・・・お前は今、どこで何をしているんだよ。
もはや後輩の言葉すら耳に入ってこない未来は、深く深く暗い世界へと沈んでいく。 そして――――とてつもない恐怖が、一気に襲いかかってきた。
―――真宮が、俺たちを裏切った・・・!
「未来先輩!!」
「ッ・・・!」
耳元で大きな声で名を呼ばれやっと我に返り、隣で自分の身体を支えてくれている後輩の方へ視線をゆっくりと移動させる。
「あ・・・。 俺・・・」
「大丈夫ですか? 未来先輩。 少し、ここで休んでいてください」
そう言って未来の身体をその場に下ろし、壁に背中を預けさせてくれた。 そして今の現状を理解しようと必死に辺りを見渡し、仲間の無事を確認する。
だがその様子を隣で見ていた後輩は小さくクスリと笑い、未来に向かって小さな声で呟いた。
「大丈夫ですよ、先輩」
「え・・・?」
再び視線を戻すと、それに続くよう彼は仲間の方へ目を移動させ、微笑みながら言葉を紡ぎ出す。
「ほら、見てください。 もう俺たちの勝ちです」
後輩が言った通り――――クリアリーブルの連中は、皆一様に無力化しその場に横たわっていた。
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