心の交差。

ゆーり。

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文化祭とクリアリーブル事件。

文化祭とクリアリーブル事件⑥⑦

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ずっと躊躇っている御子紫を何とか説得し、結人は一人で男に付いていく。 仲間が今苦しい思いをしているのなら、自分もその痛みを味わわないといけない。 
そうでないと、納得しない。 だからそう決断し、覚悟を決めて一人で個室へ向かおうとした。 

そして――――部屋のあるドアの目の前まで来て、男は一歩横にズレる。 その行為が“自分で開けろという意味か”と察した結人は、意を決してドアノブに手をかけた。
“中へ入っても平常心を保とう”と心がけ、ゆっくりと扉を開ける。 その瞬間――――思いもよらなかった光景が、目の前に一瞬にして広がった。
―――・・・何だよ、これ。
中の様子を見て唖然とすると同時に、そこにいた仲間である彼の声が結人の耳に届いてくる。
「・・・ッ、ユイ!」
「・・・」

―――真宮・・・悠斗・・・。

二人は2メートルくらいの間隔を空けその場に座り込んでおり、両手が後ろに回され前からでは見えないということから、彼らは拘束されているのだと瞬時に把握した。
結人がドアを開けると、その姿を見た真宮は思わず名を叫んでおり、一方悠斗は一度視線を合わすがすぐにそらしてしまう。

―――どうして、お前らがこんなところに・・・。

言葉も出ない状況に絶句していると、様々な感情が一気に湧き出てきた。 だけどそれらに嫌気が差した結人は、やっとの思いで第一声をクリアリーブルの相手に向ける。
「おいお前! コイツらに何をした!」
「・・・」
この部屋まで案内をしてもらった男に向かって声を張り上げるが、相手は驚きもせずドアの前でなおも突っ立っている。
そして何も言い返してこないことに腹が立ち思わず舌打ちをすると、仲間である真宮が小さな声で話しかけてきた。
「ユイ・・・」
「え・・・? 何だよ」
男に完全に意識を持ってかれていた結人はその声に反応し、すぐさま仲間の方へ思考を切り替える。
なおも動揺した目で真宮のことを見ていると、彼は今にも泣きそうな表情でゆっくりと言葉を紡ぎ出した。
「ユイ・・・。 ごめん、全て・・・俺のせいなんだ・・・」
「は・・・?」
「ごめん、ごめんごめん・・・」
意味が分からず不審な目で見つめていると、突然彼は狂ったように“ごめん”を連呼し出した。 その様子を不気味に感じた結人は、すぐさま止めに入る。
「おい真宮、いったん正気に戻れ! 落ち着け! ・・・意味が、分かんねぇ。 お前何を言ってんだよ?」
奥にいる真宮の方へ、ゆっくりと足を進めた。 すると――――

「だって・・・。 こうでもしねぇと、彼女が・・・」

―――彼女?

いきなり真宮から出た“彼女”というワードが何故か引っかかり、思わず足の動きを止めてしまう。
彼が言っている“彼女”というのは一体誰なのかも分からないが、結人は嫌な予感しかしなかった。

―――真宮・・・彼女って、どういうことだよ。

本当は口で発して聞きたいのだが、どうしても言葉にして言えずその場に立ち尽くし続ける結人。 そしてそんな背後から、ゆっくりと足を進める者が一人いた。
「・・・ッ!」
背後からの気配を一瞬で感じ取り警戒するが、どうやらその男は結人には用がないようで、横を通り過ぎ更に奥へと進んでいく。
「・・・?」
意味の分からない行動をぼんやりと見つめながら立っていると、その男は真宮のいる横にしゃがみ込み、ポケットから折り畳み式のナイフを取り出した。
そして刃を出し、真宮の手元へ持っていき――――結ばれていた縄が切られ、彼は解放される。
―――何・・・してんだ?
なおも混乱している結人をよそに、背後からはもう二人の男が室内に入ってきた。 彼らは見張りなのだろうか、部屋の奥の隅へ行き様子を黙って見守っている。
そんな異様な光景を目の当たりにし結人は動けなくなっていると、縄を解いた男が真宮にナイフを手渡し、彼に耳打ちをするようある命令を下す。

「お前がこの手で、自ら結黄賊を終わらせろ」

―――・・・は?
男は真宮だけに向けてそう言ったのかもしれないが、彼は結人にも聞こえるようわざと大きめな声で言い渡していた。 だから当然相手の声は、結人の耳にも届いている。
―――・・・どういうことだよ、真宮。
『お前がこの手で、自ら結黄賊を終わらせろ』のような言葉が――――いや、確かにそう聞こえていた。





その頃、アジトの中では抗争が今もなお続いている。 今の状況に手応えを感じていながらも、彼らの体力は限界に近付いていた。
―――ユイに全体を見るよう言われているけど、人が多くて周りがちっとも見えやしねぇ。
夜月は相手を攻撃しながら常に周囲を気にかけているが、ほぼ敵だらけで仲間すら見えていない状況だった。
だが徐々に無力化していくうちにその場に倒れ込む相手が増えてきて、少しずつ見えやすくなってはいる。
―――このままいけば、俺たちの勝利だ。
夜月は他の仲間とは違い、長時間抗争が続いているというのに今でも勢いは衰えず、寧ろ最初よりも勢力がついていた。
―――そういや、コウの奴・・・大丈夫かな。
自分の体力にもまだ余裕がある夜月は、仲間のことを気にかける余裕もあった。 ふいにそんなことを思い、自分の目の前にいる俊に向かって声を上げる。
「俊! コウの様子はどうだ?」
コウがやられているという心配はしていないが“優の敵を取りたい”などという思いを込めているのなら、流石に彼でも暴走しかねない。
その声を聞いた俊は急いで前にいるコウの様子を確認し、再び視線を戻してその命令に答えていく。

「コウ先輩は大丈夫です、無事です! だけど・・・何か少し、怖いです」

―――怖い?
夜月は自分の周りにいる相手を一気に無力化し、俊の方へ足を進め様子を見た。 そこで目にしたのは、何も感情は感じられずただただ攻撃を繰り返しているコウの姿。
傍から見れば普通に喧嘩が強いだけの少年なのだが、今彼から出ているオーラは凄まじいものだった。 これ以上近付いてはいけないという危険信号が、自然と感じられる。
「はは・・・。 まぁ、仕方ねぇか」
そんな様子を目の当たりにしている夜月と俊は心の底から“コウは敵じゃなくてよかった”と思い安堵しながらも、二人同時に息を呑み込んだ。





その頃アジトの入り口から一番奥、結人いわく“ボスがいる”という一番前を担当していた未来は、先刻まで結黄賊たちと一緒に行動していた偽真宮と対決していた。
周りにいる男たちは全員既に無力化していたため、本当に前にいる連中は強かったのかなんて今更知る由もない。
だが未来は彼らを無力化してもまだ物足りず、目の前で倒れている偽真宮の上にまたがり押さえ付けた。
そして左手で相手の襟元を掴み、鉄パイプを持った右手を真上にかざしながら静かに尋ねる。
「おい、悠斗と真宮をどこへやった」
「ッ・・・」
偽真宮と未来の勝負は、言うまでもなく未来の勝利。 彼はこの連中の中では強い方なのかもしれないが、未来は皆底辺のレベルに見えていた。
未来から迫ってくる圧迫感に耐えられないのか、それとも襟元を掴まれてただ苦しいのかは分からないが、偽真宮は何も答えずに小さな声で呻き声を上げるだけ。
何も言おうとしないことに苛立ち、より大きな声で問い詰めていく。
「おい答えろ! 結黄賊のリーダー、ユイは誰がやったんだ! それだけでもいいから答えろ! おい!」
「ッ・・・」
睨み付けながら怒鳴るがが、なおも何も言おうとしない彼を見て、歯を食いしばり持っている鉄パイプを勢いよく振り上げた。
「答えろっつってんだろ!!」
その瞬間“コイツは本気だ、このままだと死ぬ”と思ったのか、偽真宮は苦し紛れに小さな声で答えていく。

「くッ・・・! ま、真宮だよ・・・ッ!」

―――・・・は?

未来はその言葉を聞いた途端、自分の中にある何かが一瞬で失われる感覚に陥った。


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